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平和って素晴らしい

「今日はどんなミッションなんだろう?」

 校舎を出て駅へと向かう道すがら鉄はカナンに聞いてみる。命がけのミッションの前には心の準備が必要だ。

「今日はミッションではなく、話があると琢磨から聞いています」

「話? 何の話だろ?」

「私もまだ聞いていません。ただ私達二人に話したいので、ちゃんと二人で来るようにと言っていました」

 フーンと相槌を打つ鉄。

 二人で来るようにと釘を刺すような話。どんな内容かはともかく、とりあえず本日は心と体の準備は必要ないらしい。良かった。鉄は内心ほっと胸を撫で下ろす。

「最近ミッション続きだったので、もしかしたら琢磨も私たちに気を使ってくれたのかもしれないですね」

「そうなんだ。結木さん、ヤサシイー」

 あの腹黒エセ神父に限って、カナンにはともかく、少なくとも自分に気を使うと言うことはまず、まずない気がする。彼とは出会ってそれ程間が無いが、それくらいは何となく分かる。あの柔和な仮面の下にある本性を垣間見た回数は今や片手では足りない。図らずとも相槌打ちは棒読みになっていた。

 そんな鉄の様子に気付くことなく、カナンは「そうですね」と微笑んでいる。

 出会って二週間と一日、いつの間にか鉄とカナンは並んで歩くようになった。

だが、鉄としては今も、出会った当初もカナンとの関係は変わらない。

 パートナー。

 仕事上とは言えど、カナン曰くそんな畏れ多くも素晴らしいポジションにいるらしいが、神に復讐する力とその権利を与えられた聖女と、トラブル体質を生かして罪人を誘き出す囮役の一アルバイト。

 これが現実であり、適材適所、ギブ・アンド・テイクでビジネスライクな関係。

 友人でもあるがどちらかと言えば同僚と呼ぶのが正しいだろう。二人の間に存在する関係と言えば、そんなものだと鉄は思っている。

 しかし、すべてが変わらないかと問われれば、それは否。

 避けましょう。不穏な成り行き、怖い人。

 事なかれ主義であったはずの鉄が今となっては自分から不穏な場所へと飛び込み、トラブルの渦中の怖い人――罪人へと積極的に近づいて行っている。

 迷いがないと言えば大嘘になるが、破格のアルバイトのためとは言え人間変わるものである。

 そして変わったことがもう一つ。

 命がけのミッションに携わるようになってから、鉄はその他のトラブルに巻き込まれることが無くなった。特殊体質で引き寄せられるトラブルの容量と質にも限界があるのか、それはもう驚くほどにパッタリと。

 もちろんカナンと一緒にいれば、やはり周りの視線がチクチク、いや、グサグサする。それが居たたまれないのは変わらないし、億劫なのは否定できない。

 だが彼女と関わることで予想していた更なる面倒に巻き込まれる事は全くなく、電車で痴漢に間違われることも、何故かラッシュアワーにSuicaに拒否られ、苛ついた視線を送られることもなくなった。

 鉄はアルバイト時と言う超ド級の非日常を除いて、日常に置いてはいわゆる本当にごくごく普通の高校男子・江川鉄となっていたのだ。


(これが普通か。普通って、素晴らしい。誰だよ、普通が退屈だって言った奴!)


 これが聖教会の神様のご利益だと言うのなら、和洋折衷から改宗しても構わない。むしろこちらから頭を下げてお願いすべきだろうか。そう思えるほどに、十七にしてようやく手にした小さな平穏に鉄はやや戸惑いながらも、その緩やかな日々を噛み締める。

 顔を上げれば、抜けるように青く高い空。それを仰ぎながら鉄は歩く。

「鉄くん、なんだか楽しそうですね」

呆けた顔をしていたに違いない。フフと微笑むカナンに小首を傾げて訊ねられて、決まり悪くも鉄は正直に答える。

「いや、なんか平和だなーと思って」

「そう、ですね」

「ぁ……」

 聖女の笑みを浮かべて同意するカナンを見て鉄は静かに焦った。


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