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3話 死

どれぐらい時間が過ぎただろうか、耳をくすぐる草に現実へと呼び起こされる。


気付けば仰向けに倒れていた。


…待てよ?一度整理しよう。


まず俺は鑑定を何度か行なった。その途中で頭痛は治っていたはずだ。つまり頭痛で寝てたわけじゃない。


最後に見た光景は...確かMPが枯渇していて...


もしかするとMPが0になると強制的に意識を失うのか?


戦いの最中にMPが切れたらはた迷惑どころの騒ぎじゃないな。


…ん?MP消費が小数点を刻んだということは…もしかして鑑定って割合消費なのか?


ともするとかなり高燃費な魔法かもしれないな。


「ん…気絶してた…で合ってるよな?桐生」


先輩も目を覚ましたようだ。


「はい、俺も寝てたんすけど…」


「僕みたいに頭痛か?やっぱりきつかったか」


「あいえ、それはないです」


「そう…」


目が覚めたとはいえまだ起き上がることが難しいらしい先輩は首だけをこちらに向けて話をしている。


しゅんとしてしまった…元々は薦めた俺の所為でもあるため少しきまりが悪くなってしまったな。


「…なぁ桐生。続きやるか?どっちにする」


先輩はちょうど体を動かせるようになったのか体を起こしながら俺に聞き、本をペラ…ペラ…とめくり始める。


「多分寝たしいけると思います。やりましょう」


「うん。やろう」


先輩は本を捲る手を止めて音読を再び始めた。


「初回の鑑定時には総量の10分の1の魔力を必要とし、レベル1での他人の鑑定も同じ量を必要とします。その後はレベルや調べる対象によって異なりますが、レベルが2の状態なら魔力は微々たるほどしか消費されませんので赤子でも魔力切れになることはないでしょう」


…普通の人>赤子>俺…ね。


いやワーストどころじゃねぇ〜


最底辺中の最底辺じゃん俺…あれ?体力もない魔力もない。何が残った?


……いや!まだスキルがある!スキルの能力分からないけど…それに希望を抱くしかない。


「お、今から書くことは魔力の総量を上げるうえで大切なことだって。僕もやってみようかな」


なに!魔力の総量は増えるのか!低い魔力が埋まらない差になるわけではないのか…


よかったよかった…


何も良くないことは置いておいて、その方法にしっかり耳を傾ける。


「これにはポーズも影響するらしい。見ててね、まず足を組み、手の甲を膝に乗せる…瞑想だねこれ。なお、足をたたんで手を使い足の間で輪っかを作る…正座版の瞑想だねこれ。この体制どちらでも差異は見られないらしいよ」


先輩のポーズにならい…女性の恥じらいというものを思い出して先輩とは違う正座をして瞑想の形をとった。


「次に魔力の出所を理解する。魔力が流れていることを意識するとよい…ふむ」


魔力の循環…ね…正直何も感じられない。


適正ないのかな?もしかして俺。


それは嫌だ〜!


「あ。ごめん、ここ重要じゃないらしい。魔力の動力源は心臓部分で、血液中に魔力があると思えばいいのか…魔力の出所を自力で見つけるのは魔法の才能に溢れていても難しいから冗談のつもりで描いた…は?」


先輩の頭に青筋がピキッと現れた。


これは先輩が怒る寸前に出すサインだ。


この体の親が酷いことを話していた時もこのサインが出ていた。


「ま…まぁいい、魔力が流れているのを感じれたら、それが速く循環するように、出所から魔力をより大量に押し出すことを意識すると良い」


しばらく、2人とも黙々とやり方を模索していた。


まず、魔力が体を流れるイメージは割とすぐに掴めた。


魔力切れを経験し、体に流れる魔力が消える感覚を体験して感覚が身についていたのだろう。


とは言っても流れが全身に行き着く前に止まってしまっているが、これは俺の理解不足?と言ったところから来ているのだろう。


しかし、真の問題はここからで、それを意識的に増やすというのが全く持ってイメージできない。


それこそ血流を操作しろと言っているようなものだ。


「…もしかしたら、これが参考になるかも…?」


こっちに来てという合図の元、先輩の元に寄ると本の一部を見せて来た。


いや!だから俺読めないって!


俺の心情とは他所に本には人体図が載っており


「魔力はこのように胸を中心として至る所を満遍なく循環している…か」


複雑に描かれた魔力の通路は、しかしどれも胸に帰結し循環している。


それを意識して再びやってみることにした。


さっきまではなんとなく「胸あたりからじわぁと出てるような?」ぐらいの感覚だったが、放出ではなく循環のようにぐるぐると巡っていることを意識すると…


なんだか行けそうに思えて来たぞ!全然胸あたりで止まってるけども。


…いや!いけそうだ!そう思うことにしよう!


そして、魔力を消費する時は放出だ。


先輩が言うに、なにかが抜けていく感覚があるようなのだが...


ふむ…まったくもって分からんぞ?いやしかし——


「桐生。何か聞こえないか?」


いきなり肩を揺さぶられたもんで肩がぴょいと跳ねたが、先輩のこわばった表情とその音というものが気になり耳を傾けた。


ピギーッ!!フゴッ!プガーッ!


顔の血の気がスー、と引いていく。


豚の魔物?の鳴き声が耳に纏わりついて離れない。


ついには高さ2メートルを優に超える、可食部が半端なく大きい豚が視認できた。


「…逃げるか」


「全力で」


心なしか音が近づいてきた気がする。


2人とも同じことを思ったようで、お互いの顔を覗き込むとコクリと頷き——


合図も無しに同タイミングで走り出した。


初速から先輩に追い離されたのはなんだか物悲しかった。




「ハァ…ハァ…ちょっ先輩もっ…もう良くないっすか!?」


「…いや…もうちょっとかな」


結構走った気がするが、バテまくりの俺と違い、先輩は全く疲れていない様子であった。


…!?なんなら加速してるんだけど!?


「ッハァッハァッ!…あぁもうスカート邪魔ぁ!!」


走るフォームも崩れてぐにゃぐにゃへろへろになりながら走ること数分…


「…よし、こんなものかな。」


停止の合図がようやく出たため疲労から来る脱力感で全身に入れていた力が抜け、膝から崩れ落ちて地面に倒れ込んだ。


「ひぃ…ひぃ…もう無理…せんぱ…はぁ…はぁ…はや…すぎ…」


その間先輩は涼しい顔をしてもと居た魔樹海の方向を確認していた。


先輩の体の体力が有り余っているのか、俺の体の体力がカスなのか。まぁどっちにしろ...


運動でもしたろかな!ホント…


その後、魔樹海から町に戻り、先輩は家に、俺は図書館にと向かうべく先輩とは解散した。


図書館にて幼児向けであろう本を手に取る。


転生者特典あるあるの自動翻訳のバグとか、そもそもこの言語形態であるとか、様々な可能性はあるが文字を習得しなければならないという事実は変わりようがない。


そう、その事実は変えようがないのだ。


さっきはそっ閉じしたが、再び開き俺はこの言語を独学で習得してみることにした。


そのために図書館に再び来たのだ。


サンプルは増やしたほうが良いと幾つかの本を持ち出して机に広げた俺は——






寝た!


いやぁ...寝るつもりは毛頭なかったよ?ただねぇ...


「これ古文みたいだなぁ」と思ったが最後、探究心と言う意識から学びと言う勉強としての意識にすり替わってしまい急速に眠くなっていったのだ。


…というか子供の体だからなのか夏場に室外機の前に佇んでるときみたいに暑い!


噴き出る汗がワンピースと髪とを体に吸い付かせる。


エアコンとかがあればなぁと周りを見渡すと、気が付いたら周りに誰も人がいなくなっていた。しかも灯りがなく部屋が暗くなっている。


少し不気味な館内を歩いているとこの暗がりに灯りが1つ見えた。そしてそれはどうやら管理者の部屋のようで…ともすると俺は職員に見つからずに閉館後にやっと起きたってわけか?


これはまずいと思い大慌てで図書館から飛び出した。シャッターも無く扉も鍵がかかっていなかったのは不幸中の幸いか。


図書館から目を外し、空を見上げると…


夜だった


…起きた時点で知ってはいたがな。


いやはや、子供の睡眠量には驚かされるばかりだ。


恒星が地平線を越え、辺りはより一層暗くなっていった。


土地勘なんてものは持ち合わせておらず、自分の家の形ですらこの暗さでは分からず、


まさに八方塞がりだ。


もうただ呆然と空を見ることしかやることがなくなり空を仰ぐと雲ひとつない満天の星空が一面に広がっていた。


天まで無鉄砲な俺を嘲笑ってるのか?


いいだろう。今は天体観測を楽しんでやろうじゃないか。


月のような衛星も満ちている。3つもだ。


…空に月が3つあるの滅茶苦茶違和感あるな…


まぁ、慣れるか。




しばらくして心も体もウッキウキになりながら自宅を探していると———


ズシン!


耳が潰れるほどの何かが動く音に大地が震える。


音の方向を振り向くとキラリと光る大きな球が宙に2つほど現れた。


…うんきっと幻覚だろう。異世界に飛んで疲れてるんだろう。そうだそうだそうに決まってる。人魂とか、俺は信じていないからな!


目を擦りまぶたを再度開けるも2つの人魂…否!?


2つの眼球と目が合う。


直径にして10cmは裕に超えるその眼球をギロリ揺らし俺を睨み付けるその視線、時々月光で見える強靭な歯…


ん~...これは...死んだか?


全長おおよそ7メートルの二足歩行でムキムキなその魔物は俺をロックオンして離さない。


口をムの字に変え

体を回れ右して

音を立てずに

その場から全力で逃げた


ワンチャン音に反応するタイプの魔物なんじゃね?というふざけた考えは妄想に終わった。


ドシンドシンドシンッ!!


大地を揺らしながら家屋を平気で超える巨漢が俺めがけて走ってくる。


ですよね〜


重心を左右へと揺らしながら、しかし目だけはこちらを捉えまっすぐと向かってくる。


「なんで街中に魔物いるんだよおおぉぉ!!!!」


熊みたいに目を合わせて逃げればよかったかな!?


俺は涙目に叫びながら逃走を続ける。


しかし魔物の方がずっと速い。


永遠にも思えるこの1秒で魔物との距離は埋まってしまった。


角を曲がり、いよいよ死が目前に迫ったとき——


しめた!


茂みを見つけた俺はバッ!と茂みに身を投じ全身傷だらけになりながらもなんとか身を隠すことに成功した。


思い出したぜ。ティラノサウルスは動くものしか視覚出来ない。


そしてこいつも怖いしデカいからほぼティラノ。つまり習性は同じというわけだ。


そして茂みの陰からそっと外を覗くと…


グルルルルロロロロロ…フシュー…フシュー…


再び奴と目が合った。


ですよね〜


もう逃げる術はない。


やつはゆっくりと近づいてくる。


異世界行っても死ぬのかよっ…!!


くそっ!!早過ぎて後悔すらないぞ!


もう 奴との距離は 無くなった


あ…


死んだ…


あまりの怖さを、その現実を受け入れることなんかできずぎゅっと目を瞑った。






…あれ?


目の前にいる魔物は動きをぴたりと止めたかと思うと床に向かって落下した。


よく見るとあったはずの体が消え、重力に対抗する術を失った、ただの肉塊となった頭が床に転げた。


…は?


目の前の状況に理解が追いつかない。


助かった…のか?


とりあえず周囲を確認するために茂みから顔を出すと——


スライムがいた。


俺の考えているスライムは水色なんだが、目の前には紫色のスライムがいる。


「—————————」


なにか俺に向かって話しかけているようだ。何を言ってるのかよく分からない。


「は?人間?なんでいんの?」


「え?なにいって…」


「こりゃ相当なバカだな。ま、いいや。人間ってどんな味だっけ」


本能が全力で囁いている。


俺は殺される。こいつに一口で食い殺される…


いやだっ!

そんなのいやだっ!死にたくない!


「あ〜…こんだけ人間に苦汁を飲ませ続けられてきたってのに一口ってのも味気ないなぁ…そうだ!」


次の瞬間、俺の自重を支えるものがなくなり、視線が落下する。


不自然な高さに着地した。


骨がぶつかる音がした。


「あ"っっ」


「どう?人間はもっとその器ぐらい低くあるべきじゃない?」


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!」


足があああぁぁぁぁぁぁっ!!


足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が足が


やがて直立を諦めた俺の体は天を見ることすら許されないかのように前に倒れる。


「わーはっはっ!!!おもしろ!!」


俺の声は俺の喉は何を考えるのも停止させるように例え喉が潰れようと声を出し続ける。


それは、痛みから逃れる為。考える理性の力ごと本能は押し除ける。


「がっ!!?がぼっあぁ!!あ"あ"あ"——」


「あーはっはっ!…うるさいな」


「ピェ」


喉から出てはいけない音がした。


首に刺さった何かは脊髄を悉く破壊する。


体は脳の命令を聞く術を失った。


そして——


脳は信号を発する術を失った。


「ふふ、みっともないね」

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