放火
後からきた山形を置いて、肇は元いた部屋に戻った。正憲の姿はなかった。警備員が写っているディスプレイに向かって肇が叫んだ。
「父はどこへ行った……」
警備員が答えた。
「その階にある冷凍保存装置のあるゾーンだと思われます」
「冷凍保存……そこになにが……吟兄さん?」
「私たちはそこまで知りません……」
山形が部屋に駆け込んできた。
「だめだ。いくらボタンを押してもエレベーターが反応しない」
警備員がそれを聞いて教えてくれた。
「ここのエレベーターは帝都のセキュリティシステムが働いています。B2からの移動やB2への移動には生体認証システムを通過する必要があり、上層部のごく一部の人間か、あらかじめ登録してある人間しか操作することができないようになっています」
「それじゃ、私たちは閉じ込められてしまった……」
山形はそう言ったが、肇には思い当たることがあった。
「いや、だいじょうぶです。それより冷凍ゾーンに行ってみましょう」
肇と山形はその部屋を出て廊下を進んだ。「Frozon Zone」と書かれたエリアがあった。そこにはストレッチャータイプの冷凍保存装置が何台か並んでいた。底には四つのキャスターが付き、全体は上げ下げできるようになっていた。箱型の装置には各種モニターが装備されているようで、装置内部の温度が表示されていた。装置の上部は透明のスクリーンになっていた。肇がそのうちの一つの中を覗き込んだ。
「吟兄さん」
一台の装置の中は御手洗吟だった。肇は隣の装置の中を覗いた。
「蓮!」
もう一台の中には御手洗蓮がいた。肇は何も言わずに二台の冷凍保存装置を押し始めた。それを見て山形が言った。
「後にしましょう。今は自分たちが助かるのが先決です」
※ ※ ※
その頃、地上の指揮車両では猪熊たちが肇のカメラからの映像をくいいるように見ていた。ディスプレイの一つに別荘が映っていたが、その別荘で爆発が起き、炎が大きく燃え上がった。調査官が操作するとカメラが上昇したらしく別荘内部が映った。猪熊はマイクに向かって叫んだ。
「それほど悠長にはしていられないようです。別荘で爆発が起こっています。」
ディスプレイ内蔵のスピーカーから肇の声が聞こえた。
「爆発ですか?」
「そうです。かなり大きい」
猪熊がそう答えたとき、別荘が写っているディスプレイの映像では別荘の近くに田所の姿が映った。高木がその顔を見て言った。
「これは……田所……」
肇の声がした。
「田所所長がなにか……」
映像では田所が手にポリタンクを持っているのが映った。
「田所が別荘に火をつけたようです」
猪熊が叫ぶと肇の驚く声がした。
「え?」
「早く避難した方がいい。火の回りが早い」
猪熊の言うとおりだった。木造の別荘は建てられて間もないだろうに赤い炎にみるみるうちに飲み込まれていった。
そのころ別荘の地下二階では、二台の冷凍保存装置を押しながら肇と山形が廊下を進んでいた。
「どうも別荘で爆発があったようだ。すまないが、この二人を助けるのを手伝ってくれ」
山形は最初抵抗していたが、肇の強い態度に折れた。肇の数奇な運命を思い、また二人が肇にとって大切な人だということがわかるから、手を貸すことにした。
「しょうがないな……しかしエレベーターが動きませんよ」
「もしかしたらと思うことが……」
肇はそう言うと、エレベーターの入り口まで来て、指紋認証用のパネルに指をあて、上階ボタンを押した。一瞬間があってから地上に停まっていたエレベーターが地下に向かって動き始めた。やはりと肇は思った。そのパネルの上に帝都セキュリティのマークのシールが貼ってあったからだ。
「やったー」
山形は子供のように喜んだ。
その頃地上では、猪熊たちが乗った指揮車両が門をぶち破って別荘の中に入った。庭まで来て止まり、車両から猪熊と二人の調査官、高木が降りてきた。別荘はいっそう激しく燃えていた。田所が猪熊たちに気がつき逃げようとしたが、調査官らが取り押さえた。




