出血
「御手洗さん? どうしてここに?」
肇は突然現れた山形に驚いた。
「山形さん、あなたこそ、話の途中で突然消えてしまったので心配していました。なぜここに?」
「あのとき男たちに拉致されて……気がついたらここに……ここはどこなんですか? 生命ラボではないようですが……」
「父の別荘の地下室です。木下さんでしたか? もう一人の研究者の方は……」
山形は訳がわからないとでも言いたげに頭を左右に振ってから言った。
「木下なら私と一緒にいます。二人とも外出どころか、外部と接触することすら禁止されているので家族が心配です。ずっと地下二階に閉じ込めれらていたんですが、今日初めて隙を見てこの階にきてみたんです」
肇は自分の子供の頃にそっくりな人間が入っている袋を指差して言った。
「これは……わたし?」
「御手洗さんのデュープです。まだ一年足らずのようなので十歳くらいですか……別荘とは聞いていますが……場所はどこなんですか? 私はここがどこかすら知らないんです。所長も言わないし……」
「山梨県の河口湖の近くです。私のデュープを作ってなにを……」
「予備だと思うんですが……」
「予備?」
「正憲社長からの指示だと思います。肇さんの身になにかあった場合、すぐに対応できるようデュープを用意してあるのでしょう」
「まるで部品取り用ですね……」
山形はうなずきながら言った。
「事故のときには、たまたまデュープがあったから対応できましたが、そういつも用意されている訳ではありませんので……」
「事故のとき……やはり私はデュープなんですね……」
「デュープと言っても脳移植まで行っているんですから、ホンモノと言っていいでしょう」
肇は山形のその言葉を聞いて思わずため息が出た。
「ホンモノ……本物ってなんですか? 脳が本人なんですか?」
山形には答えられなかった。
「教えてください」
そう言ったとき、肇の耳から血が垂れ始めた。
「血が……」
山形が垂れ始めた血を指差しながら言うと、肇は手で顔のあちこちを触り、その手を見た。最後に耳の周りを触って、その手を見て驚いた。
「いつからですか? 耳以外にどこから出血しましたか? 目はどうですか?」
山形の質問に鬼気迫るものを感じて肇が答えた。
「最近です。二週間くらい前から……耳のほか、鼻から……目から出血したことはありません」
「成長促進は木下が専門で、私は専門ではありませんが、鼻や耳から出血し、やがて目からも出血する頃になると、内臓からも出血が始まり……いわゆる細胞崩壊の始まりと思われます」
「細胞崩壊……聞いてはいます。そのあとどうなります?」
「激しい痛みを伴うようです。骨や肉の細胞崩壊は最後の段階で、もう動けなくなるはずです。そして……死に至ります」
肇は力なく繰り返した。
「死……」




