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臨終

 帝都製薬社長室には、秘書がいる部屋を通って入ることになっていた。社長室への出入りを秘書が管理するにはそのほうが便利だったからである。その日、前から頼まれていた話について、木村典子は正憲からあらためて頼まれることになった。正憲は自分のデスクに座って立っていた典子に説明していた。

「というわけで、吟を助けるため、代理母として吟の弟か妹を産んでくれる女を探している。どうだ、木村くん、君がやってくれたら安心なんだが」

 典子は迷っていた。

「そうすれば父の工場を助けてくれるんですね?」

「蒲田にあるあの工場だね。わかった。資金援助じゃ足りないだろう、工場、会社ごと帝都グループでバックアップするようにしよう」

「ありがとうございます、社長」

 正憲は満足そうにうなずいてから言った。

「無事に出産してくれたら子供はそのまま私たちが引き取って育てる」

「わかりました……ただ……」

 典子の言葉に正憲はけげんな顔をした。

「ただ?」

「私にも相談しないといけない人がいるんです。その人と相談してから返事させてください」

 正憲は一瞬不機嫌そうな顔をしたが、相手に気づかれないうちに笑顔になって言った。

「おお、そうかい。そういう人がいるんだ……だれかな?」

「それはまだ、社長にも言えません」

「そうか……」

 正憲は立ち上がるとくるりと振り返って窓の外を見ながら言った。外はもう暗くなってきていた。

「お茶を入れ替えてくれないか?」

 正憲の頼みに典子は答えた。

「え? はい……」

 典子が正憲のデスクの脇にゆき、茶碗を取ろうと右手を伸ばすと、その手を正憲が握りしめた。

「社長、なにを……」

 茶碗が典子の手から落ちた。典子の左手も正憲が握りしめたので、典子は動けなくなった。

「社長、やめてください……」

 正憲が典子の両手を握りしめながら抱きしめた。典子は首を左右に振って必死に抵抗した。正憲は片手で典子の両手を握り、空いた片手で典子の洋服の前を破った。典子は悲鳴をあげた。

「君に対して手荒な真似はしたくない。私に身を任せなさい」

 正憲の言葉には有無を言わせない力があった。


※    ※    ※


 ベッドに横たわった典子の息が荒くなってきた。

「そう、社長が無理矢理わたしを……」

「そんな……」

 鈴木は正憲という男を信じてはいなかった。しかし典子を従わせるためにその体まで利用したとは想像もしていなかった。

「そうなの。だから私、あなたにふさわしい女じゃないと思って、代理出産の道を選んだの」

 鈴木の顔は怒りで真っ赤になっていった。

「ほんとうにごめんなさい」

 典子が激しく咳き込んだ。

「典子、しっかりしろ」

「ねえ、あの子に伝えて」

 鈴木はナースコールのボタンをなんども押した。

「なにを」


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