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背信

「外事課からたくさんの諜報員が日本に入国しているという連絡がありました。いわゆるアラートが出されたんです。最初はたんなる偶然かと思いましたが、彼らがみな帝都グループの生命ラボに関心を持っていることがわかって、われわれも生命ラボについて調べ始めました。驚きましたね……日本でこんな先端的な研究が行なわれているとは……生命倫理がどうのこうの言っているまにここまで実現しているとは……」

 ディスプレイには体外受精やクローン技術に関する映像が次から次へと映し出された。

「たとえば北朝鮮……指導者というか独裁者が、じつは何人かの影武者がいるんじゃないかという噂は聞いたことがあるでしょう」

 ディスプレイには北朝鮮の金正恩キムジョンウン総書記の映像が映し出された。

「影武者を探すのも大変でしょうね……髪形を似せて、太ったりやせたり……独裁国家では暗殺の危険性もあるので、指導者はいつも影武者が必要です。しかしデュープがいればどうでしょうか? アメリカやアラブの富裕層にとってはどうでしょうか? 自分が病気になったとき、病気になった臓器を移植するために自分とまったく同じデュープがいれば、安心できますね」

「それで各国から諜報機関が……」

「まあそういうわけです。しかしどうしていっせいに各国の諜報機関が動き出したんでしょうね?」

「そんなこと私が知るわけないじゃないか」

 猪熊は鈴木の顔をゆっくりと眺めながら言った。

「いやあ、そうですか? 私は各国の諜報機関宛てに情報をリークしたものがいるんじゃないかと思っているんですよ」

 鈴木は黙りこくっていた。

「鈴木さん、あなたじゃないですか?」

 猪熊の指摘に鈴木は顔を背けた。

「……まさか……」

「あなた海外のサーバー経由で、各国の諜報機関宛てにメールを送信してませんか? なあ?」

猪熊は途中まで話してから、車に同乗して機器を操作している二人の男女に問いかけた。男女は黙ったままうなずいた。

 猪熊はゆっくりうなずいてから言った。

「ね。鈴木さんだ」

 鈴木は黙ったままだった。

「いや、いいんですよ。メールを出したって。知りたいのはその理由なんですよ。帝都グループの、役員の秘書をされている鈴木さんが、会社を裏切るようなまねをなぜしたのか? それを知りたいんです。御手洗正憲社長の懐刀とさえ言われているあなたがなぜ? グループ内の権力闘争の一環ですか?」

 長い沈黙があった。鈴木は顔を上げ天井を見てため息をついてから、正面を向き直した。そして言った。

「帝都グループですか? あんなもん無くなってしまえばいいんです」

「ほお、それはまたどうして?」

「帝都は……御手洗正憲という男は、俺の愛する女の人生をめちゃくちゃにしたんだ」

「女?」

「ああ、昔、同じ秘書仲間だった木村典子という女がいた。俺と典子は結婚の約束までしていたんだ……ところが……」


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