倉庫
長野に連れられて行った帝都セキュリティのアーカイブ課は倉庫のような部屋だった。壁のラックには年月日と場所が書かれたシールが貼ってあったが、多くはHDDだった。正面の壁には多数のディスプレイがかけられ、映像が映っていた。アーカイブ課の人間と思われる二人の男が操作盤の前に座っていた。一人はジーンズにTシャツの先ほどの男だったが、もう一人も似たような感じの私服で耳にピアスをしていた。Tシャツの男が言った。
「十年前のものでもカメラの映像は残っていますよ。帝都グループ傘下のそれぞれの企業で映像は保管していますが、定期的に過去の映像を帝都セキュリティのこちらのセンターに送信しています。膨大な量ですが、いまストレージは安くなりましたからね。今映っているのが当日の帝都銀行の映像です」
高木がディスプレイを見ながら肇に話しかけた。
「エレベーターや廊下の映像はありますが、非常階段は映してないんですね?」
「そうですね……屋上周辺にもカメラはないようです。だとすると非常階段を使えば、カメラに映らないで屋上まで行くことはできそうですね」
映像の一つに吟が登場してきた。第一会議室内部の映像だ。吟はスマホを取り出し、何かを見ていた。
「あれ、吟くん、メールを見ている……これが自殺する人間の姿か……」
と長野が肇に話しかけた。
「吟くんの自殺がショックでこれまでカメラ映像は見てこないようにしてきました。しかしこうしてみると、これから自殺する人間の様子には見えないですね。やはりきちんと調べてみないといけない。メールが届いたようですが、吟くんのスマホはいまどこにありますか?」
「義姉さんのところにあるはずです」
と肇が答えるとピアスの男が言った。
「SMSじゃなくって一般のインターネットメールかもしれません」
なるほどという顔をしてから長野が言った。
「そうか、帝都銀行のメールサーバーのバックアップから御手洗吟宛のメールを抽出できるか?」
「できると思います」
とピアスの男は答えた。肇が一呼吸置いてから言った。
「たしかに兄の死には不自然な点が多いんです」
鞄から一枚の紙を取り出し、肇は長野にその紙を渡した。
「これが兄の遺書のコピーです。義姉さんからもらったものです」
長野が遺書を読み、首を傾げながら聞いた。
「これがなにか?」
「その遺書の紙からはたしかに兄の指紋が発見されたんですが、封筒からは指紋は検出されなかったんです。そんなことってありえると思いますか?」
「だれかが偽造した……」
そう長野がつぶやいたとき、Tシャツの男がカメラの映像を見ながら言った。
「この映像は少し変ですね」
ディスプレイには当日の一階ロビーの映像が映されていた。それに高木が応じた。
「やはりそう思われますか? 九時過ぎに瞬間的な停電が起こっているんですが、それが映っていない。それと当日何回か稲光が発生しているんですが、ロビーにある金色のライオンの像にその稲光らしきものが何も映っていないことから、映像が別の日のものと差し替えられたんじゃないかという疑いがあるんです」
うなずきながら長野が答えた。
「なるほど……どこを改竄するかですね。この映像には日付が入っているので、別の日の映像と差し替えるには日付を改竄しないといけません。もし当日の本物の映像で、出入りしている人間を消去するのならその部分を改竄しないといけないですね」
長野に続けてTシャツの男が続けた。
「最新の防犯カメラでは改竄防止というか、改竄をすぐに判定できるよう暗号が映像に埋め込まれているのですが、この映像には残念ながらそういった改竄対策は施されていないようです」
「それでは改竄されているかどうかはわからないんですか?」
と高木が無念そうに言った。
「瞬停が映っていないということでしたら、やはり別の日の映像に対して日付を改竄したのでしょう。動いている人間を消去するのもいまの動画編集ソフトを使えば容易ですが、日付が表示されている場所ならほとんど背景は変化していないのが普通ですから、かなり簡単です。動画編集に慣れていれば人間を消すでしょうが、日付の修正を選んだとすると動画編集に慣れていない人間の仕業かもしれませんね。人間を消去するのは事前にはできませんが、別に日の映像で日付を改竄するのはあらかじめできますから」
とTシャツの男が答えるとその男の隣でPCを操作していたピアスの男が言った。




