屋上
二〇三〇年七月二日夜八時。
帝都銀行本店は東京の大手町にあった。その夜は雲が多く、雷が鳴り始めていた。湿度も高くじっとしていても汗ばむようだった。
帝都HD常務で、帝都銀行の副社長でもある御手洗吟が、副社長と書かれたプレートが掲げられた執務室で仕事をしていた。執務室は窓を背にしてデスクが置いてあり、デスクにはノートPCが置いてあった。ディスプレイには財務諸表が表示されていた。
そのときディスプレイの右下にあるメールのアイコンがメールが届いたことを通知した。アイコンをクリックするとメールソフトが起動してメールが表示された。タイトルは「次期会長について相談があります」とあった。送信者は「綿貫栄一郎」となっていた。
メール本文は「次期会長について相談した方がいいだろうと思います。今夜、あえますか?」とだけだった。吟はけげんな顔をした。
「やけに簡単な文面だ……」と思ったが、そのままほっておくわけにもいかない。吟はメールの返信を書いた。
「だいじょうぶです。」
しばらくするとメールが届いた。栄一郎からだった。
「いまどこですか?」
吟はメールで返信した。
「帝都銀行の副社長室です。綿貫さんはどちらですか?」
すぐに返事が届いた。
「では三十分後に帝都銀行の第一会議室で」
妙に急いでいることが気になったが、吟は時計を見て時刻を確認した。ちょうど八時だった。区切りのいいところまで作業するとちょうど八時三十分だった。
吟は執務室を出て、同じ階にあった第一会議室まで廊下を歩いて行った。第一会議室の前で止まり、会議室に入ると照明がついておらず、真っ暗だった。吟は照明のスイッチを手探りで探し、スイッチを入れた。照明がついたが会議室にはだれもいなかった。腕時計を見て不審に思い思わずつぶやいた。
「おかしいな、時間には正確な人なのに……」
そのとき吟のスマホが鳴った。吟がスマホを見るとメールが届いていた。栄一郎からだった。タップしてメールを開封する。
「すまない。屋上に来てもらえないか?」
「屋上?」
吟が、いぶかしく思いながらもエレベーターへ向かった。エレベーターで屋上に到着し、塔屋のドアを開け、屋上に出てみた。屋上は照明が少なく暗い。だれもいなかった。
「綿貫さん!」
吟は念のためだれもいない空間に向かって呼びかけてみたが、反応はなかった。首をかしげながら踵を返し、塔屋のドアへ向かった。突然、ドアが開き、一人の男が立っているのが見えた。しかし、逆光になっているため、吟からは顔がわからない。




