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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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92作目 毒虫

「ジャックさん、本物でしょうか?」

「さぁ?どうでしょう、ワタシは貴女なんか知らないのでスが…」


失敗(まず)ったなぁ…バルさんは突っ走る傾向にあるし早いところ立て直しに行ってあげたいのに随分と離れたところまで来ちゃいましたね。

目の前にいる女は付かず離れずの距離をキープしていますし、あの一瞬でかなりの距離移動してしまいました。


「王国の一部では有名ですよ?」

「それは貴女が?それともワタシが?」

「ふふ、両方です」


女の武器は短剣、毒を塗られてるかもしれないと必要以上に神経を使う。加えてこの暗闇だ、かなり目は慣れてきたが体を覆うようにしてるローブのせいで動きがいまいち読みづらい。ひとまず距離を離す必要があるな…異能はもうあと何回も使えない。早く戻ってあげたいがもうしばらくバルさんには耐えてもらうしかないでスかね…


「で、そんな王国の有名人が神聖国の貴族相手になにを?」

「ちょっとした実験です、バアル家とは昔からの仲でして」

「ろくなもんじゃなさそうでスね」

「ここは王国に比べて色々と幅が効くんです、聖女やエルフなどの光が強い分闇も暗く深い」


なにをやってるか聞き出せれば後々有利になるか…倒すのも時間がかかるし情報を引き出してとっととトンズラが正解でスかね…


「幼気な少女を誘拐して…ひどいもんでスね」

「強力な遺物は適合する人が少ないですから、回数をこなすしかないんです。幸いなことにここは人が多い、あまりにも土壌が良すぎます」


そう言いながら女は懐から取り出したナイフを投げつける。風切り音と共に飛翔するそれを数歩横に移動して回避する。


「自己紹介が遅れました、私"孤惑(こわく)"のサナダと申します」

「これは丁寧にどうも、商人のジャックでス」

「ふふ、ご冗談を」


サナダと名乗るその女が短剣を持っていない方の左手を上げると頬に鋭い痛みが走った。血がダラダラと流れ、女の左手にはナイフがいつの間にか戻っていた。


「糸…でスか…器用ですね」

「えぇ、昔から使ってますから」


女はナイフを空中に飛ばしたり手元に戻しながらそう答える。暗闇のせいで気づかなかったがナイフの持ち手に糸が括り付けられていたのだ。警戒を誤った、少し前線に出なかったツケでスかね。

サナダは1歩も動かず再びジャックにナイフを飛ばす。今度はそれを回避するのではなく素早く詠唱し地面から隆起させた"土壁"を用いて天井の間に挟む。そして続いて詠唱した"土弾"で糸を刹那の間に切断した。当然それをサナダは黙って見てる訳もなく、ジャックと距離を詰めた。素早く上から短剣を振り下ろし首筋を狙って突く。ジャックは右手で手首を掴み、そのまま蹴り飛ばした。サナダは壁に勢いよくめり込み、土煙が舞った。そしてジャックが1歩踏み出すと同時に、視界が歪む。

毒を仕込まれていたのは短剣の方ではなく、飛び道具として用いていたナイフだった。


「ふふ、かなり遅かったですがようやく効いてきたんですね」

「幻覚と麻痺、ジャックナイフサーペントの毒ですか」


鋭い牙から強力な毒を分泌する強力な魔物であるとジャックは記憶していた。巨大な毒蛇で牙ひとつから長剣と短剣を作れることと毒で動けなくなった獲物に卵を植え付け、巣まで誘導することからその名前は由来される。


「ご名答です、流石ですね」


この毒の恐ろしいところは決して抗体を作ることができず、ジャックナイフサーペントの卵から作る特殊な解毒薬しか解毒の方法がないということ。この毒の恐ろしさは嫌という程()()()()()


「でも残念でス、ワタシにその毒は効きませんよ」

「見え見えのブラフというのはここまで滑稽なんですね」


その通りだった。毒が体にまわるまで凡そ10分、幸いなことに摂取量は僅かだったが顔に傷をつけられたのが時間を少しだけ早めていた。


「人智を超えた力、ご存知ないでスか?」

「…!!」


サナダの表情に少しだけ驚愕の色が浮かんだ。予想通りこの女は遺物のことを知っている。そしてそれに強い興味を示していることもなんとなく予想が着いていた。遺物はなにも王国が独占しているわけではない、ただ他の国よりも積極的に取り入れているだけだ。それら全ては王への忠誠によって成り立っているだけに過ぎないがその狂気とも言える忠誠と献身によって周辺諸国最強の"円卓"が出来上がったのだ。

その王国でさえ遺物については分かっていないことが多い、サナダがどの国のどの組織に所属しているかは定かではないがわざわざエルフの膝元でこんな怪しいことをしているのだ。遺物絡みだというとは想像にかたくない。


「信じるも信じないも勝手ですが、ワタシの異能は毒物の分解と合成、そして…」


ジャックは右手を前に出し、大袈裟に魔力を込める。そしてただ集めただけの魔力の塊を放とうとした瞬間、サナダは慌てて距離を詰めた。そし目前まで迫った瞬間ジャックは後ろにある生成した"土壁"を蹴り飛ばし、上から振ってきた毒が付着したナイフを逆手で持ち、サナダの肩に突き刺した。ジャックの目の前で血飛沫が舞い、苦悶の表情を浮かべたサナダの襟を掴みそのまま腹を数発殴る。空気を吐き出し、サナダはその場に倒れた。そうして倒れたサナダの前に座り、ジャックは口を開く。


「で、あそこでなにしてたんでス?」

「ふ、ふ…だから実験ですよ…」

「遺物の適合者でも探してたんでス?」


ジャックはサナダの体をまさぐり、解毒剤と思わしき瓶を数個見つけてひとつ飲み干す。そして余った解毒剤をひとつずつ、割っていく。


「答えた方が身のためでスよ、もうワタシは貴女の言う"有名"でお人好しのジャックじゃない」


まだ口を開かないサナダを前にジャックは表情を変えず、無情にひとつずつ丁寧に瓶を割る。そして最後ひとつになった瓶を割ろうとした瞬間、大きな山羊に似た鳴き声が鳴った。方角的にバルの方であると察したジャックは立ち上がってすぐに向かおうとする。するとようやく、サナダは口を開いた。


「複数の遺物を掛け合わせて神の完全再現をするんですよ、生物兵器とでも言い換えましょうか」

「そんなことしたら人格と肉体が崩壊して使い物にならなくなりまスよ」

「強靭な肉体を与える遺物、食らった攻撃をストックして放出する遺物、その他複数の遺物をかけあわせるんです。必要なのは遺物の配分と主人格の強い自我…」

「そんなことして貴女はなにがしたいんでス?」

「さぁ?()()()に必要なのは思考力ではないですから」

「私たち?貴女たちは何者なんです?」

「…餓殖孤忠(ガショクコチュウ)、ふふふ地獄で待ってますよ。ジャックさん、私たちはいつまでも貴方を見ていますからね」


そう言ってサナダは解毒剤に口をつけることもなく、目を閉じて二度と開くことはなかった。ジャックは振り返ることなく、バルの元へ駆けた。

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