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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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91作目 それは友であり、武器であり

アストラは、死んでしまったのだろうか。いや、死んでしまったのだ。俺の目の前でバチバチと聞き慣れた音を発するオイはどこかアストラに似ている。見た目だけじゃなく、その身に纏う閃光がアストラがもうこの世にいないのだと強く自覚させてくる。

仄暗い下水道の中でオイは力強く光り輝いていた。それとは打って変わって俺の中ではアストラの笑顔がぷちぷちと音を立てて暗く濁っていく。そうか、俺はまた失ってしまったんだ。

オイは自分の身に何が起こってるのか分かっていなかった、ただ自身の身に纏われたこの閃光が発する痛みに苦悶の表情を浮かべ、目の前にいるバルという少年の顔を見て更に苦しくなった。見知らぬ人間に誘拐され、黄色い結晶の様なものに触れてから今この瞬間まで気を失っていたオイは現状を把握できずにいたのだ。


「バ…ル…?」


オイの姿が、発言が、異能がアストラと重なった。

バルバトスは奥歯を噛み締め、力任せに腕を振るう。12発、主に命令された無慈悲な黒い凶弾がニグラス目掛けて亜音速で突撃する。空間を切り裂く音のみの極めて静かな殺意だった。

命中するよりも先に防いだのは、聖女のバリアに似た力でもなくニグラスの蒼炎でもなく、閃光だった。オイの周囲に舞う閃光が本人の意思とは()()()()ニグラスを守った。対応するように、まるで既に何度も見てきたかのように落雷で撃ち落としたのだ。


「フヒッ…フハッ…フハハハハ!!!成功…成功だ!!」

「…ッテメェ!!!」


バルバトスは空中に飛び上がり、身を翻して殺意を具現化する。自身の持つ最速、最高火力の魔弾。刹那のうちにオーガ数体を殺戮し、付けられた名前は"鬼葬"


「"鬼葬の弾丸(エクセハウンド)"」


長く、細く、ただ敵を貫くことにのみ特化したバルバトスの必殺技。それは怨敵を守護するかつての友の雷すら振り切り、偽物の聖女の祝福を僅かに貫いた。ただ寸前で威力が殺され、頭蓋を貫くことのみ出来なかった。

ニグラスは痛みよりも興奮が勝ったのか、それでも不快な笑い声を絶やさなかった。それには理由があったからだ。


「ハハハハッ!!なぁバルぅ…なぜ俺が雷にここまで執着しているか知りたいかぁ?」

「あ?うるせぇよ」

「雷は人間には再現不可能な圧倒的な暴力だからだよ、あの生物の頂点であるドラゴンでさえ伝承にすら残っていない。ただかつて、この世にただ一人使用者がいたんだよ」


ニグラスの体は貫かれ、赤黒い血がぼたぼたと地面に滴り落ちた。溢れ落ちる臓腑の隙間から頭を苦しそうに抱えるオイの姿が見えた。直後、絶叫と雷鳴がオイから発せられる。


「先代勇者アイバーンのみが、神の怒りを行使できた。これはその遺物なんだよ、そして俺はその力を意のままに操ることができるんだよ。これが笑えないわけないだろ?」


…先代勇者?

バルバトスの脳内を駆け巡る様々な憶測や思考は巡ることを今だけは許さなかった。周囲に無造作に迸る雷鳴が地脈を破壊し、バルバトスにもその毒牙が向けられた。回避するという思考よりも先に、バルバトスは()()を以て回避する。

誰よりも傍で見た、誰よりも力を合わせた、そして誰よりもその技を美しいと思った。故に分かる、全て分かる。今必要なのは思考ではない、必要な知識は全て頭に入っている。ならば今この場でするべきなのは次の一手の()()だ。ニグラスは既に重傷、オイの能力に遠距離攻撃はない、無造作に周囲を攻撃してしまうあの電撃以外は。あの状態になってもオイはニグラスに攻撃する素振りはない、電撃もニグラスだけは器用に避けている。この状態がずっと続くのが一番まずいな。

バルバトスは崩壊を始めた壁を走り、無造作に周囲を破壊する雷よりも速く速く駆けた。まるで鞭のようにしなりながら辺り一帯を砕く雷を、彼は自由自在に扱う方法をただひとつだけ知っている。雷に指向性を持たせる方法。先程まで自身がいた場所に一発のサイズを巨大化した弾丸を放った後、その上に刀を突き刺した。今現在も彼を生かし続けている師匠から貰った大切な漆黒の刀は迷える雷に導きを与える。

人類が最初に到達した神の怒りである雷を操る発明、避雷針であった。誘い、誘惑し、怒りをコントロールする。バチバチと弾ける雷はその高くそびえ立った黒い柱に収束する。オイと黒柱の間には、宿敵しかいない。


「ガッ…ァアッ!!!」


雷という神の怒りは決して人類には操れない。

この世にただ二人、"雷神(アストラ)"と"その弟(バルバトス)"を除いて。


「"轟雷帝(フォルバラク)"、本来は雷を纏った自分自身に指向性を持たせて速度を武器に自己強化する技だ。ニグラス、お前ごときに(ソレ)は分不相応だ」


気絶したのかその場に倒れたニグラスを横目に、オイの元に駆け寄る。異能の過剰行使によるものなのか、それとも雷による自傷かは定かではないがこのままではまずい。動悸が酷く、呼吸も浅い。顔にまで火傷が残っている、早く冷やして治療しなければ。

オイを抱き抱え、立ち上がろうとすると彼女が口を開いた。


「バ…ル…さん?」

「オイか?あまり喋らない方がいい、今すぐに助けるから」

「ご…めんなさい…バルさんを…敵を倒せって頭の中でずっと…聞こえて…」

「ニグラスになにかされたんだろ、分かってる。オイは優しいやつだから。ひとまずここを出よう、下水の空気は毒だ」


バルバトスが下水の研究室を出ようとした時、背後からニグラスの笑い声が聞こえる。それに重なるように、かき消すように、山羊に似た鳴き声が響いた。

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