81作目 失墜する者
リオネルは決して弱い方ではないだろう、それは決して生徒の枠組みの中という話ではない。二色使いの人間というのはそれだけで場を制圧し主導権を握るほど特異な人間だ。普通の人間であればひとつの属性しか使えないのに対して、二色使いはふたつの属性を操れる、そしてその両方が高度であればあるほどより重要度が増す。
そしてそんな戦場において鍵になる人物が勇者の前では塵芥のひとつになってしまう。別に勇者が弱いなどと思ったことは一度もない、この身を焦がし腕を切り飛ばした勇者の力は俺がいちばん知っていると思っていた。ただ甘かった、勇者は古今東西の人間が使えるあらゆる魔法を使えると考えていいだろう。性別の問題から唯一使えない魔法のはずである回復魔法ですらも、勇者なら使えるかもしれない。そう思えるほどあの力は圧倒的だ。弱点は、どこにもない。加えて聖女のバリアだ、詳しいことはまだ分かっていないが攻撃が途中で当たらなくなる絶対の因果を身に纏っている。やりたい放題の卑怯者だ。
リオネルの戦闘が終わったあと、特筆するべき特待生は3人。メイと聖女、そしてニグラスという人物だ。
まずはメイ、彼女は徹底的に距離を離すことを重要視していた。相手の魔法を受けながら水属性で遠距離攻撃を仕掛け、相手が魔法に当たった瞬間に素早く回復魔法を使う。そうしてじわじわと有利を広げ、泥臭く勝ち切る。距離を離すのは避けるためではなく回復魔法を使う時間を稼ぐためだろう、避ける素振りを一切見せずに魔法の打ち合いに持っていき、身体を貫かれようと勝ちをもぎ取る。敵に来たら嫌なタイプだ。
聖女の戦い方は聞いていた話とは違ってとても上品だった、定石通りと言ってもいいだろう。魔法を使うものにとっての当たり前を徹底的に続ける、使う魔法の属性は今のところ火しか確認できていない。二色以上の可能性も考えられるが俺のように人目につきたくない力があるはずだ。
最後に、ニグラスという人物についてだ。勇者たちのひとつ上、つまり俺たちの2個上の先輩で最上級生だ。彼の戦い方は極めて暴力的といっていいだろう。なにが彼をそこまでさせるのかは分からないが相手のしたいことを潰すことに終始徹底していた。魔法を使ってくるならばより上の魔法で、体術で仕掛けてくるならさらに上の技術で、同じ攻撃方法を上から高次元で叩き込んでくる。使う属性は風、おそらく魔法だけでなく剣術も相当イケる口だろう。足さばきや重心の置き方に隙がほとんどなかった。そして相手を叩き潰したあと決まって相手に向かって「お前の負けだ」と口にした。特に女生徒に対しての扱いがかなり悪い。
「フェイは、というかこの学園にいる女子生徒の全員がニグラス先輩のことを好きじゃない」
ニグラスが戦い終わったあとフェイはおもむろに口を開いた。フェイのことをよく知らない俺ですら不機嫌だと一瞬で見抜けるほどには不快感を全面に押し出して彼女は続ける。
「この学園に差別はよくあること、Aクラスの人がBクラスの人を心のどこかで見下しているようにニグラス先輩は女性を等しく下に見ている」
「ならどっちもどっちじゃないか?」
「そう、だから嫌いなんだ。フェイはね。見下しているクラスのみんなも、いざ見下されたら平気で被害者ヅラをする。まぁニグラス先輩のアレは少し過剰だけど」
フェイが見ている先ではクラスメイトの女子がニグラスに打ちのめされていた。必死に使う魔法も、咄嗟に出たであろう護身術もニグラスはいとも容易く粉砕した。この授業はAクラスにとって天井を知るためのものである手前、アルベルトは止めない。授業を終えた後に注意はするだろうがニグラスの行動はそういう意味では間違えてはいない。
「ニグラスさんは昔色々あったんだよ、この国の貴族じゃ有名でしょ?」
「フェイはそれを可哀想とは思えない、結局のところ自業自得。これ以上あの人に興味も湧かない、ただ不快なだけ」
ニグラスに何があろうと俺も興味は湧かなかった。どうせこの学園を卒業、もしくは任務を完了すればどうせ関わることの無い人間だ。彼の問題行動も、俺は心底どうでもいい。
「バアル家には、そもそも触れないのが1番だから」
「うちは父同士が仕事でよく付き合ってたらしいから、結構交流があるんだよ?」
「ヴァンダールみたいな大貴族とフェイの家を同列に扱わないで欲しい、貴族はピンキリ。バアルもヴァンダールのようなそこら辺の大貴族からしたらフェイの家は吹けば飛ぶような下級貴族なんだから」
「イカロス家は爵位こそ低くても、担う仕事は重要だよ。イマイチ教会に貢献できてない…って噂もあるくらいだし」
「違う、目をつけられてるだけ」
彼らの話していることはいまいち要領を得なかった、家名が出てきた時点で諦めてはいたが案の定平民の俺には理解しかねる内容だった。フェイは立ち上がってスカートに着いたホコリを払いながらゆっくりとフィールドに向かって歩き始めた。彼女の表情は基本的に動かなかった、初めて目にした時から今に至るまで彼女がどんな感情を抱いているのか分かりにくい。
ただ最後に発した台詞には明確に怒りを感じた、それが俺にとって分かりやすく最も鮮烈な彼女の印象だった。




