118作目 前夜
聖戦魔道祭、魔法学園が誇る2日間の大祭。
1日目では各クラスの出し物や出店を楽しみ、2日目ではメインのクラス別対抗戦と学園主催の花火がある。大きなイベントということもあり、学園都市も含めて全体的に浮き足立った雰囲気になる。また、花火には昔から学園にある迷信のようなものがあった。
曰く、想い人と恋仲になれる。曰く、待ち人に会える、などなどそれは様々だ。九割を貴族で構成される由緒正しき魔法学園であれど、生徒たちにとっては重要な青春の1ページであった。
「おぉ〜、似合うね」
担当教師であるセドリックに頼み、俺たちは空き教室を借りていた。というのも、ようやく衣装が出来上がったとのことなので、試着会をする流れになったためだ。
全体を指導するリーダーであるウカノが、男女ひとりずつ指名し試着をさせてみた。女子はメイド服、男子は礼服で、意外とチープには見えなかった。男子は制服を一部流用しているからか多少見覚えがあるがそれでもコンセプトは一目で分かる。
「ふわふわのスカート、初めてだけど可愛いね」
「本来のメイドさんはそんなの着ないけど、可愛い方がテンション上がると思ってアレンジしてみたよ」
衣装は問題なく、前から練習していた接客マナーも完璧。俺たちの班には問題はない。あとは調理器具の使用許可とコンロの申請が通るだけだ。といっても調理器具の方は前々からリオネルが頑張ってくれていたから問題ないだろうし、コンロの方も運び込まれ、細部点検を終えた後に申請は通るはずだ。
「これで、明日の本番は間に合いそうだねぇ。よかったよかった」
「色々とありがとう、迷惑かけたな」
「いーのいーの、やりたかったし。それに練習になるしねぇ」
「練習?」
「そう、卒業したあとは家を継ぐからさ。こういうのも多くなるでしょ、だから今のうちに経験積めてよかったよ」
ウカノは遠くからクラスメイトの様子を見ながらそう言った。出来のいい衣装にハイテンションになっている彼らは確かに色々と準備した側からすれば気分のいいものだろう。俺は言い出しっぺなだけに発言権だけはあったが、実務の全てをウカノに任せっきりだった。
「ならなぜ学園に入った?ウカノ・メルクリウス」
「うーん、貴族の人達とより一層太く深いパイプを繋げるためですよ。あ、もちろん先生とも」
「そうか、なら聖戦魔道祭はうってつけだな。その調子で励むといい」
セドリックは腕を組みながらいつも通りの不遜な態度のままだった。空き教室の使用に先生も必要なのは分かっているが、こういう場に教師がいるの必要のない緊張を抱いてしまうのは俺が小心者だからだろうか。
そんなことを考えていると、リオネルが扉を開けて入ってきた。
「あ、先生いた。申請通ったんで今からいくつか試作出すんですけど、よければどうですか?」
「遠慮しておこう、諸君らのことだ。不味いものは出すまい」
「そうですけど…あ、なら接客班のみんな食べる?簡単なサンドウィッチとかパンケーキくらいだけど」
リオネルがそう言うとクラスメイトたちは元気よく返事をし、教室の方へと戻って行った。空き教室には俺とリオネル、セドリックだけが残った。
「…対抗戦のことか?」
「流石セドリック先生です、そのことでいくつか相談が」
「なんだ?他クラスの出場生徒は規定で言えないぞ」
「そうじゃなくて、客でうちの親が来るって本当ですか?」
「ご夫人の方が特別席のチケットを取った、姉弟両方だ」
「そうですか」
「ライオネル様は…」
「あぁいいですよ、どうせお父様は来ないですから」
「そうか、まぁいい。励め、バルもだ。諸君らはAクラスの代表として舞台に立つ。敗北は許されない」
「もちろんです、負けるつもりなんかありません」
「勝つ…ちますよ、俺は」
「そうか、ならいい」
そう言ってセドリックは空き教室を後にして俺とリオネルだけになった。対抗戦は先鋒、中堅、大将の団体戦、一対一勝ち残り形式だ。
フェイが先鋒、俺が中堅、リオネルが大将だ。フェイが先鋒を言い出したため、その他は自然に決まった。
それにしても、リオネルは家族仲は良くないんだろうか。姉である生徒会長と話しているところは学園内では見ていないし、学外でも一緒にいるところを見たことがない。姉弟ってのはいつまでも一緒にいると思っていたが、そうでもないのだろうか。
「勝とうね、対抗戦」
「当たり前だ、勝負事はもう負けるつもりはない」
「なんかあるの?優勝したらプレゼントを貰えるとかさ」
「約束だ、負けたら怒られる」
「それは怖いね」
「あぁ」
アラクネに約束した以上、敗北は出来ない。特待クラスは元より、他のクラスにも負けるつもりはない。魔法は大して使えないが、対抗戦はなんでもありだ。死ぬ気でやれば勝てるだろう。
「フェイと話せたの?」
「まだだ、祭りが終わるまでには済ませる」
「ふーん、ならいいけどさ」
聖戦魔道祭は明日。オイとカトレアは楽しんでくれるだろうか、それだけが心残りだ。




