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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
聖戦魔道祭編

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119作目 姿を変えて

聖戦魔道祭当日、運がいいことに天気に恵まれた初夏に華美に装飾された学園の門を潜った。登校中の街中はいつもより雰囲気が浮ついており朝から騒がしかったが、学園の中はそれ以上に騒々しかった。

試験の時に使われた運動場は明日の対抗戦のために準備期間中にその様相を変え、石造の大きな円盤状の建物が出来上がっていた。たった1ヶ月しかなくとも、複数人の優れた魔法士がいればこんな大きな建物を作ることも造作もないのだろう。

俺のクラスには「給仕喫茶」という看板が大きく張り出され、ハートの絵がでかでかと描かれている。扉を開けて中に入ると店のように机が並べられ、狭い教室のうち2割が壁で仕切られている。狭いキッチンだが問題ないのだろう、料理の提供口から中が見えるが人は2、3人くらいしか入らなそうだった。

既に何人かは机の上に腰掛けながら雑談をしており、俺はウカノに話しかけた。


「給仕の服を受け取りに来た、もう着替えてもいいんだろ?」

「あ、うん。はいこれ」

「ありがとう、更衣室はこの階の空き教室でいいんだよな?」

「うん、そうだよー」


俺はウカノから着替えを貰い、廊下を歩いた。他のクラスも似たような派手な看板を貼り付け、中の教室から楽しそうな話声が聞こえる。今のところ特待以外の他クラスと関わったことがないため、どんな人がいるかは知りもしないがみんな楽しそうにしていた。空き教室の扉を開けると朝早くということもあり幸いなことに誰もいなかった。

手早く着替えを済ませて、ネクタイを締める。こういう形状の服を燕尾服と言うのだとウカノは言っていたがなるほど、ファッションに疎い俺でも分かるほど洗練されたデザインだった。長く二股に伸びた裾が特徴的で、それでいて動きは邪魔にならない。昨日見た限りでは、白い手袋だったはずだが俺は今つけている手袋を気に入っているし、経費削減にもなるからと俺だけ黒い手袋だ。

廊下を歩くと他のクラスからの視線を感じ、背筋がむず痒くなった。注目されるのは慣れていない、戦闘中なら気にする余裕もないから気にならないが、こういうときは少しだけ緊張してしまう。早足でクラスに戻ると、ウカノが声を上げた。


「おっ、似合うねぇ」

「元のデザインがいいからな、俺でも着こなせた」

「いや実際似合うよ本当、モテちゃうね」

「そんなことはない」


俺の席は現在キッチンに吸収されているため、壁によりかかって外を眺めた。運動場に設営された建造物は真ん中に穴が空いており、広いフィールドが見えた。そしてそれを囲むように壁と門があり、壁の上には階段上に椅子が設置されていた。

なんでもありの対抗戦なんて、アストラが1番得意で楽しみそうなものがあったのに今この場に彼はいない。それが残念で仕方なかった。


「コロシアムなんか眺めて、考えごと?」

「ん?あぁ、親友があぁいうの好きでな」

「ふーん」

「? あ、フェイ…」


アストラのことを考えていたからか、誰に話しかけられていたかなんて気にも留めていなく、俺はフェイと話してしまった。久しぶりに目が合った彼女は相も変わらず無表情だった。


「なにか事情があって避けてるのは分かってるからフェイは気にしてない。ただもし話せるなら今じゃなくてもいいから理由を教えて」

「あぁ。あとで話す」

「そう、ならいい」


フェイはそう言って自分の席に戻り、聖戦魔道祭(こんなとき)だっていうのに魔物の図鑑を読み耽っていた。著者イカロスという文字が目に入り、少しだけ内容が気になった。

気まずくなりもう一度外を眺めようとしたとき、教室に入ってきたリオネルがフェイの様子を見た後俺にそっと耳打ちをした。


「なんかフェイに言った?めちゃくちゃ不機嫌だけど」

「さっき少しだけ話した。今不機嫌なのか?あれは」


不機嫌、と言われるがフェイの顔は相変わらず表情が読みづらい。不機嫌と言われればそう見えるし、そうじゃないと言われればそう見える。眠そうにも見えるジト目で、じっと文字を追っていた。


「うん、だから早く仲直りしなよ。あれじゃフェイは楽しめない」

「そうか、なら早めに話しておこう」


別にフェイが嫌いなわけじゃない、むしろ好ましいと感じている。その知識欲も、好奇心も、それによって身についた知恵も素晴らしいと思う。ただ、黒い男(バルバトス)のことを一緒に追っていけばどこかで遺物とは鉢合わせになるかもしれない。そうすればオイのように巻き込まれてしまうかもしれない、あのときはたまたま守れたから良かったが今度はそうじゃないかもしれない。

そういう数多の仮定を擦り合わせていけば、俺はこれ以上フェイと黒い男(バルバトス)のことを調べない方がいいのだ。フェイと最も身近なルシエラに言われた以上、そうするべきだ。


「さて諸君、着席できない者もいるだろうが聞きたまえ。これより学園長の使い魔がいらっしゃる、全員心して聞くように」


いつの間にか入ってきたセドリックがイラストやメニューが書かれた黒板の前でそう言った。開会の言葉を聞いたのちに、30分の準備時間を経て、そしていよいよ聖戦魔道祭が始まる。

故郷の村では小さな収穫祭などはやったことがあるが、ここまで大きな祭りなどしたことがない。ましてや自分たちが出店をやるなど考えたこともなかった。

考えることもやることもあるが、素直にこの感情を吐露するならば楽しみだった。そして惜しむらくは、隣にアストラがいないことだった。

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