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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
聖戦魔道祭編

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116作目 継承される記憶

俺の身に宿っている異能、それは黒い男(バルバトス)から受け継いだ"肆王・是狩魔皇帝(ロード・グレイブス)"という強大な四つの力だ。ひとつは"沈黙(サイレンス)"、弾丸を放つ能力だがどうにも俺の認識とは齟齬があるようだ。現に今は使えていない。俺が今なにができて、なにができないのか。そしてなぜ使えて、どうして使えないのか。それらの解明も早急に行うべきだ。

幸いなことに授業の時間は少なくなっていってるし、時間は余っている。これは進めておかなければならない。

それと、アッシュヴォルフのやっていたことも気になる。が、エルフの魔法によって契約されたことは決して覆らないし、反故にした場合には重たい罰が待っているからひとまず獣人の子らについては安心だろう。けれど"やつら"と呼称していた組織については不透明だし、危険な感じがする。

とはいえ、俺の目的は勇者を殺すことだしそんなに複数のことができるほど器用じゃない。あっちの件は今はいいだろう。


「ただいま」

「おかえり、ご飯はもう少しで出来ると思うよ」

「そうか、オイは?」

「今は部屋にいると思うよ」

「分かった」


キッチンに立って料理をしているカトレアに挨拶を済ませ、階段を上る。自分の部屋の扉を開けるとオイが窓の外を見ながらなにか呟いていた。


「走って右、切り上げてキック…躱して突き刺して…」

「何の話だ?」

「うわぁ!? お、おかえりなさい…」


慌てて前髪をいじりながらオイは振り返って俺の方へと駆け寄ってくる。


「随分と物騒な独り言だったな」

「え?聞こえてました…?」

「あぁ、なにか見たか?」

「うーん…どっちかというと思い出したんです」

「思い出した?」

「はい、何回も何回も誰かが戦う記憶。剣を持って、光を纏いながら、巨大ななにかと戦う…そんな記憶です」


ニグラスになにかされたのか、それともオイ自体の昔の記憶か、定かではない。ただ妄言ではないのだろう、オイ自身は戦闘などできるはずもないしただの少女だ。着替えるから下に行ってろと伝え、クローゼットに制服を仕舞う。

リビングに戻って料理を食べている最中、カトレアに先程のことを相談した。


「多分遺物に宿ってる記憶だね、それは」

「ふむ…」

「前任者か、遺物と成った人物の記憶が稀に引き継がれることがある。おそらくそれだろう」


であるならばオイの見た景色はアストラが最後に見た景色だろうか。もしそうなら、アストラは巨大な魔物に囲まれた末に死亡した…

いやしかし、ドラゴンすら手懐けたアストラがそこら辺の魔物にやられるだろうか?


「まぁでも、遺物のせいじゃない可能性もある」

「ふむ」

「昔の記憶か、それとも誰かに植え付けられたか、可能性は無数にある。世界中にはあたしたちですら把握してない遺物や不思議な力なんてものが無数にあるからね」


そう言ってカトレアは風呂場の方向を見つめた。今風呂に入っているオイのことを、正直なところ俺たちは何も知らない。ニグラスになにをされたか、分かっていない。もう少し慎重になるべきだった。

とはいえ、考えていても仕方ない。俺は頭がいいわけでも、エースのように作戦を立てられるわけでもない。自分の目で見て、判断することしか出来ない。俺の憶測は当たらない、今まで戦ってきた相手にもほとんど勝てていない。

自分の部屋へと戻り、窓の外を眺めた。この街のどこかに姉さんを殺したやつはいるのに、俺は何もできていない。勇者を追い詰めることも、強くなることもできていない。聖戦魔道祭で、俺は各クラスと戦うことになってる。勇者ともう一度戦えるチャンスだ、それまでに感覚を掴まなければならない。

左手に着いていた黒革の手袋を外し、真っ黒な手を握る。夜を閉じ込めたような光を通さない漆黒が俺の左肩まで伸びている。俺の本当の左腕は既に切り飛ばされ、吹き飛ばされて無くなった。代わりに遺物によって与えられたこの腕は、今日はいつになく不気味に見えた。

俺は何も知らない、なにも見ることができていない。断片的に夢として現れるそれと、残された文献と、黒い男(バルバトス)からの言伝でしか俺は能力を知ることができない。みんなは当たり前に自分がなにかできているというのに。


「…はぁ…はぁ…」


周囲を囲む炎の中で、俺はひとりで立っていた。鼻腔をつく炭の匂いと肉の焼ける香ばしい匂いがその主張を強めた。ずきずきと痛む体の節々と、だらりとぶら下がった左腕を抑えて、歩いた。

自身の影に魔力を纏わせ、左腕を縛り上げるように補強した。何十回もその工程を行ったことがあるのだろう、自然とこの身に宿った異能をどう扱えば良いのか分かった。

突然、目の前に男が現れた。ボロボロの布を纏い、顔はよく見えない。そしてなにより、その男に対する畏敬の念のようなものが湧き上がってきた。俺の口は自然と開き、勝手に言葉を紡ぐ。


「はぁ…はぁ…探し物は見つかったのか?」

「ここにはなかった、砂時計も、仲間も」

「じゃあどうする?」

「決まってるだろ、自分の力で戻るしかない」

「救われねぇな」

「かもな、だがそんなものだ」


俺は黒衣を纏った男と話していた。彼がこちらに手を向け、そして体に風穴が空いた。


「契約を履行する、さよならアイデウス」

「俺はどこまでもついていくぞ、影だからな」


そうして痛みが体に走り、そこを通る熱風に気味の悪さを覚えた直後に目を覚ました。

身体中に脂汗を流して、心臓がバクバクと鳴った。隣ではオイが寝息を立てて、外では小鳥が鳴いていた。

アイデウス…"畏怖(フィアー)"の元の異能者だったか、最後は殺されたのか、どうなったのかは分からない。話していた黒衣の人物は黒い男(バルバトス)なのだろうか、このタイミングで夢を見たのはなぜなのか。

分からないことだらけで余計に頭がこんがらがった。

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