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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
聖戦魔道祭編

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114作目 イカロス家の秘蔵

あれから一週間が経った。

俺は毎日学園に通っては放課後にフェイの家に寄り、バルバトスという悪魔とイカロスの話を聞いた。と言っても、ほぼ全ての内容は最初に伝えられたものでありあとから分かったものは伝えられた情報のより細かいディテールくらいのものだった。


「魔大陸はすごく危険なところ、元々は大きなひとつの国があった離島だったんだけど魔王が生まれてから魔物が沢山現れるようになった」

「名前は聞いてはいるがイマイチどんなところか分からない」

「名前は広く知れ渡っているけど普通の人はそこに絶対に行かない、だから誰もそこのことが分からない」

「案外穏やかなところだったりしてな」

「まさか、強い魔物がうじゃうじゃいて川には血が流れてると思う」


フェイはクッキーをひとつつまみながらそう言った。フェイが広げてくれた地図には様々な国が記されておりそこには俺の刀を打った鍛冶師がいるらしいヒノクニもあった。俺たちが住んでいるところとは違い、小さな島だ。

そしてそこから更に離れたところにひとつ、魔大陸とだけ書かれた大きな島がぽつんと浮かんでいた。神聖国からそこまではとても離れている。魔大陸からの距離に比例して魔物は弱くなっていくものだから、神聖国は平和なのだろう。


「…バルバトスはこの距離を移動したというのか?」

「そこはずっと疑問、この距離を移動するなら昔は今よりもっとずっと時間がかかっていたはず。戻ってこないならまだしも、彼は戻ってきた」

「変だな」

「そう、変。けどそんなの彼の全てに対して言えること」

「それもそうだな」


長く彼女の家に行って分かったことは大まかに分けて三つ。まずバルバトスは唐突に現れたこと、そして魔大陸で"なにか"を見た事、最後に戻ってきたあとに破壊と殺戮を繰り返したこと。

バルバトスはなぜ神聖国に現れ、魔大陸でなにを見て、そして何を思って破壊と殺戮に及んだのか。


「フェイはきっと何も見つからなかったから絶望したのだと思ってる」

「絶望?」

「そう、世界の隅々まで見てわざわざ忌み嫌われてる魔大陸にまで行ったのにこの世界には彼の求める答えがなかった。だから壊した、だから殺した」

「ふーむ…」

「バルはどう思う?」


想像する。俺が彼ならなぜそうするか。

大切な探していたもの…俺ならばアストラか。アストラが消えてしまって、この世界の隅々まで探す。そして最後に残った土地で何を見た?

俺は想像する。魔大陸で探してた"なにか"が失われたあとだったとしたら。

血まみれになり、腐敗が進み、空からはカラスがじっと啄む瞬間を待って眺めている。そんな地獄みたいな光景を俺はその時初めて目にし、そして理解する。もう二度と手に入らないのだと。

想像する。俺はきっと自分と世界をを恨み、許せず、最低最悪の八つ当たりをする。答えを探し求めていた度の最後で失ったという事実のみが答えなら俺はきっと、そこで最初で最後の不条理を執行する。


「…バル?大丈夫?」

「あぁ…少し考えすぎていた」

「顔、強張ってた。少し休憩しよう」


俺がした最悪の想像はいつか起こり得る。

…いや、俺に実感がないだけできっとアストラはもう死んでいる。死んだという確信と証拠、過程が全く信じられないから俺は生きている事にしているが。けれどもし本当に死んでしまっているとしたら、俺は殺したやつを地の果てまで追いかけて殺す。なにをしても、失われようとも殺す。


「そういえば、そっちの方の進捗はどうなの?」

「今衣装を何とか安く済ませられないか色んな店でウカノが交渉中だ」

「給仕の服は高いからね」

「そっちは?」

「リオネルが食材の調達に奔走してて、他は調理道具や設備の準備。火は魔法で起こせるけど、水はそうじゃないからそこが大変」


魔法で水を発現させても飲めるものにはならないらしい、水の中の魔力濃度が高く味は最悪。おまけに大量に飲んでしまえば体内の許容魔力量を超過し、いずれ死に至る。


「そういえばなんでわざわざ接客の方に入ったの?バルはそういうのしないと思ってた」

「まぁ…少しな」

「もしかして彼女?」

「そんなんじゃないさ、家族が来るんだ。それと大事な人も」

「…ふーん」


オイがきたらどんな表情をするのだろうか。どんな顔で、何を食べるのだろうか。カトレアは楽しんでくれるだろうか、もしそうであるなら聖戦魔道祭は俺の中では大成功だ。


「お嬢、そろそろ飯の時間だけど」

「ん、分かった。バルも食べていく?」

「遠慮しておこう」

「分かった、ルシエラ送ってあげて」

「へい」


ルシエラは最初の方こそかなり俺のことを警戒していたものの何度もフェイの家に行き、次第にそれもほぐれていった。


「…お前、最近ずっと来てるけどお嬢と何話してんだ?」

「調べ物だ」

「ふーん、まぁなんでもいいけどよ」


ルシエラは最近、帰り道の途中まで俺を送って行ってくれていた。当然家まで知られるわけにはいかないから適当なところでいつも帰らす。フェイのいないところで、彼はバカ正直に俺に色々と聞いてくる。返せる質問のみを返し、あとは曖昧に返すというのがここ1週間のルーティンだ。


「…」

「おい、ありゃなんだ?」


帰路の途中で俺とルシエラはひとつ不可解なものを目にする。夕方の喧騒の中で路地裏に入っていくひとつの馬車。それ自体は何の変哲もないものではあるが、僅かに布の隙間から見えたのは明らかに馬車の中に詰め込まれていいものではなかった。


「獣人…それも子供だ」

「見えたのか?」

「すまんルシエラ、先帰っててくれ」

「俺も行くに決まってんだろ、お嬢には伝えておく」


そう言うと彼は耳に手を当てる。そうしてなにか呟いたあと、腕に梟が止まった。それはフェイの家の方角まで飛んでいき、ルシエラは「これ、内緒な」と俺に言った。

理解不能な魔法ではない力…思い当たる節はひとつしかなかった。


「…今のは?」

「俺ぁハーフエルフだ。"最悪"の混血だからな、こういうのは少しだけ使える」

「エルフの魔法か!?」

「バカ声がでけぇよ、少しだけ使える。今のは初歩も初歩、使い魔出すだけの魔法だ」


彼は口元に人差し指を当てて気まずそうに言った。何故それを見せてまであの獣人を助けようとしてるのか分からなかったが、エルフの魔法を間近で見られたのは非常にいい。なにかに使えるかもしれない。


「行くぞ、獣人のガキがなんでああなったのか調べる必要がある」

「…分かった」

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