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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
聖戦魔道祭編

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112/120

110作目 フェイの家

ウカノの興味深い話を聞きながら昼食を済ませ、午後の授業を受けた。といってもまだ各属性の専攻に入る段階ではなくあくまで各属性の応用といったところで特にこれといって特筆すべき点もない、言ってしまえば退屈な授業だった。

魔法は好きだ、けれど理として律し、魔術に至らんとする魔法士特有の気概のようなものは俺にはこれっぽっちもない。将来有名な魔法士になって吟遊詩人に歌われたいという欲求もない、立身出世の野心もない。だからか、俺にとって魔法はあくまで知識として詰め合わせるもの、かつ戦闘での有利を作るためのものに過ぎないしそこに大衆が感じる浪漫はなかった。

何度目かの欠伸をしたのちに、終業を告げるチャイムが鳴った。帰りの支度をしている最中にフェイが俺の席まで来た。


「忘れてないよね、今日の約束」

「もちろんだ」

「ならいい、終わったあと着いてきて」

「分かった」


それにしても空間を削る魔物…考えるだけでも恐ろしい。それはつまり防御の手段がないということだろう、昔村民から聞いた話によるとまるで大きななにかが通り過ぎて行ったようなものらしいからな。両親の仇、というほど大それた憎しみは抱いていないがずっと喉の奥につっかえた小骨がようやくなくなる。俺の体に残っていた空白が僅かばかりでも埋まるのだ、それは特別なことだ。

それにしても、俺は俺のことをよく知らない気がする。転生したという感覚だけあるがそれについての知識はない、前世についての景色、展望、記憶が全くもって欠如してしまっている。

勇者がこの世界に来たのは王国が召喚したからだ、それは広く知れ渡っていることだが召喚する魔法なんてものはもちろんこの世にない。遺物の力なら或いはとも思ったがそういうわけでもないような気がする。

別の世界から人間を呼ぶことができるほどの強大な力を持った個人が死ぬとは考えられない、異なる世界から人間を招来することができるなら世間一般的に広まっている天国にだって行くことは可能なはずだ。

それはつまり、神に会える…実在するならばという仮定の下成り立っているに過ぎないが。

いや、それを言うなら今この話ほぼ全てが仮定を基盤にして生まれた思考だ。最近どうも時間があれば自分や世界、人に対しての思慮に耽るようになっている。元々そんな趣味はないと思っているしそんな空想的思考に陥ったところでなんの意味もない。

つまるところ全部無駄だ。


「ずっとそこにいるつもり?さっき話したことはもう忘れた?」

「すまん、少し考えていた」

「また?今朝もそんなこと言っていたけどなんかあった?」

「自分について考えてた」

自己愛(ナルシズム)?それは限りなく無駄なもの」

「なんだそれは」

「昔いた王様、自分のことが好きで好きで堪らなくて部屋中に鏡を貼っていた」

「いや、ならそれは違う。むしろ逆だな」

「なら自己嫌悪(エコーイズム)?どちらにせよ無駄なこと、結局人間は他者の評価しか参考にできない」


ひどく哀しいことを言うのだなと俺は思った。ただそれと同時に深く共感している自分がいることにも驚いた。そして自己評価と他者評価の乖離は苦しみをもたらすということを俺は知っている、そして時にそれは救いになるということを俺は知っている。


「それもそうだけど、自己否定や自己認定からなる成長は糧になると思うよ」

「リオネルは何も分かってない」

「自分のことを最後まで見つめられるのは自分しかいないからね〜、それじゃ」

「言いたいことだけ言って…まぁいい、早く行こう」

「あぁ」


フェイの家は俺と同じ方向、けれど大通りに面したセキュリティがとても頑丈な集合住宅に住んでいた。廊下や壁に至るまでが清潔で、オイを泊めていたホテルに近しいかそれ以上の豪華さがあった。俺が周囲をキョロキョロと見渡しているのが気になったのか、階段を上りながらフェイはため息をこぼした。


「本当はこんなところに住むほどの余裕はうちにはない、家賃だってとても高いし。変えてって何度もパパとママに頼んだ」

「それでも変えないのは娘が心配だからじゃないか?」

「…見栄張ってるだけ」


4階まで上がり、赤い絨毯の廊下を歩いた。1階のエントランスとは違い、豪勢な絵画や高そうな花瓶などが置かれており、なんだか緊張を覚えた。フェイの部屋の扉にはイカロスと書かれたネームプレートがあり、金の細工が施されていた。


「ありゃまフェイちゃん、もう彼氏出来たの?」

「ヴァルキアさん、フェイにできると思いますか?」

「うん、思うよ」

「つまり違うということです、少し勉強をするために呼んだんですよ」

「そ、じゃあ楽しんでねぇ〜」


隣の部屋からちょうど出てきたオレンジ色の女性が大きな声でそう言って階段を下りていった。一瞬で現れて呆気にとられた、瞬く間にどこかに消えていった。


「嵐のような人だったな、彼女は?」

「カティア・ヴァルキアさん、3年生で火属性の専攻。とてもとても大きな貴族の一人娘」

「そうか」

「ちなみに部屋を2個借りてる、つまりそのレベルの人。フェイの家がひぃひぃ言いながら借りてる家を何の気なしにふたつ借りられる。あとすごくいい人」


そう言いながら部屋の扉を開けるフェイは少しだけ口角が上がっていた。扉を開けた部屋の中には腕を組んだ男が笑顔で出迎えてきた。


「おす、おかえりお嬢…ってそちらのタコ助は?」

「タコ助じゃない、バル。調べ物で少し話したいことがあってね」

「ほぉ…バルね…」


似合わないスーツを着ている男は不躾に俺をジロジロと眺めたあと、ひとりでさらに不機嫌になっていく。


「お前、お嬢に手ェ出してみろ。マジでころ」

「うるさい、静かにして」


フェイは男の頭を背伸びしながら手で叩き、俺を自室へと案内した。部屋の扉を閉めるその瞬間まで男は俺をじっと睨んでいた。

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