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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
聖戦魔道祭編

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109作目 ウカノ・メルクリウス

学校に着き、ホームルームの時間になる。今日から聖戦魔道祭の当日、そしてその先の3日までは特殊な時間割が組まれ、午前の時間全てを準備期間として自由に使っていいものとされていた。


「学校から支給された予算は金貨20枚、少ないですがこれでやりくりしましょう」


リオネルがそう言ったのに俺は心底驚愕した。金貨20枚は手にした事の無い大金だ、1枚あれば村での生活にしばらくは困らない。外食だって、1枚あればかなり豪華なところにだって行ける。オイに買ってやった服ですら背伸びをしてかなり高いところで買ったというのにあそこも金貨1枚でセットアップを3つ購入できた。20枚を少ない…?リオネルだけかと思ったが他の貴族も似たような反応だった。


「君の反応は極めて正常だ、バル」

「セドリック先生、そうだ…ですよね。俺がおかしいのかと思いました」

「私の1ヶ月分の給料だ、それを少ないと言ってのける貴族はこの国にどれ程いるだろうな?」

「ですね」


腕を組みながらセドリックはそう言った。それにしてもひと月の給料が金貨20枚も貰えるのか、カトレアも勇者を殺したあとは教師とかやるのだろうか。魔法の才能はあるみたいだったし、それとも昔みたいに冒険者に戻るのか?いや、医者だな。


「ここから衣装代、食材、設備のお金を賄わなければなりません」

「あ、うちのメイドが裁縫できるから衣装は作れるかも!」

「いいですね、では」

「いや、ダメだ。従者の手は借りない決まりだ、やるなら諸君らでやってもらう」

「なら衣装は買う方針で行きましょう。それで、いくつかの班に分けたいのですが大丈夫でしょうか?」


リオネルはとても上手に司会進行を務めた。実際に接客する人に衣装を任せ、設備作成と調理する人に人数を割いた。


「接客したい人います?」


そうリオネルが尋ねると思ったより少ない人数が手を挙げた。もちろん俺も手を挙げた、オイとカトレアの接客をするのは俺にしかできないし誰にも渡したくない役目だ。ただ周囲は心底驚いたような顔で俺を見た、それはセドリック先生ですらも例外ではない。


「…なんだ」

「いや、意外だなと思って。バルくんって貴族とか嫌いそうだったから裏方やるとてっきり」

「肩書きで人を判断する趣味はない、それに知り合いが来るんだ。俺が接客してやりたい」

「「おぉー」」


クラスから感心したような声と拍手が少し聞こえた。なんだか小恥ずかしい気持ちになりながらも、着々と決まっていった。そうして役職を決め、今後の話をするために班ごとに分かれていった。

俺たち接客班は午前4人午後4人、両方出る俺含めて計9人体制で挑むことになった。


「うちの家は飲食もやってたからこういうのは得意だよ、よろしくねバルくん」

「よろしく頼む」


そう言ってきて握手をしたのが接客班のリーダー、ウカノだ。


「我がメルクリウス家は商家の成り上がり、みなさまうちに任せたまえよ!」


褐色肌の元気そうな彼女はそう言って自信満々に胸を叩き、そうして周りに指示を出していった。初日なんてのはあくまで顔合わせと馴れ合うための時間だ。ウカノが中心となり、接客の基本などの話をする。

そうしていつの間にか昼飯の時間になり、せっかくだからと接客班の全員で学食に行くことになった。


「日替わりAセットひとつ、パンはふたつ貰えるか?」

「あいよ」


トレーに載せられた昼飯を持ち、代金を払うために財布を取り出したところでウカノが横から割り込んできた。


「あ!それうちのやつ!」

「? あぁこれか、義理の母が入学祝いにプレゼントしてくれたものだ」

「それ人気だし高いのによく貰えたね、ノクスシリーズはうちの稼ぎ頭だよ」

「そうか、俺も気に入っている」


カトレアがくれた財布が思わぬ縁の入口となった、ウカノは食事中も俺の財布について鼻高々に語っていた。


「その黒革はアッシュウルフの上位種にして希少種のノクターンっていう狼の魔物から作られてるんだよ!ほとんど数もいないから貴重だしなにより速くて強いからほとんど手に入らないんだ」

「そうか」

「たまたま老衰で死んでいたノクターンが手に入ってそこから小物を作ったんだよ、本来なら普通の人には倒せないくらい強いんだってさ!でねでね、その毛皮がすんごい丈夫で加工が難しくてうちくらいしか商品ができてないんだ…あのね!コツは鞣しの工程にあってね!日光に当てると少しだけ柔らかくなるんだ!」


商家と言っていたが彼女の口ぶりは鍛冶師そのものに近かった。自分の子供のように熱心に商品について語る様はなんとも楽しそうではあったが、永遠に続くかのように思え、周りは呆れ返っていた。

だがしかし自分にない知識はなんとも面白く味があった。ここでウカノと知り合えなければ、カトレアが財布をくれなければこんな初めての知識を吸収することはなかっただろう。


「それ、企業秘密とかじゃないのか?」

「いーのいーの!ノクターンを加工できる機会なんてそんなないし、なによりまた出たらうちが買い占めるし!」


なんともまぁ愉快な少女と班を組むことになった。だが彼女のそのひたむきさがあれば俺たちの出し物は成功するはずだ、リーダーが優秀であればあるほど組織は強くなる。エースと"墓標"がそうであるように、きっと俺たちの班も。

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