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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
聖戦魔道祭編

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108作目 黄泉竈食

「王!そのようなものに手を出してはなりません!!」

「ならこれに頼る以外どうすればよい?民は疲弊しきっている、俺の民がだ。不埒な怪物が大地を踏み締め血を流させている」

「ですが!」

「ここは俺の領土だ、そこにいるのは俺の民だ。ここは俺の国だ、俺が守らないで誰が守る?隣国の無言帝か?遠方の"黄金"か?違うだろう」


これは誰の記憶だろう、見下ろす景色の下ではふたりの男が部屋の中で言い争っている。そのふたりが見据える先には真っ黒な塊だ。大火を影で覆ったような、荒々しい炎を暗闇で無理やり封じ込めて形作ったような漆黒が財宝の中に埋もれていた。

王冠を被った男がその闇を手に掴んだ、魔力を込めたような素振りを見せるとその闇は一瞬で崩壊してまるで最初からなかったような錯覚に陥った。

直後、二人の男の影が動いた。ゆらゆらと炎のように蠢いたあと鋭利な刃物の形に変わった。


「俺は王だ、国を守るために生きている」

「アイデウス様…」

「お前は下がっていろ、少し出る」

「必ずお戻りください、王室を守るのが私の役目。主なき玉座は寂しすぎます」

「ふっ、世話をかける」


アイデウスと呼ばれた男は王冠を財宝の中に投げ入れ、代わりに近くにあった真っ黒なローブを羽織った。そして、影の上に乗り部屋を飛び出した。目線の先は地獄そのもので魔物が市民を襲っていた、炎が街中に広がっていた。

その中をアイデウスは影を自由自在に操って戦っていた。鋭利な形をした影を生やし魔物を貫いていた。そうして必死に戦っている彼が上を見上げ、目が合った。

直後、意識が覚醒する。

慌てて起き上がるが時間の経過はそれほど過ぎていないようだった、長い夢を見ていた気がするが外を見るにほんの数分程度のようだ。

以前疲労は抜けきっていないが、心の中に絡みついていた疑問のようなものがなくなっていることに気がつく。夢というのは不思議なものでどれだけ不可解なことが起ころうとも納得させるような何かがある。あの夢をなぜ見たのか分からないが夢の概要…輪郭のようなものは分かった気がした。

襲ってくる魔物に対する恐怖、自らの無力さによる怒り、手にした異能による圧倒的な全能感、そしてそれら全てを目にして民が王に抱いた感情…

それは畏怖だ、超常的な存在に対する畏怖。

偶然というわけではないだろう、であるならば"沈黙の王"と一緒に出てきたあの黒いローブを纏った骸骨の生前の姿がアイデウスか?ではなぜ今このタイミングで夢になって出てきたか、それに俺はアイデウスについては何も知らない。名前も知らない、顔も知らない、遺物は圧倒的な力を内包した個人が死してなお残った力の残滓だと聞いている。そこに記憶や説明できないなにかも力と共に体に入ってくるのだとしたら説明はつく。

だがアイデウスも遺物を手にした、ならば最初の"畏怖(フィアー)"とはなんだ?黒い男(バルバトス)に従っている四人の王とは?

力の全容は未だに把握しきれていない、この身に宿る強大な力とまるで全て知っているかのように振る舞う謎の男、そしておそらく過去の人物の記憶まで俺の中に入ってきている。俺はどうなってしまうんだ?遺物というものに頼り切っていいのか?本当に俺の味方なのか?

だが、どれだけ疑問に思ってもそれは解消されない。そして時間は過ぎていく、階下から聞こえるカトレアの「遅刻するよ」という呼びかけが俺を思考の波があるら引き上げる。

いまいち状況の理解が飲み込めないまま、俺は家を出た。街の中にあるのは人、馬、建物などだ。その全てに付随する真っ黒い影が目に付いた。

アイデウスが使っていた影を操る力、あれには既視感がある。影に乗って移動する様にも、もちろん似た既視感を抱いた。

俺が今の今まで使っていた"沈黙(サイレンス)"という異能はもしかしたら違うのかもしれない。発射される弾丸はどこから生まれてどこに消えるのか、それはいつだって疑問に思っていた。けれど遺物によって与えられる力には説明のつかないものだってあるとそう自分に言い聞かせていたが、その核心に俺は触れつつある。

試しに自分の影に動くよう強く念じてみる。

が、もちろん動くはずなどなかった。もう一度きちんと考えるべきだ、アイデウスは夢の中でどのように影を使っていた。自由自在に動かしてはいたが、弾丸のように発射はしていなかった。

あれはもっと単純に…そう、例えるならばアストラのように雷を発射するのではなく纏うように使っていた。


「…纏う、影に何を纏わせる?」


影は当然だが実体がない、腕で抱くことも手で握ることはできない。考えろ、このタイミングで俺に力が宿った意味、使えない能力は宿らない。遺物に適合した時点で、異能は引き出せる。


「…魔力か」


単純な魔力操作は俺にだってできる、であるならば影に魔力は纏わせることは可能か?

自分の影に熱を纏わせるように、覆うように、実体を持たない液体を熱を帯びた空気で囲うように、慎重に影に魔力を這わせる。


「…できた」


影がまるで自身の手先のような感覚になる、この感覚には覚えがある。初めて異能を自分の意思で引き出したときの、まるで最初からそこにあったかのような感覚。

アイデウスのような刃の形、俺が最も使った弾丸の形、全てできる。だが発射は出来ない、ではなぜ俺は今まで弾丸を発射することができたのか?

それこそが本当の"沈黙(サイレンス)"の力だ、ふたつの異能を掛け合わせて俺は今まで使っていた。いや、そういう風にしか使えなかったからアシストしてもらっていたんだ。

俺に魔力がなかったからか?だとしてもカトレアから魔力を借りている間は同じようにできていたはずだ、黒い男(あいつ)は俺に魔力を貸してやったと表現していた。でもカトレアのようなものとは違う、あくまで代行使用に近い。

なぜ?それに答えは出ない。

仮定として、異能の自由度が高すぎるから型にハメて使いやすくしているというのならば辻褄は合うがそもそもなぜ俺のためにそこまで?

あれに適合する人物が少なくて、再びこの現実に戻ってきたいというものだと俺はてっきり思っていたがだとするならばあのタイミングで俺に意識が戻ってくるのはおかしな話じゃないか?

なにがしたいのかまるで分からなかった、行動に不可解な要素がありすぎて読めない。バアルゼブルが出てきたあの日から、いや正確にはもっと前…学園都市にくるようになってからか?味方のように振る舞い始めたのは、ここになにかそこまでの思い入れがあるのか?


「バル?何をそんなに思い詰めた顔をしているの?」

「少し考え事だ、リオネルと一緒じゃないのか?」

「別にいつも一緒にいるわけじゃない、そもそもフェイの家とリオネルの家は格が違うから一緒にいること自体が少し特殊」

「誰と一緒にいたっていいだろ」

「貴族は少し面倒、バルもなったら分かる」

「ならごめんだな」


途中でフェイが合流し、挨拶を交えた。

疑問はここまでにしてここからは学業に集中しなくてはならない、帰ってからいくらでも結論を出せばいいだろう。


「前話してたあの魔物の話、思い出したから今日の放課後空けておいて」

「空間を削る魔物の話か、今教えてくれるじゃだめなのか?」

「その魔物の話をするには、この場では時間が足りなすぎる」

「? そうか」

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