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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
聖戦魔道祭編

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107作目 魔力貸与

あれから朝日が昇るまで俺は椅子に座ってじっとしていた。部屋の中の影を見飽きるほど、穴が空くほどに見つめていた。そしてやがてその影は日光に呆気なく吹き飛ばされ、霧散していく。

重厚な雰囲気を纏った暗闇が光によって消える、ある種の心地良さのようなものを抱きながら立ち上がって大きく伸びる。骨がゴリゴリと鳴って、開放感が俺を襲った。

視界の端でなにかが動いたような気がした、その方へ近寄り扉を開けて外に出る。塀によってなんとか生き延びていた影が再びぐにゃりと動いた。


「びっくりした、なにしてんの?そんなところで」

「! なんだカトレアか…」

「まさかずっと起きてたの?」

「まぁな」

「ちゃんと寝ないとダメだよー」


家の中にいるカトレアに声をかけられ、再び影の方に視線を戻しても動きはなかった。寝不足で見間違えたか?いやだとしても昨日から続く不可解な事象は説明がつかない、それとも関係がないようには見えないし…


「ほら早く、魔力渡してあげるからおいで」

「あぁ、すぐにいく」


朝のルーティンと化した魔力貸与をしてもらうため、俺は家に戻った。ソファに座って目を閉じる。布が擦れる音がして、微かに花の香りが鼻を付いた。そうして額に指が押され、徐々に温かいものが流し込まれてくる。それはやがて腹の底まで溜まっていき、いつもならそうやって終わるはずだった。

痛みが、体が破裂しそうになるほどの鈍痛が体を巡った。今までのような心地の良いお湯が巡る感覚ではなく、火傷してしまいそうな熱が針のような形をして体内を暴れ回った。


「…ッ…ふぅっ…」


俺が痛みにこらえ、熱を帯びた鈍痛を逃すためにいくらか重たい息を吐き出したところでカトレアは魔力貸与を中断した。瞳を開けると疑問を拭えないような神妙な面持ちで俺を見ていた。


「…変だな、この反応はおかしい」

「…ッ…どうすればいい…結構きついんだが…」

「…! 今すぐに魔法を使え!とびきり重たいやつ!」

「…? あぁ…わかっ…た…」


俺はカトレアの肩を借りながら這いずるように家の外に出て空に向けて詠唱を始め、放った。


「火ノ段 九行目 火球…!」


普段のように放った火球は普段より何倍も大きいサイズで、いくつも放たれた。空中で互いにぶつけるように軌道修正し、空で大きな爆発が起こった。

魔法を放ったおかげか体の痛みはほぼなくなり、ひりひりとした感覚と少しの痛みだけが体内に残った。


「なんなんだ…少し変だ…カトレア」

「…おそらく、何らかの要因でバルに魔力が満ちている。でもあたしは渡していないし、こんなことは有り得ないはずなんだ」

「…何らかの要因」


考え得る限りでは、黒い男(バルバトス)が言っていた力が俺の方に渡ったということだろう。その際に魔力も俺の方に来たというのか?だとするならば俺に異能が使えない理由にも説明がつく、俺は異能を使う際に魔力を使ってこなかった。黒い男(バルバトス)が今まで代わりにやってきてくれたことだからだ、あいつの魔力が俺に譲渡されたのならば、説明がつく。

俺は昨日から起こった出来事を全てカトレアに話した、すると眉間に皺を寄せて考えるような素振りをして顎に手を置いた。


「仮に、仮にだ。その通りだとしよう、なら"畏怖(フィアー)"とはどういう異能なんだ?」

「…分からない、異能の輪郭が掴めないんだ。泥の中で泳いでいるような感覚だ、今まで頼っていたものがなくなっていくような…」

「異能の輪郭…本来ならば有り得ない話だよ。全く別系統の異能がひとつの体に同居しているなんてのは。しかもそれがあともう2つあるなんて異常だ」

「俺の遺物は最初からずっとおかしかったさ、夢にずっと現れてくる遺物の擬人化がいて俺に話しかけてくる。まるでこの先に起こることが分かっているような素振りでな」

「分からないことが多すぎる、遺物に関してはエースとラーマが一番詳しいから聞いてみる。それまで異能は可能な限り使わない方がいい」

「分かった」


爆発音によって周囲は騒がしくなり、オイも滑り落ちるように階段を下りてきた。


「わわ!!今のなんですか!!」

「安心しろ、俺の魔法だ。気にする事はない」

「えぇ?なにかあったんですか?」

「少しな、けど大したものじゃない」

「ならいいですけど…怪我とかはないですか?」

「もちろんだ、心配してくれてありがとうな」


俺はオイの頭に手を置いて、階段を上って着替えを手早く済ませた。理解しにくいことばかりがここ最近起きている、異能は咄嗟に発動しなかったし魔力がこの身に宿った。

ほぼ無意識に、刀を手に取って少しだけ抜いた。

真っ黒な刀身に反射された俺の顔は別人に見えた。寝不足でクマができ、顔は疲れ切っていた。その表情がなんだか黒い男(バルバトス)に似ていて慌てて鞘に刀身を収めた。ぱちんと小気味いい音が鳴って、俺の心臓は跳ね上がりを辞め始める。

こんなとき、アストラがいてくれたらと半ば無意識に考え始めてしまった。昨日から続く自己嫌悪の坩堝と、不可解な事象に俺の精神は絡め取られてしまった。

そのせいだろうか、俺は刀を握り締めたまま意識を暗闇の奥底にまで手放してしまった。

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