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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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99作目 家族

「では2人は永遠の愛を誓いますか?」

「はい」

「はい…!」

「では、誓いのキスを」


季節は春、穏やかなそよ風が頬を撫でる頃にイザナはコールと結婚した。1ヶ月ほど前の食事の時間に、あたしに結婚の旨を報告してきた。その後はコールが挨拶に来て、両親にもその話をしてからトントン拍子で話は進み、あっという間に結婚式を挙げた。

ミストレア教会を3時間ほど借り、友人や親を大勢呼んで盛大な結婚式だった。綺麗な白いヴェールを纏ったイザナはとても美しく、赤い髪がよく映えた。左手の薬指にはめた指輪を光らせ、嬉しそうにあたしの方を見た。


「お姉ちゃん、今までありがとう」

「何を言ってるのさ、なんもしてないよ」

「ううん、そんなことない。お姉ちゃんのお陰で料理もできるようになったし、治療所も開けた」

「全部自分の努力のおかげだよ。それにここがゴールじゃない、これから更にやることが増える。なにかあったらすぐに連絡して」

「うん…うん…!」


新郎新婦が各所に挨拶回りをし始めたころ、イザナは両親よりも先にあたしのところに来た。そして長い時間抱きしめ合った、イザナはドレスを引き摺らないように長いヒールを履いていたからあたしと背丈が同じくらいで、初めてお互いの視線が同じ高さになった。

ふわりと、花の香りが鼻をついた。


「コールくんも、イザナのことをよろしく頼むね」

「勿論です、お義姉様。任された任務はきちんと達成するのが騎士の務めですから」

「騎士である前に、イザナの夫なんだから大事にしてあげてね」

「はい…もちろんです…!」


そうしてふたりはあたしの元を離れ、お互いの両親や友人などに挨拶回りに行った。コールくんは騎士といっても爵位などはなく、所謂平民から成り上がったタイプだった。だというのに剥き出しの野心などはなく、騎士という役職や仕事に誇りを持って熱心に仕事をしているようだ。学園都市の市民からの支持も厚く、両親も良い人そうだった。

それにあの日見た灰色の剣士とも親友のようだった、どうやら首都から来た騎士見習いらしく、名前は名乗らないようだった。

どうして名乗らないのかと聞くと、鍛錬先で名前を出すというのはあまり良くないことなのだとか。騎士というのは大抵貴族がなるもので、名前に力があるためだ。そして面白い話が更にひとつ、彼もイザナに惚れていたらしい。騎士と魔法士の三角関係なんて実に面白いじゃないかと思ったが、この結婚式に出席している彼は心の底から2人を祝っているようで安心した。

イザナがモテるのは昔からでその愛嬌の良さと愛くるしい見た目と小さい身長のおかげでよく色んな男に言い寄られていた。あたしとイザナが冒険者になりたてのころは入ったパーティの内部を無自覚に崩壊させ、最初についたあだ名がパーティクラッシャー。そこからあたしたちは2人で依頼に行くことにした。

なんていうのも、もうない話だ。彼女は冒険者をやめ、医者として専念するのだ。彼らが建てた家兼治療所は大通りから近く、それに広く清潔だった。冒険者ギルドと提携し、薬草の採取依頼を定期的に出し、かつ優先的に卸してもらえるように交渉も終わらせていた。騎士の妻というのは、それだけで信頼を獲得できる。あたしは肩書きで人を見ないし騎士の妻である前にあたしの妹だが、それでもその力は凄まじかった。

結婚式を終え、ひとりで広い自宅に帰った。結婚式の最中は控えていた煙草に火をつけ、大きく息を吸った。卒業以来久しぶりに来たスーツは喉を締め付け、ネクタイを緩めた開放感と煙草の快楽物質が脳を気持ちよくさせた。

女でスーツを着るのは少し変だったか、だがドレスなんて柄じゃないし、なんとなく着たくなかったのだ。久しぶりに1人前の料理を作って静かな部屋でひとりで食べる。


「…濃いな」


イザナのせいというか、あたしはもう濃いめの味付けが無意識に染み付いていた。次からは薄目で作らなくちゃいけないが染み付いた癖というのは中々抜けなかった。

そこからまた季節は巡って、イザナが家を出てから1度目の春が訪れた。あたしは相も変わらず冒険者と回復魔法士をやっていた。金を稼ぐ目標とかは特にないが、何かあった時に役に立つのもまたお金だった。イザナはこの前、子供ができたことを嬉しそうに報告してきた。まだまだお腹は小さいが彼女はこれから母になるそうだ。


「イザナ、これピクルス。なんか妊婦さんはみんな好きらしいよ」

「ありがとー!そこ置いといて」


イザナの治療所は大盛況だった。あたしもできることは手伝いたかったが医学の知識なんてものはないし、回復魔法を使おうにも戒律のせいで使えなかった。戒律を破れば回復魔法は使えなくなる。

イザナの白衣は段々と様になっていた、まるで最初からそれを着る運命だったかのような不思議な感覚だった。治療所の外で煙草を吸っている最中、例の剣士が煙草を口に咥えたまま現れた。


「あ、ホノカさん。どうも」

「ん、名無しくんか」

「そうっす、ていうか俺の方が年上なんすけどね」

「そう硬いこと言うなよ、今日はどうしてここに?」

「ちょっと腕傷んできたんで診てもらいに」

「ふーん」


彼の手首は青くなっていた、手のひらは剣ダコが無数に出来ていたし、尊敬すると同時に痛ましかった。


「あ!名無しさん!また煙草吸ってる…ってお姉ちゃんも!!やめなって!も〜!」

「げっ…」

「…やめるよ」

「え!?!?」


窓から顔を出したイザナがいつも通り注意してきた時、なんとなく煙草を辞めようと決意した。いや、なんとなくではない、イザナの子供に悪影響があったらいけないし、なにより煙草には早死するというリスクが今になって怖くなった。もっと長生きしたいし、イザナの子供たちに色々なことを教えてあげたい。

それにもう少し金が溜まったらあたしにも決まった相手が欲しい、金はあるから本当に心の底から好きな人とゆっくりと穏やかな時間を過ごして、イザナの治療所を手伝ったりしたい。


「ホノカさん辞めるなら俺も辞めようかな」

「えっ!えっ〜!?!?なんでなんで??」

「長生きしたくてね」

「まぁそんなとこっす」


驚いた表情のあと、すぐに嬉しそうな笑顔で窓枠に頬をついてあたしたちをじっと見ていた。そして患者に呼ばれた直後すぐに真剣な顔になって戻って行った。そんな風にころころと変わるイザナの表情が好きだった。


「君も診てもらわなくていいの?」

「あ、忘れてた。そんじゃホノカさん、またどっかで」

「うん」


慌ただしく治療所の中に入っていった灰色の剣士を見ながら、彼だけはないなと思った。もっと大人で、あたしより弱い人がいい。彼は見る見るうちに上達しているしすぐにもっともっと強くなるだろう。

煙草の箱をくしゃっと握って禁煙を決意した、思えばイザナの前で毒を撒いていたのと何も変わりはしない。

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