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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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98作目 余計なお世話もしたくなる

「イザナの姉ですが、ここに来てますか?」

「あぁイザナさんの、聞いてた通りの美人ですな」

「それはどうも、イザナは今どこに?」

「あぁ、おそらく訓練場にいると思われますよ。コールもそこにいるので」

「コール?」

「彼氏ですよ、もしかして聞いてないのですか?」

「まぁね、だから確かめに来たんです」

「そうですか」


詰所にいた衛兵と話し、訓練場まで一緒に歩くことになった。道中でコールという人物について色々と話してくれた。年はあたしと同じ17、騎士流の剣術をいくつも収め、驚くことに本当に既に騎士になっているらしい。この国の騎士団に最年少で入り、しかも敬虔なミストレア信徒で酒にも依存していない。

非の打ち所がない優良物件だ、あの二人を吟遊詩人が知れば特に脚色など加えずとも立派な戯曲になるだろう。

そんなことを話しながら辿り着いた訓練場では金属音が鳴り響き、地面を踏み抜く力強い行進の音が聞こえた。男たちのぶつかり合う音や怒号がどこまでも響いて、太陽に吸い込まれていった。柵に囲まれた衛兵たちをイザナはぼんやりと眺めていた。手に持っているのは有名なパン屋の紙袋だ、お土産を持っていくなんていい彼女じゃないかと感心した。

あたしと一緒に着いてきた衛兵がイザナを呼ぼうとしたが止め、あたしも遠くから丘に腰掛けて眺めていた。イザナの視線の先がおそらくコールという人物だろう、短い金髪に青い目に整った目鼻立ちが他の衛兵から浮いて見え、体の線は細いのに打ち合いでは一切負けていなかった。

しかし衛兵というのは色んな種類の人たちがいるようだな、年齢もバラバラだ。好奇心が刺激され、あたしもしばらく衛兵の訓練を観察していた。特に気になったのが灰色の髪の男だ、他の衛兵とはなんだか武器の構え方が違くて、上半身を屈めて剣を一瞬で抜き取って水平に斬っていた。

上からじゃなくて横からのその剣術をあたしは知らなかったが、その異質さになんだか目を惹かれた。そんなこんなで少しだけ続いた訓練もやがて終わり、タオルで汗を拭きながらイザナの元まで向かったコールが見えた。そうしてふたりは楽しそうに話して、イザナは紙袋を渡した。

幸せそうで良かった、もしイザナを悲しませるようなやつなら許さないつもりだったがあれなら問題ないだろう。


「ん…?この思考は良くないんじゃないか」


ふとそこで思って独り言を呟いた。彼女が選んだのならどんな相手でも尊重すべきだし、こんな相手を見定めるようなことをするべきてはない。あたしは姉だが、彼女には彼女の人生がある。もうこんな密偵紛いのことはやめにしよう。今日見たことも忘れてしまおう。

あたしはそこから家に帰って、イザナが帰ってくるのを煙草を吸って待っていた。


「ただいま〜」

「随分遅かったね…ってなにその格好」

「へへん、いいでしょ。白衣は医者の制服なんだってさ、やっぱり格好から入らないとね〜」

「ふーん、いいんじゃない?似合ってるよ」

「えぇ〜?本当に思ってる?」

「思ってる思ってる」

「ていうか煙草!やめなって!!いい?煙草には病気のリスク、呼吸器や循環器の重大な疾患、寿命が減る…とか色々あるの!それでも吸う?」

「吸うね」


イザナが帰ってきたことで、あたしは夕食の準備を始める。昔1度だけイザナが料理を作ったことがあったが壊滅的に料理のセンスがなく、あたしも得意ではないが必然的に料理の担当はあたしになった。

そうしてあたしが料理を作り始めて、イザナは机の上にノートとペンを広げた。医者の勉強だろう、頭はいいはずだからすぐにでもなれるはずだ。


「熱心だね」

「まぁねぇ〜、私も早くお姉ちゃんみたいに沢山の人を助けたい。それに医者は自由に値段を決められるし、お金がない人もそれで助けられるかもしれない」

「医者っていうのは回復魔法士と違って材料がいる。そんなんじゃ食べていけないよ」

「そこは彼になんとかしてもらうからいいよ、私がそういうことするのも彼は了承してくれた」

「…そう、でも助けるなら貴族にしなよ?回復魔法士と違って好きに料金決められるんだからさ」

「む…命に貴賤なし、だよ!」

「はは、なにそれ」


軽く雑談をしながらパスタを作り上げ、皿によそってイザナに渡す。目を輝かせながらフォークを突っ込み、美味しそうに頬張った。


「ん〜!!やっぱりお姉ちゃんの料理美味しいよ」

「そう?かなり濃いめの味付けだけど」

「いいんだよ!まだ若いんだから濃いものは今のうちに沢山食べておこう?」

「そうだね」

「さっき言った命に貴賤なしっていう言葉はね、私が勉強してる医学の本の作者の言葉なんだ。意味は〜」

「どんな命も平等で尊いものって意味だろう?何となくわかるさ」

「む…流石だね…」

「こんなんでも首席だからね」

「むか〜!」


そんな楽しい雑談をしながら食事をする時間がなによりも好きだった、世界で誰よりも大切な自分の妹が幸せそうに笑っているのがなによりも好きだった。彼女が幸せになるためならどんなことでもできるし、彼女を不幸せにすることは全力で取り除きたい。

わずか数秒でも、先に生まれたのが姉だ。なら妹は守らなくてはならない。使命というより本能に近い。そこから何日も何日も、彼女がこの家を離れるまでずっと二人で食事を共にした。

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