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僕は研究者を甘くみていたようです

 昼休み終了の予鈴が鳴った。

 僕は、軀方(くがた)さんの教室から職員室へ向かっていた。


 「あ、くるりん!」


 明るい声に呼び止められる。

 振り向くと、そこには貝柱(かいばしら)先輩が立っていた。


 「うわ!マジどうしたし、そのケガ?」


 先輩が僕の右腕を指差す。


 「いや、ちょっと……」

 「いやちょっとじゃないし!マジ大ケガなんだけど!」

 「見た目ほどじゃないんですけどね」

 「あっ、ついに過激派の軀方魑瑠(ちるり)ファンから襲撃?」


 大袈裟に身振り手振りで騒ぐギャル。


 「いや、そういうわけでもないです」

 「そうなんだ?」

 「僕、急いでるんで、そろそろ行ってもいいですか?」


 歩き出そうとした、そのとき。


 「世(・)の(・)中(・)に(・)は(・)、時(・)間(・)を(・)操(・)る(・)オ(・)ー(・)パ(・)ー(・)ツ(・)が(・)あ(・)る(・)ら(・)し(・)い(・)よ(・)」


 思わず足が止まった。

 恐る恐る振り返る。


 「なんの話ですか?」

 「んっ?もし時間が戻せたら、くるりんのケガも一瞬で治るのにって話」


 先輩がウィンクする。


 「ははっ。そんな都合のいいオーパーツがあったらいいですね」


 笑って、今度こそ歩き出す。


 「それじゃ、貝柱先輩」

 「うん、まったねー!」


 手を振り合い、別れる。


 ――ドクン。


 胸の鼓動が、やけに大きく聞こえた。

 一瞬。

 本当に一瞬だけ。

 僕のオーパーツのことを言っているのかと思った。


 「……考えすぎだ」


 そう呟いて、僕は職員室へ急いだ。


    ◇


 午後の授業が始まって、少し経った頃。

 僕は旧イレブンギア施設にある、高継(たかつぎ)さんの研究室へ来ていた。

 部屋には、高継さんと僕の二人だけ。


 「まずは、復帰おめでとう。唯一(ゆい)君」


 自分のデスクに着いた高継さんが言う。


 「……ありがとうございます」


 勧められた椅子に腰を下ろす。


 「それでなんだけど……」


 高継さんが端末を操作した。

 モニターに映し出されたのは―――前回の戦闘映像。

 嫌な予感しかしない。


 「唯一(ゆい)君」


 映像を見ながら高継さんが言った。


 「はっきり言って、あなた、いつ死んでもおかしくないわよ」

 「……ごもっともです」


 なにせ僕は、今回の戦闘で心肺停止までしている。

 過藤(すぎふじ)先生がいなければ、今ここにはいなかった。


 「なんで、そんなに危険な戦い方しかできないの?」


 高継さんの声には、怒りが混じっていた。

 でも、それ以上に――心配している。


 「すみません。でも、あのときは……そうするしか、軀方さんを守れないと思って」

 「だからって、あなたが死にかける必要はないのよ!」

 「……はい。すみません」


 しばらく沈黙が落ちる。


 「とにかく」


 高継さんは深く息を吐いた。


 「唯一(ゆい)君は、生き残ることを最優先にして」

 「僕は、イレブンギアで最弱ですからね」


 自嘲気味に笑う。

 口にすると、やっぱり少しだけ苦い。


 「だけど……」


 ぽん。

 肩に手が置かれた。


 「魑瑠(ちるり)を守ってくれて、ありがとうね」

 「…………」


 その笑顔が、母さんの笑顔と重なった。


 「……あっ、えっと……はい」


 高継さんにとって、軀方さんは家族なんだ。

 どれだけ強くても。

 どれだけ戦闘経験があっても。

 任務に出るたび、きっと心配している。

 血は繋がっていなくても――家族。

 そんなことを、今更ながら実感した。


 「はい!小言はここまで!本題に入るわよん!」 

 「……あ、はい」


 いつもの高継さんに戻った。


 モニターの映像が、ある場面で停止する。

 そこからコマ送りで、少し戻る。

 そして、また進む。


 「唯一(ゆい)君。前から気になってたんだけど、いいかしら?」

 「はい。なんでしょう?」


 モニターに映っているのは――僕。

 実験体(テストギア)との距離を、一瞬で詰めた場面だった。


 「これ」


 高継さんの指が止まる。


 「どう見ても、瞬間移動なんだけど……」

 「…………」

 「唯(・)一(・)君(・)、そ(・)う(・)い(・)う(・)特(・)殊(・)な(・)オ(・)ー(・)パ(・)ー(・)ツ(・)持(・)っ(・)て(・)た(・)か(・)し(・)ら(・)?」


 真っ直ぐな視線が、僕を射抜く。


 「……多分、六号の身体強化でそう見えるだけじゃないですか?」


 僕はホルスターから六号を取り出し、高継さんに見せた。


 「ふーん?」


 高継さんは六号を一瞥すると、端末を操作した。

 別の映像がモニターに映し出される。

 そこにいたのは――貝柱先輩。


 「これ、見てくれる?」


 どうやら、先輩のオーパーツテストらしい。

 普通に再生すると、先輩が瞬間移動したように見える。


 だけど――。


 「コマ送りにするわね」


 映像が、一コマずつ進む。

 そ(・)こ(・)に(・)は(・)、先(・)輩(・)の(・)残(・)像(・)が(・)残(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。


 「唯一(ゆい)君(くん)と彼女(かのじょ)の映像(えいぞう)の違(ちが)い、分(わ)かるかしら?」

 「…………」

 「ど(・)れ(・)だ(・)け(・)速(・)く(・)動(・)い(・)て(・)も(・)、残(・)像(・)が(・)残(・)る(・)の(・)よ(・)ね(・)」


 そう。

 学(・)園(・)最(・)速(・)の(・)特(・)待(・)生(・)で(・)あ(・)る(・)貝(・)柱(・)先(・)輩(・)で(・)す(・)ら(・)、残(・)像(・)が(・)残(・)る(・)。

 な(・)の(・)に(・)僕(・)の(・)映(・)像(・)に(・)は(・)―――そ(・)れ(・)が(・)な(・)い(・)。

 

 「ちなみに、知ってると思うけど、彼女のこれはオーパーツよ」


 高継さんが六号を指差す。


 「そ(・)の(・)ナ(・)ノ(・)パ(・)ー(・)ツ(・)が(・)、オ(・)ー(・)パ(・)ー(・)ツ(・)を(・)超(・)え(・)る(・)速(・)度(・)を(・)出(・)せ(・)る(・)っ(・)て(・)こ(・)と(・)?」


 オーパーツを基に作られたナノパーツ。

 言ってしまえば、レプリカだ。

 そのナノパーツが、オーパーツを超えた?

 そんなこと、今の技術じゃ――。


 「それを踏まえて、もう一度質問するわね」


 高継さんの視線が、六号から僕へ移る。


 「唯(・)一(・)君(・)、そう(・)い(・)う(・)特(・)殊(・)な(・)パ(・)ー(・)ツ(・)、持(・)っ(・)て(・)た(・)か(・)し(・)ら(・)?」

 「…………」


 額に、冷たい汗が流れた。


     ◇


 まずい。

 完全に、追い詰められている。


 「そんなに動揺しないでよ。別に責めてるわけじゃないわ?」


 高継さんは、いつもの調子だった。 

 だけど僕にとっては、それどころじゃない。

 どうする。

 どうやって、【時の解明者(タイムアルバム)】の能力を隠す?

 ここまで映像を見せられたら、もう誤魔化しきれないんじゃないか?

 焦るな。

 考えろ。

 何か言わないと。


 「……高継さんは、僕の映像からどんなことを考えてるんですか?」

 「そのままよ」


 高継さんはあっさり答えた。


 「唯一(ゆい)君は、特殊なオーパーツを持ってるんじゃないかしら?って」

 「もし……仮に持ってたとしたら?」


 高継さんは首を傾げる。


 「唯一(ゆい)君が強くなるためのプログラムが、組みやすくなるわね」

 「…………」

 「んー、今考えてるのは、瞬間移動できるオーパーツかしら」


 顎に指を当て、にこにこ笑う。


 「もしそうなら、戦略も訓練も、グンッと幅が広がるんだけど……」


 もう、頭の中では色々な訓練方法が出来上がっているらしい。


 ―――瞬間移動。

 そう思われているなら、それはそれでいい。

 でも。

 もし訓練方法が【時の解明者(タイムアルバム)】と噛み合わなかったら?

 意味がない。


 かといって――。


 「時(・)間(・)を(・)止(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)オ(・)ー(・)パ(・)ー(・)ツ(・)で(・)す(・)」


 なんて言って、信じてもらえるのか?

 そして、それを知られたら。

 僕はどうなる?


 「…………」


 僕が黙り込んでいると、高継さんがふと口を開いた。


 「もしかして」

 「…………?」

 「唯(・)一(・)君(・)の(・)オ(・)ー(・)パ(・)ー(・)ツ(・)も(・)、時(・)間(・)を(・)操(・)る(・)の(・)か(・)し(・)ら(・)?」

 「えっ?」

 「唯一(ゆい)君は知ってるでしょ?魑瑠(ちるり)のオーパーツの能力」

 「灰に触れた生物の時間を加速させる……ですよね?」

 「そう、それ」


 高継さんは頷いた。


 「世(・)界(・)に(・)は(・)、時(・)間(・)を(・)操(・)る(・)オ(・)ー(・)パ(・)ー(・)ツ(・)が(・)あ(・)る(・)。魑(・)瑠(・)の(・)も(・)、そ(・)の(・)一(・)つ(・)よ(・)」

 「それで……どうして僕のも時間を操れると思うんですか?」


 高継さんは答える代わりに、もう一度映像を再生した。

 僕が実験体との距離を詰める。

 

 一瞬。


 まるで、そこにワープしたかのように。

 映像が止まる。


 「これが瞬間移動じゃないとしたら――」


 高継さんの指が、停止した僕を指差した。


 「時(・)間(・)を(・)止(・)め(・)て(・)移(・)動(・)し(・)て(・)る(・)、と(・)し(・)か(・)思(・)え(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)よ(・)」

 「…………」


 その瞳には、確信があった。

 僕は小さく息を吐いた。

 ――僕が時を止められることを知っているのは、ミゴちゃんと軀方(くがた)さんだけ。

 できれば、それ以外の誰にも知られたくなかった。


 でも。

 もう、言い逃れできない。

 

 それなら――。

 高継さんに話すことで、僕はもっと強くなれるかもしれない。

 そんな期待も、確かにあった。


 僕はゆっくりと息を吸った。

 そして――。


 「……実は―――」

どうも、雁木真理です。

ルビの大幅削減、行間の調整をしました。

感想、ご意見、ブクマありましたら嬉しいです。

それでは、皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。

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