上げてけ集中力!
九月後半。
放課後の無名学園。
僕は自分の工房で、ひたすら紙を折っていた。
折る。
折る。
また折る。
最後の工程を終えると、一枚のブックカバーが完成した。
「本当にこれで集中力が鍛えられるのかなぁ……」
次の紙を手に取る。
《ほらほら、ブーブー言わないで折る!》
ミゴちゃんの檄が飛んだ。
あれから何回か高継さんのプログラムを受けた。
そして分かった僕の欠点。
集中力が続かないこと。
確かに、今までの戦闘で油断をすることが多かった。
それは経験不足だと思っていた。
けれど、高継さんの考えは違った。
「休むのはいい。でも集中を切らさす癖は直さないとね」
そう言って渡されたのが、この大量の紙だった。
一週間で二千枚。
全部ブックカバーにしろ。
という無茶ぶり。
気付けば三日目。
まだ半分以上残っていた。
「……頑張るしかないか」
呼吸を整えて、僕は息を止めた。
世界が静止した。
空気抵抗を感じながら、手だけを動かす。
折る。
折る。
折る。
最初は一枚仕上げるだけで何度も時間を止めていた。
けれど、今は違う。
一回止めて一枚。
呼吸をして、また一枚。
そのリズムを崩さないように集中する。
……。
…………。
………………。
「ふへー……」
手を止めて深く息を吐いた。
時計を見る。
気付けば十七時目前だった。
完成したブックカバーの山を見て苦笑する。
「やっと半分って感じかぁ」
《このペースなら終わりそうじゃん》
「……なんとかね」
今日の作業はここまで。
椅子にもたれ掛かる。
すると、妙に身体が落ち着かなかった。
この三日、まともな訓練をしていない。
運動なんて好きじゃないはずなのに。
身体が、動きたがっている。
「……少し運動して帰ろうかな」
《訓練場?》
「うん!」
◇
訓練場に着くと、先客がいた。
軀方さんだ。
数十台の小型ボットに囲まれながら訓練している。
ボットが不規則に突進する。
軀方さんは、それを踊るように躱していた。
綺麗だった。
思わず見惚れるほどに。
すると。
ふと目が合う。
「あ、唯一君!」
嬉しそうな声。
―――その瞬間。
軀方さんの動きが止まった。
ボットが一斉に突っ込む。
「危ない!」
僕は息を止めた。
世界が静止する。
一直線に駆け出し、ボットの軌道を弾いた。
呼吸をする。
時間が動き出す。
ボットが明後日の方向へ飛んでいく。
そのまま軀方さんの手を掴んだ。
「軀方さん!」
壁際まで一気に走る。
「危ないじゃないですか!」
「ごめん……唯一君が見えたから、つい」
僕が見えたからなんだというんだろう?
けれど今はそれどころじゃなかった。
軀方さんを壁際に置いて、僕は振り返る。
まだボットは止まっていない。
向かってくる。
なら―――壊すだけだ。
息を止める。
世界が止まる。
ボットに拳を叩き込む。
呼吸をする。
また止める。
殴る。
止める。
殴る。
最後の一台を粉砕したところで息を吸った。
「これで終わりだ!」
辺りを見回し、ボットが全て破壊されているのを確認。
動く気配も感じられない。
そこまで見て初めて僕は軀方さんへと向き直った。
「すごい唯一君!」
軀方さんが駆け寄ってくる。
「前よりずっと戦い方が上手になってる!」
「ありがとうございます……じゃなくて!」
僕は一歩前に出た。
「訓練中に動きを止めるなんて危ないじゃないですか!」
「あぅ……ごめんなさい」
シュンと肩を落とす軀方さん。
うっ。
怒りづらい。
「い、いや、でもよく考えたら軀方さんだから大丈夫だったかもしれないですけど」
「うん、平気だったよ」
にっこりする軀方さん。
「でも、守ってくれて嬉しかった」
反則だと思う。
その笑顔。
思わず目を逸らした。
すると、軀方さんが回り込んでくる。
「あ、でもね!」
「はい?」
「いつもは唯一君がそうなんだよ」
ぐさり。
「戦闘中によそ見したり、考え込んだり」
上目遣いで少し睨まれる。
紫の瞳。
吸い込まれそう。
逃げられない。
「……すみません」
「でも今日は違った!」
ぱっと笑顔になる。
「最後まで気を抜かなかったもん」
「本当ですか?」
「本当!」
即答だった。
素直に褒められるものだから、表情が崩れそうになる。
それを必死に堪えた。
「唯一君、ちゃんと強くなってると思う」
学園最強の軀方さん。
その人にそう言われる。
嬉しくないわけがなかった。
……高継さんのプログラムも、無駄じゃなかったらしい。
僕は、少し飽きてきたブックカバー作りを頑張ろうと思った。
「そういえば唯一君、ここに来たってことは訓練?」
「そう思ってたんですけど、今日はもう十分かなって思います」
「それじゃ、また一緒に帰らない?」
一緒に帰るといっても駅までなんだけど。
軀方さんからのお誘いは、とても嬉しかった。
「はい、それじゃ片付けて帰りましょうか?」
「そうしよう!」
本気で嬉しそうに頷く軀方さん。
こうやって素直なところが、凄く可愛らしい。
見た目はとても綺麗で凛としているのに、こういう少女のような反応。
ギャップが凄くて、いつもドキドキしてしまう。
そんな胸の鼓動を悟られないように片づけを始めようとした時。
ドゴォォン!
轟音が響いた。
「え、えぇ?」
言葉を失う。
軀方さんは違った。
すでに構えている。
「唯一君!」
鋭い声。
「構えて!」
反射的に身構える。
僕と軀方さんは、破壊された壁を睨んだ。
―――ガラガラ、ガラガラ。
瓦礫が崩れる。
その奥から巨大な影が現れた。
「ヒロいばしょに出たナ」
現れたのは―――あの実験体。
以前、軀方さんに四肢をへし折られた巨漢だった。
だが今は違う。
腕と脚はナノパーツで補強されている。
さらに見たことない装備まで身に着けていた。
実験体と目が合う。
口の端を歪ませてた笑み。
そして。
「……見つケタ」
嫌な予感が、確信に変わる。
「オマエら、コロしてやる」
僕は静かに深呼吸をした。
―――戦闘が始まる。
どうも、雁木真理です。
お久しぶりです。
やっと書く時間が出来ましたので、一か月ぶりくらいの投稿です。
コメント、ウォッチリスト、お待ちしてます。
よろしくお願いします。
それでは今回も、皆様の暇つぶし程度になってましたら、幸いです。




