訓練のあと、軀方さんと寄り道
旧イレブンギア施設、訓練場。
五限の終わり頃。
僕は、訓練君と向き合っていた。
「見つめ合ってても始まらないわよー」
イヤーカフから高継さんの声。
「わかってます」
呼吸を整え、息を止めた。
【時の解明者】が発動。
―――時が、止まる。
音も、空気も、すべて凍り付く。
その中を、踏み込む。
空気抵抗を押し切って、右腕に力を溜める。
限界まで引き絞って―――息を吸う。
時間が、動き出す。
「―――クラッーーーシュッ!」
駆動音。
次の瞬間、衝撃が爆ぜる。
訓練君の頭部が弾け飛んだ。
同時に、僕の身体も吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
床に叩きつけられる。
すぐに起き上がり、構える。
頭のない訓練君が―――立っていた。
「……え、すごっ」
首元から火花を散らしながら。
「これ、人に使っちゃダメだと思うんですけど……」
「出力は要調節ね。それより腕は?」
右手を握っては開く。
「一発なら、問題なさそうです」
「その出力でそれは優秀よ」
少しだけ、誇らしい。
―――その瞬間。
風が頬を掠めた。
反射的に顔を逸らせる。
見ると、頭のない訓練君が拳を振り抜いていた。
「おちょちょっ!まだ終わってないんですか⁉」
「あら、暴走してるわねー」
「軽く言いますね⁉」
「もう使えないし、そのまま壊しちゃって」
「簡単に言いますね……!」
「そのくらい簡単にできないと、魑瑠守れないわよ?」
―――それを言われると、弱い。
「……やります」
構え直す。
ジリジリと距離を詰めてくる訓練君。
まだ遠い。
なら―――また時間を止めて。
そう思った瞬間。
訓練君の下半身が、ブレた。
「―――なっ!」
衝撃。
腹に蹴りが突き刺さる。
勢いのまま、吹き飛ばされる。
「がはっ!」
滑るように転がり、なんとか立つ。
……軽い。
思ったより、効いてない。
見えない一撃。
―――あの時と同じだ。
再び、ブレる。
「同じ手が通じるか!」
息を止めた。
世界が止まる。
蹴りが、見えた。
側頭部狙い。
身を沈めて躱す。
そのまま踏み込む。
拳を振り上げ――叩き込む。
「―――クラッシュ!」
衝撃が炸裂する。
今度は、踏み止まる。
逃がさない。
衝撃が、そのまま相手に叩き込まれる。
ドゴォーン!
上半身が吹き飛んだ。
破片を躱し、距離を取る。
残った下半身が、崩れ落ちた。
「……終わり、ですか?」
「そうね、完全に機能停止。お疲れ」
力が抜ける。
右腕には、亀裂の入るような痛み。
―――二発でこれ。
やっぱり、三発が限界だな。
「それにしても、意外に頑丈ね唯一君」
「確かに、前に比べるとダメージが少ない気がします」
前なら倒れていた。
でも、今回は違う。
……理由は、分からない。
「それじゃ、上に戻って来て」
「了解です」
◇
「それじゃ反省会よ」
「早速なんですね」
「当たり前よ。唯一君は強くなりたいんでしょ?」
「……はい」
「それじゃ、ブーブー言わない!」
そして、高継さんは訓練の映像を表示した。
「まず、戦闘開始までが遅いわ」
映像が流れる。
確かに―――迷っている。
「慣れてる相手なら、そこで来る」
……納得しかない。
「まずは仕掛けること」
「はい」
次の場面。
蹴りを受けた直後で停止。
「ここ。攻撃はいい。でもその後、隙だらけ」
……完全に気が抜けている。
「倒れてない相手から視線を切るのは論外」
「……毎回これでやられてた気がします」
「まずは隙を作らない。それだけで変わるわ」
「はい」
「―――以上。次に活かして」
「わかりました」
「それじゃ、はいコレ」
高継さんは携帯端末を向けてくる。
「あの、なんでしょうか?」
「鈍いわね、連絡先を交換するのよ!」
「え、はい」
僕は訳も分からず携帯端末のコードを読み込んだ。
「オッケー、これで私が気づいたことはその都度連絡するわ」
「これもプログラムの一環ですか?」
「そうよ?もしかして、なんか期待しちゃった?」
「……いえ、特には」
「唯一君って、たまにノリ悪いわよね」
「そういう思わせぶりな感じに慣れてるだけです」
「なんか……可哀想ね」
本気で同情した目をされた。
なんか惨めになるから、やめて欲しい。
◇
外に出ると、もう下校時間だった。
玄関で―――軀方さんが待っていた。
「あ、唯一君、お疲れ様」
パッと笑顔になる軀方さん。
―――まだ、慣れない。
「お、お疲れ様です。軀方さんどうしたんですか?」
「……えっと、唯一君が高継さんに呼ばれてたから少し心配で」
「大丈夫です。ちゃんと訓練でした」
「……やっぱり。ケガとかしてない?」
「平気です。僕も鍛えてますから!」
少しだけ胸を張る。
「そうだよね。唯一君、努力してるもんね」
見せたことはない。
それでも――認めてくれている。
少し、嬉しかった。
「よかったら……一緒に帰らない?」
「えっ……」
「あ、あの、いやだったら、その、私先に帰るけど……」
目に見えて表情が暗くなる軀方さん。
慌てて首を振る。
「いえ、嬉しいです」
「ほんと⁉」
ぱっと明るくなる。
……単純で、可愛い。
「……その、一緒にコンビニとか寄っちゃう?」
いたずらっぽく笑う軀方さん。
「まだ暑いので、アイスとか買いますか?」
「それいい!誰かと帰りに買い食い、私憧れてたんだ!」
無邪気に喜ぶ姿。
―――学園最強には見えない。
ただの、普通の女の子だ。
だから、この人を守れる自分になりたいと強く感じた。
「そろそろ行きましょう」
駅に着くまでの間、軀方さんはとてもテンションが高かった。
どこにでもいる、女子高生。
――そんな彼女を守りたい自分の為に、強くなる。
そう決めた。
どうも、雁木真理です。
今回もなんとか投稿出来ました。
このエピソードが、皆様の暇つぶし程度になってましたら、幸いです。




