守られるだけじゃ、終われない
昼休みが終わりかけた頃、僕は職員室に辿り着いた。
「失礼します」
ドアを開けると、室内は思ったより静かだった。
次の授業に向かったのか、先生の姿はまばらだ。
その中で―――高継さんは自分のデスクにいた。
「あらー、来たわね唯一君!こっちこっち」
手招きされるまま、僕は近づく。
「あの、僕に用事でしょうか?」
「そんなに硬くならないの。少し先生とお話ししようか?」
にっこりとした笑顔。
……優しそうなのに、逆に何を考えてるのか分からない。
「すごい顔してるわよ」
どうやら顔に出ていたらしい。
「ここじゃ落ち着かないし、場所変えましょうか」
そう言って立ち上がる高継さん。
僕は黙って、その後を追った。
職員室を出て、廊下へ。
そのまま歩き続けていると、午後のチャイムが鳴った。
……え、授業は?
「どこへ向かってるんですか?」
「誰にも邪魔されない場所、かなー」
軽く答えて、そのまま保健室の扉を開ける。
「さー入って」
中には誰もいなかった。
「……あの、ここで話すんですよね?」
「いいから来なさい。時間ないの」
ぐいっと腕を引かれる。
「ちょ―――」
そのままベッドへ押し倒された。
「な、ななな⁉」
「じっとして、すぐ終わるから」
高継さんが、僕に跨る。
顔のすぐ近くに―――柔らかいもの。
……近い。
近すぎる。
や、やばい!
これは色々とまずい。
―――ピッ!
電子音。
次の瞬間、身体が浮いた。
「え―――?」
そのまま、落ちる。
真っ黒な空間を、ひたすら下へ。
「な、何が起きてるんですか⁉」
「喋ると舌噛むわよ」
言われた直後、浮遊感が止まった。
「着いたわね、行くわよ」
気づけば、高継さんはもう歩き出している。
僕も慌てて立ち上がった。
「あの、ここって……」
「んー、イレブンギアの研究施設よ」
見渡す。
古びた通路、埃の匂い。
電気は通っているけど、使われていない空気。
「私が現役の頃に使ってた場所。保健室は入り口の一つね」
なるほど、隠し通路みたいなものか。
「さ、着いたわ!」
扉の表札には―――高継麻白。
プシューと扉が開くと、室内の照明が点いた。
「懐かしいわねー」
研究室というより、診察室のような内装。
「ほら、こっちに座って」
椅子を差し出される。
「ここなら誰にも邪魔されないわ」
……確かに。
でも、それ以上に聞きたいことが多すぎる。
「その顔、質問だらけって感じね。でもまずは私の話から」
先に釘を刺された。
「これは、唯一君の戦闘データ」
高継さんは、デスクの端末を操作し映像を表示した。
ボロボロの僕。
何度も倒れている僕。
そして、軀方さんに守られる僕。
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで普通に―――」
「昔の知人に頼んで私が研究員として復帰したのよ」
《今の本当だね。あたしのデータでもそうなってる》
ミゴちゃんの補足。
昔の知人っていうのも気になるけど、イレブンギア関係者は全員底が知れない。
僕は、その異常性を再認識して冷や汗が一筋流れた。
「で、本題だけど」
高継さんが画面を指さした。
「唯一君……あなた、本当に弱いわね」
「うぐっ……」
直球だった。
「戦闘スタイルは至って単純な殴り合い。にも関わらず、まるで素人」
返す言葉がない。
悔しいけどその通りだった。
僕は、それまで殴り合いなんてことをしたことがない。
「これでよく魑瑠を守ろうなんて思うわね?むしろ足手まといだわ」
胸に刺さる。
「そ、それでも!」
思わず声が出た。
「目の前で守れるのに、何もしないなんて……僕は嫌なんです!」
「あのね唯一君、これは漫画やゲームじゃないの」
空気が変わる。
「殺し合いよ。分かってる?」
「だから僕が―――」
「弱者が吠えるな」
……息が、詰まった。
笑顔のまま静かに、冷たく。
目が笑っていない。
「あなたは、私と同じ研究員なんだから前線に出なくていいのよ」
少しだけ、声が和らぐ。
「戦闘が得意なメンバーなんていくらでもいるわ。だから任せたらいいのよ」
……正論だった。
僕は、イレブンギア最弱だ。
それでも、稽古も訓練も、全部やってきた。
……でも、結果は変わっていない。
「ちょっと言葉は荒くなったけど、私は唯一君に自分を大切にしてもらいたいの、わかる?」
優しく高継さんが言った。
「……わかります」
僕だって、僕を大切にしたい。
ケガなんてしたくない。
それに、僕を待つ家族もいる。
それでも―――
「……それでも、です」
僕は、真っ直ぐに高継さんを見て言った。
「だからこそ―――曲げたくないんです!」
メンバーや他の人に助けを求めることも強さだと思う。
でも、それがずっと続くとは限らない。
僕が、一人で立ち向かわなければならない時が、必ず来る。
その時の為にも、そうなった時の為にも、僕は強くならなきゃならない。
それは、僕を大切に思う人たちを想う僕の為にも。
「僕は、僕の為にも強くならなきゃならないんです」
「いいわね」
高継さんが笑った。
「唯一君は魑瑠の為じゃなくて、自分の為に強くなりたいのね」
「ダメですか?」
「その答え、好きよ」
高継さんが端末を操作する。
新しいウィンドが開く。
「そういうことなら、話は変わってくるわね―――」
そこで、高継さんは笑顔のまま僕に向き直った。
「唯一君、あなたは強くなれるわ」
その目は核心に満ちていた。
「その為に、私が戻って来たんだから」
画面に映し出されたのは―――
ナノパーツの設計図だった。
どうも、雁木真理です。
今回もなんとか投稿する事が出来ました。
唯一君の覚悟がちゃんと書けてる、伝わってるでしょうか。
何かと未熟ですが、これからも頑張りたいと思います。
それでは、このエピソードが皆様の暇つぶし程度になってましたら、幸いです。




