月曜日からハプニングの連続なんだが
月曜日。
僕はいつものように、ヒソヒソ話を背中に浴びながら登校していた。
教室に入り、自分の席に座る。
机に突っ伏して小さく息を吐いた。
……最近、増えた。
ヒソヒソ話。
杷生の件があってから、確実に。
まぁ、仕方ないんだけどさ。
でも、毎日浴びるとさすがに辟易する。
そんなことを思っていると、始業のチャイムが鳴った。
いつもなら、このタイミングで担任の深木先生が来て、朝礼が始まる。
……はずなんだけど。
来ない。
誰も来ない。
教室がざわつき始めた頃だった。
ガラッ、とドアが開いた。
入って来たのは―――教頭先生だった。
「えー、皆さん。急ではありますが、お知らせがあります」
クラスのあちこちから声が上がる。
「なんだなんだ?」
「テスト延期とか?」
教頭先生は軽く咳払いした。
「担任の深木先生ですが、この度、育休を取ることになりました」
―――マジかよ。
思わず心の中で呟く。
あの魚人みたいな顔で伴侶がいたのか。
しかも子供まで。
どんな人なんだろう、相手の女性。
同じことを思ったらしい男子たちが、似たような声を上げた。
教頭先生が手を叩く。
「はいはい、静かに。それでは入ってください」
再びドアが開いた。
……え?
いや、待て。
なんで。
どうしてここに。
「はいはーい!」
元気な声が教室に響く。
「今日からみんなの担任になる、高継麻白よーん!よろしくねー!」
―――高継さんだった。
ビシッとスーツを着ている。
だけど間違いない。
昨日、軀方さんの家で会ったあの高継さんだ。
僕が固まってる一方で―――
クラスの男子たちは歓声を上げていた。
「美人!」
「スタイルやばっ!」
「当たり担任じゃね?」
女子は女子で、そんな男子を呆れた目で見ている。
まあ、男子の気持ちは分かる。
高継さんは綺麗だし、スタイルもいい。
スーツのラインが妙に色っぽいというか……正直、目のやり場に困る。
僕も初対面だったら、少しテンションが上がっていたと思う。
でも。
昨日のあんな姿を見ていると、どうにも複雑な気分になる。
それに―――
高継さんは、元イレブンギア研究員だ。
どうしてこのタイミングで学園に?
しかも、僕のクラスの担任。
……絶対、何かある。
「ミゴちゃん、知ってた?」
《知らない。こんな情報、今の今まで出てなかった》
「だよね。調べられる?」
《やってみる。分かったらすぐ教える》
「お願い」
視線を前に戻す。
その瞬間、高継さんと目が合った―――気がした。
にかっ、と笑われる。
なんだろう。
あの笑顔。
絶対、何か企んでいる顔だ。
「ということで、問題児の多いクラスですが、あとは頼みましたよ高継先生」
教頭先生がそう言うと、
「任せてくださいよん!」
高継さんは胸を叩いた。
そして教頭先生が教室を出ていく。
高継さんはパンッと手を叩いた。
「はい、お騒ぎはここまでー!朝礼始めるわよー!」
日直が慌てて号令をかける。
そうして、よく分からないまま、今日が始まった。
昨日会った女性が、今日、僕の担任になっていた。
その事実が、どうにも落ち着かない。
得体の知れない感情を抱えたまま、月曜日は動き出した。
◇
その後、午前中は何事もなく過ぎた。
そして昼休み。
いつものよに購買へ向かおうとしたときだった。
ピコッ。
携帯端末が鳴った。
画面を見る。
軀方さんからメッセージだった。
『唯一君、今日は何も買わずに私の教室に来て』
……どういうことだろう。
というか。
杷生の件があってから、正直あまり軀方さんの教室には行きたくない。
絶対またヒソヒソされる。
でも―――
軀方さんがわざわざメッセージを送ってくるってことは、何かあるはずだ。
僕は頭を掻きながら返信する。
『分かりました。今から向かいます。』
送信ボタンを押し、僕は教室を出た。
◇
軀方さんの教室に入る。
……案の定だった。
一斉にヒソヒソ話。
うん、知ってた。
気にしないようにしながら、軀方さんの席へ向かう。
「お待たせしました。どうしたんですか?」
「あ、唯一君」
軀方さんは嬉しそうに笑った。
「そうしたら、ここ座って」
言われるがまま席に座る。
購買にも寄っていないので、当然何も持っていない。
すると軀方さんが、机の上にお弁当箱を二つ置いた。
……え?
「はい。これ、唯一君の分」
「え?」
理解が追い付かない。
「お弁当?」
「そうだよ」
「僕の?」
「うん」
「なんで?」
完全にパニック。
周囲のヒソヒソが、いつの間にか呪詛に変わっている気がする。
すると軀方さんは、きょとんとして言った。
「だって唯一君、いつもパンでしょ?」
「ええ」
「それじゃ大きくなれないと思って」
……母ちゃんだった。
好きな男子に手作り弁当、みたいなイベントを一瞬期待した僕がバカだった。
これはもう完全に―――
栄養指導だ。
「あ、ありがとうございます」
「しっかり栄養取ってね、唯一君」
善意百パーセントの笑顔。
僕の低身長を、本気で心配している顔。
ありがたい。
ありがたいけど。
……ちょっと切ない。
「ほら、開けてみて!」
キラキラした目で見られる。
僕は観念してお弁当を開けた。
ご飯。
卵焼き。
タコさんウィンナー。
ブロッコリー。
そして―――
ミートボール。
「……これ」
「前に好きって言ってたでしょ?」
一つ食べる。
「……美味しい」
「本当?よかった!」
軀方さんは安心したように笑った。
そして自分のお弁当を食べ始める。
僕も食べる。
……なんだろう。
普通の会話。
普通の昼休み。
……もし彼女がいたら。
きっと、こんな昼休みなんだろうな。
そんなことを思いながら食べ進めて、お弁当はあっという間に空になった。
「ご馳走様でした」
「お粗末様、唯一君」
軀方さんは空のお弁当箱を、すごく嬉しそうに見ていた。
僕は、そんな彼女を見ていた。
……なんだろう。
この空気、ちょっと甘い。
そう思った瞬間だった。
校内放送が流れる。
『唯一枢君。高継先生がお呼びです。職員室まで来てください』
「え?」
思わず声が出た。
「高継さん?」
軀方さんも首を傾げる。
「今朝から僕のクラスの担任なんです」
「えっ、そうなの?」
どうやら知らなかったらしい。
「色々、本人から聞いてください。僕、呼ばれてるので」
「う、うん。また後でね」
「はい」
なんで呼ばれたのか。
まったく分からない。
でも、とにかく行くしかない。
僕は少し急ぎ足で、職員室へ向かった。
どうも、雁木真理です。
今回もなんとか新エピソードを投稿出来ました。
次回も頑張りたいと思いますので、ブクマ、コメント等々、どうぞよろしくお願いします。
それでは、皆様の暇つぶし程度になってましたら、幸いです。




