表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰かのはなし  作者: 冬野ほたる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/18

【第十六夜】 声



 窓を開けると、坂道からの音がよく聞こえてくる。




 我が家はゆるゆると続く坂道の途中に建っている。坂道は昔から「庚申坂(こうしんざか)」と呼ばれていた。いわゆる旧道だ。道幅はとても狭い。


 庚申坂は上りきると駅へと続く大きな国道と交差している。下っていくと市内を縦断するA川が流れている。庚申坂はその川に架かる小橋(こばし)までつながっているのだ。


 A川をすこし上流へ(さかのぼ)ると、新しく造られた大橋(おおはし)が架かっている。

 大橋は国道や駅まではもちろんのこと、市外へと抜ける広い幹線道路ともつながっていて、庚申坂とは比較にならないほどに交通量は多い。大型トラックなども頻繁に走っていた。


 そんな旧道の庚申坂だが、朝方と夕方だけは事情が異なる。


 庚申坂から小橋を渡った向かいの地区は、工場が建つ工業地域の一部と住宅地域が重なっている。

 小橋付近の住民と工場勤めの人々は、国道へ出るために庚申坂を近道として使っている。大橋を回るよりもかなりの時短になるのだ。


 出勤と退勤の時間帯には、国道へ合流したい車と国道から入ってくる車で混雑する。お互いに譲り合っては、互い違いに通りすぎていく。昼間は静かな庚申坂も、朝と夕方だけは一時の賑やかさをみせる。


 平日の深夜などは滅多に車も人も通らない。

 週末になると酒に酔ったと思われる人々が鼻唄を歌いながら、または集団でケラケラと笑いながら通りすぎることがあった。しんとした夜にはそういった雑音はよく聞こえる。



 近年では珍しい気持ちのよい夏の夜だった。窓を開ければ涼しい風が川から吹き込んでくる。

 ベッドの中でうとうとしていると、外からなにやら音が聞こえてきた。エアコンの室外機が唸るような低い振動のような音だった。

 いや……声?

 誰かが庚申坂を歩きながら喋っている。何を言っているのかまではわからない。言葉としては認識することができない、くぐもったボソボソとした音。お経のようにも聞こえる。


 ああ、今日は金曜日だったな。


 ベッドの中でうとうとしながらそんなことを考えた。どこかの酔っぱらいか、深夜まで遊んでから帰宅する人たちなのだろう。


 しばらくして声は消えた。

 坂道を下って行ったらしい。


 すると今度はさっきよりも近くで同じような音が聞こえた。ちょうど家の下の坂道に立ち止まって何かを喋っているようだ。 


 またか……まったく。迷惑だな。


 しばらくするとその声も消えた。


 うつらうつらと眠っていたらしい。ふと、またもや音が聞こえて目が覚めた。

 さっきと同じような音だった。しかし、今度はさらに近い。まるで庭に立って喋っているような近さだった。


 酔っぱらいが侵入してきたのだろうか? 

 それとも最近多くなっている押し込み強盗かなにかか?


 さっと緊張が走ると、一気に目が覚める。

 外を確認しようとしてベッドから起き上がろうとするが、なぜだか身体は動かない。目は開いている。身体だけが動かない。


 なんで動けないんだ……!


 音が近づいてきた。窓を開けているのに……!

 庭から壁を這い上り、窓から侵入してくるような近づき方だ。

 

 まずい! まずいぞ!


 足先や指先に力を入れるも、微塵も動かせない。


 音はさらに近づいてくる。こんなに近いのにどういうわけだか、音は言語を成してはいない。外国の言葉とも違う。ノイズに近いようだった。なにを喋っているのか分からない。

 風にカーテンがひるがえる。

 室内は夜の明かりだけだ。


 音はとうとう室内から聞こえる。さらに近づいてきて……ついには耳元で音がうねった。

 幸か不幸か、それでも音を発しているなにかの姿は見えない。

 身体を動かそうと筋肉が強ばり、悲鳴を上げるほどに必死に力を入れる。


 その瞬間に音は耳元で大きく()ぜた ──

 



 はっと目が覚めるとすでに朝だった。


 飛び起きて部屋のなかを見回すも、なにも壊された物はないし、荒らされてもいない。いつもと変わった様子はなかった。どうやら、悪い夢を見たらしい。

 

 「いてっ」


 ベッドから下りようとして思わず声がでた。

 足の腿と腕がひどい筋肉痛になっている。

 

 昨夜のあれは……本当に夢だったのか……?


 とりあえず、夜は絶対に窓を開けて眠るのはやめようと誓った。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
徐々に近づいてくる謎の音、しかも身体が動かないのは怖いですね。一体何だったのか、そして本当に「夢」だったのか…気になります。 旧道だけに、過去そこで何かがあったりしたのかも…と思ったりしました。リア…
庚申と言うからには60日に一度こんな日があったりするんだろうか? それとも荒神を掛けた言葉なのかなあ? もしそうなら気まぐれな日程でやってきたり?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ