第2章 2-0F
日曜日の朝、鈴木は、コロニー内で唯一のナイフショップに向かった。
その店は9区にあったが、9区といえば、先日の隕石衝突騒ぎで最も被害が大きかった地域であった。
そのため、まっすぐに歩いていても道路面にかなりの凸凹が感じられる。道路面とは、つまりはコロニーの外壁とほぼ、直結している。
そういえば、このコロニー自体がもうあまり長くはもたない、という話だったが、それが実感された。
「いらっしゃいませ」
「あ、どうも、こんにちは」
店に入ると、店員の若いお兄さんが声をかけてくる。
「あれ、もしかして鈴木さんですか! 勇者の」
「ええと、はい、そうです」
「おお、それはそれはようこそ! いやー、いつかは必ず来てくれると思ってました。では、ついに勇者の冒険に出ることになったのですね!」
「ええと、まあ、何と言いますか、実は転職することになりまして」
「え!転職?! まさか、勇者をやめるんですか?」
「いえいえ、勇者はやめないというか、やめられないと思うんですが、そうではなくて、職場が変わりますといいますか、そういう感じでして」
「職場の変更ですか。うーん、ええと、冒険じゃあ、なくて?」
「まあ実は、次の職場がどこか分からなくてですね、もしかすると、戦争とか戦闘になるかも知れないと思いまして、今日はこちらに伺ったわけでして」
「おおっ戦闘! ということは! やはり冒険ですよね!」
「まあ、転職もある意味、冒険と言えなくもないかもですが」
「ええ、そうでしょうとも、さあさあ、どうぞこちらへ」
その後、世間話になった、かなり。相当、客がめずらしいらしい。
9区の被災状況とか、経営がぼちぼちといった話や、武器の所持制限やコロニー内での法規制などの話がどんどん続いた。勇者って、どんな武器でも使いこなせるんですよね、いえいえ素手が一番なんです実は、勇者って、すごいパワーを出せるんですよね、えっとまあ防衛戦では、勇者って・・。話が終わる気配は全くなかった。これは下手すると1日ここで終わるかも、と思ったので、購入の話を切り出した。
「それでですね、今日は何か一つ、武器を購入したいと思いまして」
「いや~ついにこの日が来ましたよ、鈴木さん。正直この業界、まあ業界と言っても私しかやってないんですが、需要がほとんどないんですよ。おかしいですよね、男子ならいつだって武器には興味あると思ったんですがねえ」
「まあ、今のコロニーって平和ですからね。確かに需要はないかもですね(店長さんだったのか)。お客さんってどういう層の方なんですか」
「年齢層は、そうですね。学生さんから定年退職された方まで、いろいろなんですけれど、やはり所持制限が厳しいですからね。よほどのマニアの方だけになりますね。コロニー全体で10名いない感じでしょうかね、ははは」
「それじゃあ、食べていけないでしょう?」
「はい、それなんで、バイトやってこちらは趣味みたいな感じになってますね、実際は」
おっと、まだまだ雑談が続きそうだ。ここはストレートに行ってみるか。
「それで、武器なんですが、ナイフなんてどうかと思いまして」
「ナイフですか…ありますけどね、いや鈴木さん、やはり勇者と言えば剣でしょう。この日が来ると思ってましたからね、いろいろと用意してましたよ、ふふふ。まずは王道のバスタードソード、どうです、いいでしょう? それから、もしかすると海戦があるかもと思ったんで、カットラスなんてのも用意してありますよ。あとは、ちと重めですが、特注のツヴァイハンダー、どうです? 刃渡り2m、重さ50kgですね」
「いや、50kgとか持ち上げられないですから。というよりですね、実は予算があまりなくて」
「もちろん、勉強させてもらいますよ、なにしろ勇者専用装備ですからね。こっちの特注ツヴァイハンダーは大サービスで200万円ってところです」
「うわ、そんな予算ないです」
「そうですか、まあ、ちょっと大きすぎるのもどうかなとは思ってましたからね。ということで、他の2つでしたら、どちらも諸経費込みで45万円、どうです?お買い得でしょう」
「ええと、まあ、お買い得だとは思うんですが、その、実は持ち合わせが10万円しかないんです、すみません」
「なるほどそうですか。10万ですか。なるほど…。まあ、今回は初期装備だと思って予算内で整えていただけばいいですね。それで、次にレベルアップするときにまた考えていただく、ということでどうでしょうか」
「はい、それで結構です。ええと、例えば、こちらの軍用ナイフっていうのはいくらくらいで?」
「えっと、15万円くらいですね。ちょっとそちらを再現制作するのに元手がかなりかかってまして、値引きはちょっと…」
「そ、そうですか」
「では、そうですねえ…こちらのキャンプ用ナイフはどうですか。キャンプ用といっても刃の部分にチタン合金使った本格派の一級品ですよ。そうですね…こちらも定価は10万円ほどなんですが、勇者割引ということで、ホルダーとベルトをお付けして8万円でどうでしょうか」
「確かに、手に馴染みますね。いいものです。では、せっかくのご厚意ですのでこちらをいただけますか」
「毎度ありがとうございます。あ、それと色紙にサインしてもらっていいですか? T's商会さん江 勇者鈴木より、って書いてもらって。あ、あと、一緒に写真撮ってもらっていいですか、店内に飾るんで」
うむ。8万円はかなりの赤字覚悟だったらしい。今後の取引に大いに期待する、というところだな。すまぬ店長、次の機会があれば必ず来るよ、機会は保証できないけども。写真と色紙に宣伝効果があるのを祈ってます。あ、あと、バイトも頑張ってください。
ということで、はやくも一品目で予算が尽きかけていたし、もう時間もお昼すぎになっていた。まあ、何しろ1区から9区まで、歩いてたっぷり2時間はかかった。
幸い店長から、ナイフショップの近くにホームセンターがあると教わっていたので、残りの品々はそこで全部調達できた。買い物の途中で、そういえば行った先で時計が必要になるんじゃないかと思い至ったので、それも調達した。予算の残額は二千円を切った。そろそろ、日が暮れそうだ。
とにかく、はやいところ次の職場で収入を得ないと、あした食べるものにも困ることになりそうだ。
そういえば、移動手段はどうするんだろう。部長からは、仲介者の名前と連絡先の電話番号以外、何も聞いていないのだが。
これ以上、何もできないので、またも1区の公園に戻り、ベンチに座っていた。どんどん夜は更けていき、さっき買ったばかりの目覚まし時計によると、そろそろ24時になって日付が変わってしまう頃合いなのだが。
ついに0時となった。
突然、目の前に光る門のようなものがあらわれた。ははぁ、なるほど、これはいわゆるゲートってやつだな、これで移動しろってことだな。
よかった、交通費を請求されることはなさそうだ。やれやれ。あれ待てよ、後からゲート代を請求されるとか?
ま、まあ、とにかくもうゲートに入るしか選択肢はない、遅刻で減給されるとかはご免被りたい。
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その日、勇者鈴木はコロニーからいなくなった。もう少しだけ正確に言うと、この世界からいなくなった。
果たして、勇者鈴木を待つのは見知らぬ異世界なのか。勇者鈴木の新たなる冒険がはじまるのであろうか。チャンチャカチャン(効果音)続く(立体影文字)




