第2章 2-0D
人事部長の話は、出向してくれ、と言うことだった。
なるほど、やはり火事を出した社員がそのまま会社に在籍しているのは、社会が許容しないということだろう。これは仕方ないな。ほとぼりが冷めるのを待つしかないだろう。
いやちょっと待ってくれ。火事の原因はコロニー公社だよね…と、お上に申し立てたところで無駄か。アリスめ、まったくもって完全犯罪者だ。
「それで鈴木君、出向先に連絡する都合があるので、二、三聞きたいのだが、いいかな」
「はい、もちろんです、千葉部長」
「まず、現時点での住所なんだけどね…」
「えーと…現時点では…住所不定、ですかね」
「やはり、そうなってしまうか。それから職業なんだけど、実は今回、転籍出向なんだよ」
「え、転籍ですか、ちょっと驚きました」
「あっ も、もちろん、出向期間が終われば会社に戻って来てもらうつもりだからね。そこは心配しなくて大丈夫だからね、ね、ねっ」
「は、はい、部長を信じますので」
「それでだ、申し訳ないんだが、照会事項のひとつが来月1日時点での職業、と言われていてね、先方から」
「はい、一日時点、ですね」
「こちらの社内の都合で、辞令が31日付でしか出せなくてね」
「はい…」
「それでもって、先方の受入期日が来月2日、月曜日からになっていてね…」
「はい………」
「そうすると、先方への連絡内容なんだが」
「住所不定・無職、ですね。いえ、別段、先方がそれでいいというのでしたら、私は気にしませんが」
「実はね、職業:勇者、ではダメかと、あらかじめ先方に聞いてみたんだが」
「はい」
「勇者って何ですか、だそうだ」
「ですよねー、職業じゃないですよね、勇者って。ええ、まったくもって先方の言うとおりかと」
その後、千葉人事部長から先方に
「出向予定者は、住所不定・無職の鈴木一郎(43歳、男)賞罰なし、犯罪歴なし」と連絡がなされた。他に履歴書のデータなども送ったようだった。
そうしたところ、先方からすぐにクレームの電話が来たが、部長と先方ですったもんだやった末、他に出向可能な者はいないの一点張りで、先方に認めさせたようだ。ここはさすがの年の功か、いや人徳か、部長の持って行き方はうまかった。私も見習いたいところだ。
電話が終わって一安心(なのか?)、といったところで気付いた。
「あれ、え、いや、ちょっと待ってください、部長。今日はもう30日金曜日ですよ。31日、1日が土日で、週明け2日月曜日から出向ってことですか」
「そうなるね、だめだったかな」
「いや、その、ダメではないですが、といいますか、明日31日付の辞令って、社内的に可能なんですか?」
「ん? 可能だね、というより、これが退職関係の書類一式だから」
「そうか、辞令じゃなくて退職になるんですね、うわあ」
「そうなるね。というわけで、もう時間もないし、実務的な話をしようじゃないか、鈴木君」
「はい、わかりました、よろしくお願いします」
その後の部長とのやりとりは、概ね、次のような内容だった。
出向先:不明。
複数の出向先があるが、どこかは分からないそうだ。どうやら、千葉部長がやり取りしていた相手は、複数の出向先を一手に斡旋している仲介者のような立場らしく、その中から具体的にどこに出向先が決まるかは、2日に現地に行って初めて知らされるらしい。少なくとも、現時点では決定していないそうだ。
大丈夫なのか、その仲介者とやらは。
出向期間:不明。
複数の出向先があり、1日で終わるかも知れないし、1年以上勤務するかも知れない、ということだ。そもそも、現地は地球時間と同じ時間の流れなのかも分からないそうだ。・・・えーっと、1年以上も、という話だが、さすがに一万二千年とかは勘弁してほしいんだが。浦島太郎にならないといいが。
出向先の職務内容:不明。
複数の出向先が(以下略)
連絡先:不明。
複数(以下略)
給与等:不明。
え、ちょっとそいつはかなり困るんだが(以下略)
その他:略
略
略、略、略、略、略略マーチ♪っと来たもんだっ~ハアよいしょっ!




