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Act.5 VS変態?


ちょっとコメディー。


これから結構活躍する新キャラ出ます。


そして棗ルート(?)始動です。





『前日未明、ビルとビルの狭間の路地裏で青年ら計九人の死体が発見されました。内八人の死体は首を鋭利な刃物で切断されており、残りの一人は首に留まらず、両脚と右手首を切断されており、第二の切り裂きジャックの再来、もしくはその模倣犯との見解が―――』




「春ってさ」


「まだ真冬だぞ、鈴」


星南学園の1−Aの教室。その中の自席にて、星塚鈴月が溢した呟きにその親友、朝倉藤二がツッコミを入れた。


「頭の陽気な人が増えるから困るよね」


「尚も春の話題を突き通そうとするお前の対処に、俺は今一番困っている」


それでも我が道を往く鈴月。その何かを悟り抜いたような姿を見て数瞬。


「・・・・・・ああ、成程」


藤二は納得したとばかりに頷いた。


「アイツが帰ってくるのか・・・・・・」


「今の内にスタンガンでも買っとこうかな・・・・・・?」


鈴月は本気で財布との相談を開始する。一時期バイトをしていたこともあり、資金は豊富。もっと高価な変質者撃退アイテムも購入可能であることを悟り、何を買うかでまた悩み始める。


「お。覇気のまったく無い姫様発見。いつも通り過ぎる光景だね」


そこに一人の女子生徒―――御子柴花鳥。花鳥は玩具を見つけたと言わんばかりに目を輝かせていた。


「―――しっしっ。今お前らに構ってやれるほど暇じゃないの。また後でな」


「私は猫かっ!」


そんな花鳥のツッコミにすら動じない鈴月。時折聴こえてくる「催涙スプレー? いや、待て。奴の動きは素早いはず・・・・・・なら・・・・・・」などといった物騒な呟きに少女は凍りつく。


「・・・・・・・許してやってくれ。今、アイツは最も過酷な状況なんだ」


「・・・・・・あー。うん、了解」


それだけで花鳥は理解したように頷く。


それでも薄い青の瞳は悪戯気な光を消さない。からかう為に口を開く。


「―――でもねぇ。姫様も満更でもない」


刹那、バキン! という何かが折れる音に花鶏、藤二の二人は旅人の方を恐る恐る見やる。


「・・・・・・おい。花鳥」


「ご、ごめんなさいぃ!」


そこには手中で砕け散ったペンをじゃらじゃらと弄りながら花鳥を睨み付ける鈴月がいた。


生物の本能が花鳥を動かし、次の瞬間には謝罪する。それを見ると代わりのペンを取り出し、ルーズリーフに何らかの買い物リストを書き込んでいく作業に戻る鈴月。


「・・・・・・おい、御子柴。言葉に気をつけないと今の鈴は手負いの獅子より危険だぞ?」


「ら、らじゃー」


その後。廊下にて藤二達二人は、プリント回収の為に涼月の下へ赴いた委員長(男)が涙を流しながら教室を飛び出してきた姿を目撃した。




「嗚呼・・・・・・やっと帰ってこられた」


星南学園の校門の前。学園の制服を着込んだ一人の青年が感動に打ち震えていた。


―――まるで人形のような、何処か浮世離れしたほどに美しい顔立ちをした青年だった。さらりと流れる黒髪は風に靡き、その中でも一際明るく光るブラウンの瞳。


彼は恋焦がれ続けた人物を、何度思い出したか分からない人物を、もう一度、心の底からその姿を回想し、今から出会える喜びに打ちひしがれる。


―――今までは、とある用事で学園を休んでいた。だが、今日からはまた、ここに通える。


「―――早く逢いたい! 僕の愛しい、仔猫!」


そしてそのまま青年は優雅に歩き始める。否、青年は優雅さなど微塵も気にしていない。だが彼がただ歩くだけで、周囲に気品を撒き散らしているかのような。そんな感覚を与える青年だった。


そこに浮かぶ陶酔の色は自己に向けてではなく、想い人への、その美しさへの、愛おしさへの、陶酔。


―――故に。他人へと馳せる想いを抱くからこそ―――すれ違う女子生徒が皆、見惚れてしまうほどに美しいのだろう。


彼が向かうのは1−Aの教室。彼自身は二年の在籍の為、ここは彼の戻るべき場所では無い。


―――だが青年は自信を持って扉を開く。期待を持って開く。出逢える喜びを噛み締めながら開く。


「―――ただいま、マイハニー! 元気にしてたかい!?」


喜色に満ちた青年の視界が捉えたのは―――木目すら数えられそうなほどに迫った、机の茶色の表面だった。




「はぁはぁはぁ・・・・・・!」


鈴月は机を投擲したままの姿勢で固まっていた。火事場の馬鹿力とはまさにこのことだろう。


まさか自分でもこの細腕でここまで殺人的な威力を生み出すことが出来るとは思ってもみなかった。


教室中が騒然とする中、「ああ。いつものか」と全員が頷き、観客として集い始める。そんな中、その光景を初めて見る、先ほど隣のクラスからやって来た少女―――功刀(くぬぎ)棗(なつめ)はその光景にただただ呆然としていた。


「おいおい・・・・・・ありゃ死んじまったんじゃ・・・・・・」


棗が不安そうに呟くが、それに藤二は首を横に振って答える。


「いや。あの先輩がこの程度でくたばるはずが無い」


「だね。むしろ本番はこの後・・・・・・」


そうしてギャラリーが騒ぐ中。一人の男がゆらりと立ち上がる。


「―――フッ。寂しかったんだね? ハニー。それならキミを一人にした僕の責任だ。幾らでも殴られようじゃないか―――げふっ!?」


キザったらしく天を仰ぐ仕草を見せる青年に鈴月は渾身のボディーブローを放つ。正確に鳩尾を射抜いた感触。非力な腕力でも相当応える攻撃のはずだ。


「・・・・・・ふふっ。これがキミの怒りか。ごめんね、一人にさせ―――」


左フック。右ストレート。ジャブ、ジャブ、ジャブ。そして再度渾身の右ストレートを顔面に叩き込む。常人ならとうの昔に意識を刈り取られているはずだが、青年の顔には何故か、かすり傷すら見当たらない。


「おーっとぉ! 相変わらずの無敵の肉体! ポジティブすぎる精神! 凄い! 凄すぎるぞ! 不死身の戦士、風羽伊吹(かざはいぶき)―――!」


実況を始めた花鳥に対し、場はさらに盛り上がる。


変態―――仙堂伊吹は前髪を梳き上げると笑みを絶やさぬ顔で鈴月に語りかける。


「・・・・・・ふ、ふふ。これもまた愛のカタチ―――」


「―――!」


床を蹴り、駆け出す鈴月。そのまま立ち上がりかけていた伊吹の膝に足を乗せ、踏み台にすると跳躍、その顔面に渾身の膝蹴りを見舞った。風に舞う紙切れのように吹き飛んでいく伊吹。


「お―――っとぉ! ここで伝家の宝刀、シャイニングウィザードが炸裂―――! え〜、実況の功刀さん。先ほどの一撃についてどう思われますか?」


「は!? あ、あたしか・・・・・・!?」


「はい! どう思います!?」


「いや・・・・・・どう思うも何も、今の角度だと普通に人が死ぬと思うんだが・・・・・・」


「―――愛の狩人は不死身也!」


「あ、生き返った」


「アイツはサイボーグか何かじゃないのか? そもそも人間なのかよ」


再び立ち上がる伊吹に対し、さらに距離を詰める鈴月。そして―――


「―――おお! 寸頸です! 漫画の世界でしか在り得ないと思っていました!」


「滅茶苦茶だな。このクラス」


そしてまたもや吹き飛んでいく伊吹。また立ち上がるだろうことはその場にいた全員が予想できていた。


それなのに―――


「―――あの、すみません。星塚鈴月さんはいらっしゃいますか?」


丁度現れた、現れてしまった稲葉千歳。そこに高速で宙を滑空する伊吹が飛んでいき、千歳の目が大きく見開かれる。そしてその刹那―――その瞳が刃物のように鋭い、達人のそれへと変貌を遂げた。


スッと半身になり、避けるのかと思えば空中で伊吹の襟首を掴み取り―――勢いを一切殺さず、自転により生み出した遠心力をプラス。そのまま木製のドアに叩きつけた。


―――べちゃり、と何かが潰れるような、不吉な音が響き、辺りが静まり返る。


「―――え、あ、ああ!? ご、ごめんなさい! 咄嗟に体が動いて・・・・・・!」


慌てて伊吹の脈を取り始める千歳。それを見た全員が戦慄する。


『(こ、怖ぇ―――・・・・・・・)』


その日。学園中に『稲葉千歳最強説』が流れ、彼女の熱狂的ファンが増えたという・・・・・・。





次からシリアス、というかこの小説の本分みたいなパート。


今回のお話のキーワードは『刃物』、『路地裏』。



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