Act.3 マイペースな彼女
とりあえず事情説明編は終わり。
この先からはそれなりに書けたと思うんです。
鈴月が工場内に入り込むと同時に、千歳と他二人の少女は物陰に飛び込んだ。
もちろん、彼の行動を観察する為だ。
―――だが、まずい。
黒犬の爪撃によってドラム缶が宙を舞い、鈴月を直撃した瞬間。中止命令を出そうと二人は動こうとした。だが―――
「・・・・・・待った」
黒髪の少女が千歳達の動きに待ったを掛けた。
「な、どうしてですか・・・・・・!? 彼はあのままじゃ―――」
「様子がおかしい」
その言葉に千歳達は前を向く。そこでは丁度彼が鉄パイプを握り締めたところだった。
―――たかが、鉄パイプで何が出来るのか?
その答えはすぐに示された。
右上方へと素早く上げられた鉄パイプ。そこから高速の袈裟斬りが放たれる。不恰好な状態での片手打ちにも関わらず、その一撃は的確に黒犬の顔面を殴り飛ばし、牙をへし折った。
―――おかしい。あんな見様見真似の一撃で?
「!―――そんな・・・・・・!」
次いで金髪碧眼の少女から驚愕の息が漏れる。彼女は自分の【人形】が壊されたことに狼狽していた。少女が見る先には―――殴られた箇所動きを鈍らせ、既に牙と顎がだらりと垂れ下がった黒犬の姿。―――さらに踏み出す。工場内に地面を革靴が叩く音が響き渡り、繰り出されるのはやはり不恰好で素人丸出しの、それでも鋭い刺突。鉄パイプの先端が黒犬の腹部に突き刺さった。刹那、弾ける。
―――そう。それはきっと魔力と呼ばれるはずのそれ。黒犬に漲るはずのそれ。
黒犬が、分解されていく。まるで絡み合った紐を解いていくように、黒犬を形作っていた魔の気配が急速に薄れ、霧散していく。それを行った鈴月自身も驚愕に目を見張っていた。
だが既に体当たりの体勢に入った大鷲を目にした鈴月は、動かなくなった黒犬を左手で薙ぎ払い、前へと飛び出した。だからこそ、本人は気付かない。そして後方に隠れた千歳達にはよく見えていた。
―――鈴月が触れた瞬間、先ほどまでの比ではないスピードで『何か』が始まり、一秒と保た
ずに黒犬の体が完全に弛緩して倒れた光景を。
千歳が隣を見やると黒髪の少女も驚きを隠せないでいた。
その間にも鈴月は大鷲との距離を詰めていた。舞い上がったそれに対し、鉄パイプを腰に添えるように構える鈴月。そして―――大鷲が突撃し、両者が交差する。
「―――ふっ」
大鷲の嘴と鉤爪をかわした鈴月。そしてすれ違い様に一発、鉄パイプによる打撃を叩き込んでいた。やはり華奢な見た目通り、スピードはあっても威力が無い。大鷲にしてみれば少し小突かれた程度だろう。―――それなのに。
翼の動きを停止させられ、落ちてきた大鷲を鈴月は慌てて手で払う。
「―――痛っ・・・・・・・固っ!」
またもや『何か』が始まる。まるで鋼のようなその体躯から流れる力が断たれ、動かなくなる。踊らされる人形が、操り糸を断たれたかのような光景。あまりにも呆気なく。
「? 何だったんだよ・・・・・・っていうか痛い・・・・・・」
鉄パイプを放り捨て、座り込む鈴月。両腕を解すように何度も揉み込んでいる。あれ程の重量の敵を紛いなりにも吹き飛ばしたのだ。彼ほどの細腕で痛まないわけが無い。
「・・・・・・千歳。あの子何?」
「だな。あんなの見たことないぞ? 解呪か何かの応用か?」
「・・・・・・どういうことでしょう?」
二者二様な答えに千歳は唸り―――とりあえず姿を現すことにする。
「―――鈴月さん!」
「―――鈴月さん!」
突如掛けられた声に涼月が振り向けばそこには諸悪の根源に違いない女がいた。
「―――この女狐! よくも騙したな!」
「め、めぎっ!? 確かに合ってますけど・・・・・・」
「何なんだアンタは! 昨日は助けてくれたと思ったら今度は人に命懸けのゲーム強要か!?」
今更になって脚が震え出す鈴月。それもそうだろう。よくよく考えればあんな化物に追われながら冷静でいられた自分に驚きだ。―――いや、あの化物達を嗾けたに違いない女の前だからか?
「ち、違いますよ! ほら、皆さん! 出てきてください!」
「うわっ! 多勢に無勢!? 何なんだアンタら! 人を追い詰めて楽しいかこの鬼畜!」
「で、ですから誤解ですってば!」
「・・・・・・いやいや。千歳? 確かにいきなり呼び出されて化物嗾けられたら普通は警戒すると思うぞ? ちゃんと説明しなかったお前が悪いだろ」
黒髪の少女が呆れた様子で千歳を窘める。比較的常識人がいてくれたようだ。
「・・・・・・まずは落ち着いて・・・・・・話すべき」
何やら敵勢力が味方になり始めたようなので傍観することにした鈴月。千歳は二人から非難を受け、気まずそうに視線を逸らす。
「わ、分かりました。急ぎすぎた私が確かに悪いです。―――ええと、鈴月さん? お話聞いていただけますか?」
本当に済まなそうに謝る千歳。とにかく話を聞かなければ判断のしようが無い。鈴月は頷く。
「それではこちらへどうぞ」
案内されたのは少し拓けたスペース。ここは人気が無いので今回のテストに使わせてもらっただけなのだという。誰の土地でもないそうだ。
「―――まず私達についてお話しますね」
何やら人数分のカップを取り出し、魔法瓶からお茶を注いでいく千歳が口を開く。
「私達はみんな、とある団体に属しています」
「新手の宗教団体か過激派テロ集団と見た」
「そんな危ない団体じゃありませんっ!」
どうやら危険思想を持つ信者でも、右翼派の人間でもないらしい。
「―――こほん。ではですね。昨日のお話は覚えてらっしゃいます?」
「ああ、魔術がどうのこうのっていう胡散臭いやつ?」
「・・・・・・昨日の素直さが欠片もありません。ていうかそれが本心ですか」
「いきなり化物嗾ける人の言葉を鵜呑みにするのもねぇ?」
うぐ、と言葉に詰まる千歳。他の三人も興味深げに話に耳を傾けるだけで助け舟を出そうとはしない。
「・・・・・・とにかく、です。その魔術や異能、それらの才能が無駄にならないよう、活用する為の団体―――それが私達の所属する【魔術協会(Wizard/association)】です」
「!―――胡散臭っ」
「斬新なリアクションですね」
それが普通だろうと思うものの、話が進まないので口に出すのは自粛する鈴月。
「胡散臭いと思われるのは仕方ないと思います。ですけど現に見ましたよね? そして触れた
はずです。貴方から見た非現実的な、それでいて確かな存在―――魔術に」
「・・・・・・確かに」
「話を戻しましょう。協会には多くの魔術師が属しています。別に強制義務はありませんが、『お仕事』を請けるにはやはり登録してライセンスを発行して頂く必要がありますから」
「『お仕事』?」
「はい。先日鈴月さんが襲われたような魔物妖物達を依頼によって討伐するんです。つまり普通の人の手に負えない仕事を、私達異能者が代行しようという試みなわけですね」
確かにそれは画期的なアイディアなのだろう。霊能者が仕事をするようなものだろう。
「『我々は常に有力な人材を求めております! ご登録はこちらまで!』」
「・・・・・・何それ」
「ウチの宣伝文句です」
「―――ってちょっと待て。有力な人材って霊感の高い人のこと?」
「まあ、そうともいいます。『視える』度合いによっては何より重宝される場合もありますから」
「もしかして・・・・・・アンタ僕を試す為にこんなことを?」
「・・・・・・はい」
やはり目を逸らす千歳。一応反省はしているらしい。
「・・・・・・はぁ。もういいです」
「あ、口調が元に戻りました」
「ええ。もしも反省の色が見えないようだったら敬う必要なんてないかなぁ、って」
「・・・・・・アンタ結構毒舌だなぁ」
黒髪の少女が意外そうに鈴月を見る。琥珀色の不思議な双眸。
「貴女達は?」
「―――っと。自己紹介がまだだったか」
黒髪の少女は軽く居住まいを正すと口を開く。
「―――功刀棗だ。アンタと同じ星南学園に通ってる。一応隣のクラスな?」
苦笑いを浮かべる棗に涼月は首を傾げる。交友関係が広いとはいえ、隣のクラスまで名前を覚えきれていない鈴月。
「・・・・・・小日向栞。よろしく・・・・・・」
「よろしく」
無表情な少女は僅かに目元を緩めて挨拶してくる。それに頭を軽く下げて返す鈴月。ただ、何かを見抜こうとするかのような青い瞳に僅かに怯む。
―――だがこうして見ると結構な美人揃いだ。
千歳は言わずもがな、残りの二人も負けず劣らずの顔立ちをしている。クラスの男子連中に聞けば簡単に情報が集まるに違いない。
「・・・・・・星塚君は有名。みんなが妹にしたいって―――」
「滅べばいいのに。そんな奴ら」
そんな方向性でモテてもまったく嬉しくない。
「ま、まぁとにかくここにいるメンバー全員が協会登録済みの人間な訳だ」
慌てて取り繕う棗に免じ、このことは脇に置いておくことにする。
「―――それで? 僕を試してどういうつもりです?」
「ああ。それはですね―――」
狐を自称する少女はにっこりと笑って。
「―――私達のチームにようこそ!」
―――やはり、彼女はマイペースだと思った。
「―――ああ。俺だよ」
とある廃工場。賑やかな少年少女達の声を聞きながら、一人の男が携帯電話で何者かと話していた。
―――声だ。声しか聞こえない。声で辛うじて男であることだけが分かる。
その男は意図的かどうか謎だが、暗がりの中に佇んでいる。闇色の溜まり場。影の世界。
「ああ。見させてもらったよ。噂は確かだった」
声は喜色を孕み、僅かに抑揚が高くなる。
「あの女―――シャーロット・ダルグリッシュの孫。奴は確実に―――」
対する何者かは果たしてどのように返したのか。歓喜か、それとも絶望か。それは誰にも分からない。
―――本人と暗がりに潜む男を除いて。
「ん? 俺は変わらんさ。いつもと同じように好きに動く。好きに駒を動かしていく。それだけだ」
最後。携帯電話の通話ボタン。そこを押せば通話は切れる。それを親指で押す間際。
「―――俺は王だからな」
次から本格的に始まる予定?




