Act.2 テスト?
一気に序章部分の全てを投降することに決めました。
話の流れを掴むまで、恐らくこの小説は退屈極まりないと思います。
ハイペースで臨みたいので、出来れば後半(?)まで目を通してもらえれば幸いかもです。
「まずは何からご説明しましょうか」
校門前。そこに稲葉千歳は佇んでいた。鈴月を見かけると挨拶の後すぐにその言葉を紡ぐ。
「・・・・・・昨日の続きですか?」
「はい。それではですね・・・・・・」
そのまま鈴月に背を向けて歩き出す千歳。精一杯それに付いていく鈴月。
「―――今からテストをします」
『私は仲間とゴールで待っていますから、鈴月さんはこの地図を頼りにここまで辿り着いてください』
「―――と、言われてもなぁ」
鈴月は人気の無い路地を進んでいた。そこは廃墟と化した建物が点在するスポットであり、普通の学生が近づくような場所ではない。だが渡された地図のゴール点にはここのとある廃工場が記されていたのだ。不満を抱きつつも歩みを止めない鈴月。
路地を抜けると痛んだ木材が目立つあばら家や朽ち果てた住居などが視界に広がった。
「―――出るんだよなぁ、こういうところ」
視界に映るのは建物だけではない。半透明な奴さん達がふわふわと宙を漂っていた。
―――ふと前方の景色が歪みを持っているのが見えた。
だが不意に揺るいだ景色はすぐに正常なものへと変わる。
「・・・・・・気のせいか」
少々警戒しながらもその空間を通り過ぎるが―――何も起きない。違和感すら覚えない。
結局そのまま進んでいくことにする。
とある廃工場の中。
そこで栗色の髪を揺らし、少女―――稲葉千歳は佇んでいた。
褐色のブレザーに赤いネクタイ、グレーと黒のチェックのスカート。スラリと長く伸びた脚は黒のニーソックスに包まれ、茶のブーツを纏っている。
「―――やっぱり【人払い】は効きませんか」
あくまで予想通りの結果に千歳は軽く頷く。
―――【人払い】。それは文字通り人気を払う。意図的に無人の空間を作り出すそれ。
「それにしてもこんな無茶して良かったのかよ?」
そして何処か避難するような眼で千歳を見据える少女。
―――膝の辺りまで伸びた長い、長い黒髪。艶やかさを保つそれは柔らかく風に靡かれる。未だ幼い顔立ちは、だが端整でもあった。そしてこれまた珍しい琥珀色の瞳もその美貌に拍車をかけている。
「・・・・・・もしも彼が危険になったら・・・・・・すぐに術を打ち切る」
呟くように話す四人目の少女。腰元まで伸びた金色の髪は陽の光に眩しく、空色の瞳は不満気に細められている。恐らくはハーフだろう。精巧な造りのフランス人形を思わせる、整いすぎた顔立ち。無表情さも相まって少女は人形に酷似しているように思えた。
「それは分かっています。ただ―――」
「昨日の【人払い】を抜けたこと。今もそう。それが気になってんだろ?」
「・・・・・・はい」
黒髪の少女に指摘され、大人しく頷く千歳。そして未だ姿の見えぬ少年が現れるだろう扉を見やる。
「―――大丈夫だと思いますよ、私は」
目的の廃工場はかなり奥に存在するようだった。
奥に進むに連れて段々と薄暗くなっていく風景。暗がりが目に入る度、昨夜の影達が脳裏を過ぎる。
「―――ふぅ」
息を軽く吐き出し、乱れかけた呼吸を整える。そして―――
とある廃墟の壁。そこに鈴月の視線は釘付けになった。
―――硬質な気配を纏う何か。
刹那、空気が変質する。言い現しようのない違和。それを感じながら鈴月は一歩後ろへ下がる。
空気が振るえ、『何か』が渦巻く。それは恐らく昨夜に千歳が行使した力の質に似たもの。魔力などと呼ばれる異質な力。少しずつ自分という器を作り出していくそれ。
関節部分が窺える、簡素な造りの人形。それは人の姿をしておらず、両翼を力強く羽ばたかせている。まるで鳥。そう、怪鳥。何で出来ているのかは分からないが、まるで木材のような色合い、光沢であり、それでいて鋼の如き堅固さを醸しだしている。
―――大鷲。そんな単語が脳裏に浮かぶ。硝子玉のように光るそれ。僕は恐怖を覚える。
刹那、それは関節の駆動音を打ち鳴らしながら、大鷲が襲い掛かって来た。
―――駆ける。息が切れようとも。ただひたすらに廃屋の並ぶ廃れた地区を駆け抜ける。
背後を振り返る鈴月。その視界に映るのは―――
「―――っ!?」
その目を、嘴を光らせながら真っ直ぐに飛んでくる大鷲。それを横に跳んでかわすとすぐさま障害物の多い方向を目指し、走り出す。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・!」
正直かなり危うい状況だった。もしかしたら千歳の言ったことは全て嘘、もしくは事実だったとしても敵だったのではないだろうか。いや、敵に違いないだろう。味方とまでは言わずとも、敵でないならいきなり命を狙われるような場所に誘導しないはずだ。
―――それとも。これがテストだというのか。
「ふざけるなよ・・・・・・!」
視界を過ぎ去る寂れた景色。その中でまたもや異質な物体を見つけてしまう。
―――それは黒かった。漆塗りのような漆黒の体躯。やはり関節部分が窺えてしまう簡素な造り。だがそれ故に頑強でもあり、それが脅威となるであろうことは容易に想像できた。
犬。黒犬だ。まるで不幸を告げるというブラックドック。それが地を蹴り、ガシャガシャと稼動音を打ち鳴らしながら、その白牙と鉤爪を剥き出しにして駆け出してきた―――鈴月に向けて。
鈴月は慌てて方向転換をすると別の路地へと走り込んだ。
「・・・・・・もしかし、て・・・・・・! 誘導、されて、る・・・・・・!?」
その狭い路地の中、二匹の化物はあくまで涼月と一定の距離を保って追いかけてくる。明らかに不審な動き。だが立ち止まっても無事でいられる保障はどこにも無い。つまり、誘いに乗るしかない。
―――やがてとある廃工場が目に入る。
次の瞬間、大鷲が宙へと優雅に舞い、黒犬が壁を蹴って跳躍した。それぞれが工場へと続く道の両端に着地し、逃亡経路を塞ぐ。
「行くしかないか・・・・・・・!」
二匹を警戒しながらもゆっくりと歩を進め、工場内部に辿り着いた瞬間―――二匹の化け物が同時に襲い掛かって来た。
「くそ―――!」
滑らかに、それでいて過激に飛来する大鷲を回避し、黒犬の鉤爪を寸での所で避ける。自分を外れた攻撃の悉くが周囲の物体を破壊していく様に、鈴月は顔が青ざめるのを感じていた。
それでも脚は止めない。理由は簡単。止めれば死ぬからだ。
―――奴らは追ってくる。鋼の軋むような音を立てながら。ギシギシと。忘れられなくなりそうな、それ。
近くに置いてあったドラム缶を右手で掴み、体を回転。横にぐるりと一周したところで遠心力を利用して投擲した。標的はもちろん二匹の化物。だが呆気なくドラム缶は爪で裂かれ、翼で薙ぎ払われる。
―――鎖が視界に入った。それでバリケードを作れば時間を稼げる?
それを手当たり次第に放り投げ、適当な資材に絡みつかせていく―――はずだったが。
「―――映画みたいに上手くいかないですよね!」
大鷲の額に直撃したものの、大して痛む素振りを見せなかった。ただ妙な衝突音が響いただけ。辺りの資材には絡まるというよりは垂れ下がっている鎖の数々。自分で情けなくなる。
―――びゃんびゃん、と。黒犬の鳴き声が耳を叩く。いや、違う。奴は鳴かない。それは幻聴
だ、鈴月。
自分に言い聞かせる。体の強張りは取れたが、生じてしまう空白の時間。停止の時間。その隙に黒犬が近くのドラム缶を弾き飛ばした。それは真っ直ぐに鈴月を狙ってきて―――直撃する。
「ぁぐっ!?」
吹き飛ばされ、地面に背中から叩きつけられる。息が詰まるような感覚。
―――黒犬が距離を詰めてくる。
このままでは間違いなく喰われる。そう、直感した。いや、考えれば分かることだ。考えるのが難しいだけで。恐怖が思考を麻痺させる。
―――手元に違和感。冷たい無機質な感触。ただし床ではない。何か棒状のような物。
鉄パイプだ。
「・・・・・・・・・・・・」
無意識的に神経を研ぎ澄ます。別にとんでもない力を秘めているわけではない。ただ、少しでも力を欲した結果。手元の鉄パイプを強く、強く、離さないよう、縋るように握り締める。
―――この鉄パイプで何が出来る? 殴ることなら出来るだろう。
自問し、自答する。恐怖が頭をおかしくするより先に、思考を展開、体を稼動させる。
―――出来るか? 星塚鈴月。そう、きっと出来る。出来なければ死ぬだけだ。
酷く心もとない鉄の感触。それを無我夢中で打ち放った。
まだまだ頑張る。
明日バイトなんですが。




