緊急事態
「おかえりなさい領主様。予定よりも随分と早いお帰りでしたね」
「ああ。王都で恩師と会ってな。皆、この方が私の恩師である、モルヴェント・リヴフリード様だ」
「モルヴェント・リヴフリードだ。暫く厄介になる。よろしく頼む」
モルヴェントが頭を下げると、領民たちも頭を下げた。
小さい子どもたちが、興味深そうにモルヴェントの鉄仮面や装備に触ろうとするのを、「こら」とフィリスが制す。
「領主様、この大荷物は?」
「ルーネスグリズリーの素材だ。ギルドの倉庫に運んでくれ。肉は氷室に」
中の素材を確認した者たちが「うおっ」と驚きの声を上げる。
その他、王都で購入したものを領民たちに預けてから、フィリスは領主邸――ハンターギルドの建物へと向かう。
「あ! おかえりなさい! ギルド長!」
「ああ。今戻った」
木造2階建ての屋敷のドアを開けると、そこには大勢の若者たちで賑わう、開かれた大広間が広がっていた。
フィリスの姿を見るや否や、皆がその場で挨拶をした。頭を下げたり、手を上げるだけだったり、表し方はそれぞれだが、皆がフィリスに敬意を払っているのは伝わった。
モルヴェントはギルドの中を一瞥して、感心したように一人で頷いた。
「全員『紋』持ちか。30人もよく集めたな」
「王宮以外でも稼げる場があると聞いて、遠方からもちらほらと。ありがたい話です」
ギルドに勤めている者たちは、全員何かしらの『紋』を宿していた。本来であれば、王宮に囲い込まれていた者たちだ。王宮から外れた地方に、これだけの人数がそろっているのはルーネス領ぐらいだろう。
フィリスがギルドを案内しようとしたところ、受付の方から、赤い制服に身を包んだ、モノクルをつけた女性がフィリスに向かって歩いてきた。
「ギルド長、遠征お疲れさまでした。その方は?」
「私の恩師である、モルヴェント・リヴフリード様だ。粗相が無いようにな」
「まあ! 初めまして。ハンターギルドで受付などの事務を担当しております、エルナと申す者です。よろしくお願いいたします」
「モルヴェント・リヴフリードだ。よろしく頼む」
エルナ、と名乗った女性の丁寧なお辞儀に、モルヴェントも一礼で返す。
「ギルド長の恩師、ということは、ハンターギルドへの入団登録に来られたのですか?」
「いや、ルーネス領の見学だ。私が頼んで来てもらったんだ。来賓用の部屋の準備をしてくれ」
「そうだったのですね。すぐに手配いたします」
フィリスが指示すると、エルナはすぐに動き出し、受付の奥へと消えていった。
「よくできた部下です」
「そのようだな」
短くエルナに対しての評価を共有していると、エルナがタグの付いた鍵を持って戻ってくる。
「それでは、滞在中はこちらの番号の部屋をご使用ください。荷物などお運びいたしますね。早速部屋の方へ案内を――」
「大変だーーーー‼」
ギルド入り口のドアが、勢いよく開けられて、大きな声の方へ皆が一様に振り返る。
「西の森の方にドラゴンが出た‼ ギルド長は戻っているか?!」
ドラゴン。
その名を聞いた者たちから、どよめきがあがる。
不安で急激に濁った空気を鎮めるように、「落ち着け」とフィリスが背筋を正しながら、報告した男の前に出る。
「ぎ、ギルド長! 戻られていたのですね!」
「状況を報告できるか?」
「……はい! 警備担当の者に、伝達石を渡しています」
「わかった。討伐ランクがAランク以上の者は、直ちに会議室へ集え! ドラゴンへの対策会議を行う! 10分後には始めるぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
フィリスの号令が響き、ギルドの職員たち全員がそろった返事をし、各々動き出した。武器を持ったものは、受付の横にある廊下の奥へと消えていき、エルナなどの事務員は、引き出しからタグの付いた、伝達石という鉱石を取り出して、鉱石に向かって緊急会議の案内を伝えている。
皆が慌ただしく動く中、フィリスが少し申し訳なさそうな表情で改まり、モルヴェントへ向かい直った。
「師匠。よろしければ会議に参加して頂けないでしょうか」
「分かった」
モルヴェントが了承し、武器を持った者たちが向かった会議室へと向かう。
ちょうど10分後。めぼしい人材が集まった会議室で、大きな机に広げられたルーネス領の地図を囲みながら、ドラゴン対策会議がスタートした。




