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最強のBランク暗殺者 ~腐敗した王宮を自主退職したら、面接で不採用にした才能の原石たちからの、逆スカウトがとまらない~  作者: 糸音
第2章 歴代最高の聖女

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悩む聖女


 聖女の役目は、主に土地を浄化することだ。

 活性魔素によって、豊かな土地が枯れ地に、澄んだ空気が毒に、金が鉄くずに変わる前に。その土地や国の暮らしを汚染による変異から守ることが、聖女の義務。


『浄化』は聖女が持つ力とはいえ、聖女という力を抱え込むのも、人を派遣するのも相応の準備と金が要る。だから普通は『浄化』を行う際には、その土地の持ち主に浄化料として金銭を請求するのが普通だった。


 唯一無二の力を行使するための必要経費は、いつしか体の良い名目を装った『徴税』になっていき、過度な取り立てを西国以外の諸国が行うようになり、特にモルヴェントが所属していた王宮は顕著に行っていた。


 そのことに心を痛めていたリチアは、当時聖女を保有していない西国に、モルヴェントが用意した伝手でその身を売り込み、自分の行いに見返りとなる金銭などを徴収しないことを条件に、西国の聖女として勤めることになったのだ。


「……」


 夜。護衛の者が自分の馬車を交代で見張る中、毛布で身をくるみながら、今までの行いを振り返る。


 浄化に加え、リチアには強大な治癒の力があり、その他にも二つ、固有紋(ユニーク)ではないが、有用な紋の力がある。


 その力を今まで、自分が抱く理想に赴くまま、分け隔てなく、見返りを求めることなく振舞ってきた。


 最初は皆から感謝された。歴代最高の聖女という賞賛の声も耳に入ってきた。

 自分が活動を重ね、そんな声が大きくなるにつれて、次第に感謝は当たり前に変わり、無償の善意は、貧しい者の当然の権利に移り変わっていった。


 今回の件はその典型だ。


 浄化も、魔物の討伐も。自分の権威を振りかざして見返りなく行ってきたものを、都合よく利用されかけた。

 何度も説得しても、活性魔素の危険性を理解してもらえなかった。いや、そもそも話を聞く気があったのか。理解すれば分かってもらえるという、スタートの考え方から違ったのではないか。


 カーテンを指でめくって、窓越しに外の様子を伺うと、村周辺の地図に、なにやら細かい情報を書き込んでいるモルヴェントがみえた。


「……すみません。少し、いいでしょうか」

「なんだ」


 作業をしているモルヴェントに、村人の一人が歩み寄ってきた。

 昼間とは違い、怯えながらも物腰低く様子を伺う村人に、モルヴェントが作業の手を止め、顔を向ける。




「……俺たちの暮らしは、ずっとこのままですか?」




 責めるような問いかけではなかった。

 唯々事実を確認するような、暗い表情の村人に、モルヴェントが近くに座るように促した。

 優しく風が吹いて、近くの焚火が揺らいだ。




「リチアも聞くか?」


 


 不意に呼びかけられ、心臓が跳ねた。『看破』の紋があるのだ。起きてることなどお見通し、というのは今更気が付いた。


 いそいそと馬車から降りてきた聖女の姿に、村人の顔が気まずそうに引きつった。

 

 小さく一礼してから、リチアがモルヴェントの側に座る。

 モルヴェントが、多くの情報や図が書き込まれた地図をなぞりながら語り出す。


「まず、黒く塗りつぶした場所が、今回の活性魔素による汚染で枯れた、あるいは毒性物質が発生して、利用できなくなった場所だ」


 汚染地域のおよそ6割。元々栄養が少なく痩せた土地だったが、今回の汚染で、鉱脈や豊かな土地に転じることは無かったようだ。

 厳しい現実に村人やリチアの顔が曇る。


「そして、斜線で覆った地域が、農地として利用できなくはない場所だ。幸い川の水は汚染もされていないから、作物も育てられる。今回の汚染で異常発達した植物の中に、薬用成分を多く含むものがあった。同じ成分を含む薬草が高値で取引されている。魔物の素材ほどではないが、金にはなる」

「え……」

「薬草が生えていた周辺の土の情報、使えそうな肥料のレシピはこっちの紙に纏めてある。それで栽培はできると思うが、万が一の時はルーネス領宛に文を寄越せ。調べてやる」


 モルヴェントの言葉に、驚いて言葉を失ったのか、村人が口を薄く開けたまま固まっていると、「いいか」と低い声でモルヴェントが続けた。


「使えるだけの土地が残ったのも、有用な植物が生まれたのも偶々だ。成功だなんて思うなよ。自分で背負えないようなものを、他人に勝手に押し付けるんじゃない」

「……はい」


 静かな叱責に、村人が肩を落としながら頷いた。


「豊かになる努力も焦らずやれ。いいな」


 素っ気ないが、突き放すのではなく、背中を押すような言葉に、村人は口をつぐんだ後、力強く頭を下げてからその場を去っていった。


 生気を取り戻した背中を眺めながら、リチアが呟くように語り掛ける。


「ありがとうございます。先生」

「俺も見殺しにしたいわけではないからな」


 やれやれといった様子で、鉄仮面の下から息が漏れた。


「ちゃんと寝ておけ。明日の朝にはここを発つぞ」


 言われて、会釈をしてからリチアは馬車に戻って毛布を羽織った。

 大きな嬉しさの中に、少し滲んだ無力感。


 胸が締まるような感覚を覚えながらも、少し胸のつかえがとれたリチアは、暫くしてから優しい寝息を立て始めた。


 その後、同じように汚染された土地を巡り続け、今回の浄化の旅の終着点として、活性魔素によって豊かになった、異例の領地――ガルド領に辿り着くのだった。


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