暗殺者。一角獣を討つ
一角獣は、我を失ったように暴れ狂っていた。
全長およそ10m。馬を大きくして、そのまま鉱石の皮膚を張り付けたような見た目をしており、内側から皮膚を突き破って生まれたような、ゴツゴツとした黒い鋼のような角が特徴的な魔物だった。
口から活性魔素を含んだ、虹色の息や唾液を漏らし、瞳孔の定まらない瞳を泳がせている。
辺りに雷を放出するのも、村人たちに攻撃の意思を示したり、威嚇をしているわけではなく、自我を飛ばされるような衝動への苦しみによるものからだ。
一角獣との距離500。400。300。
縫うような風が通り過ぎるかの如く、姿勢を低くしながら一角獣へ迫るモルヴェントに、護衛達が息を飲む。
瞬きすれば見失ってしまいそうな身のこなし。
舐めていたわけではないが、リチアからは討伐ランクBと聞いていただけに、ランクとの乖離を感じてしまう。少なくともスピードだけならばSランク級のハンターにも引けはとらない。
「――!」
一角獣が鼻をすんと動かすような仕草を見せ、モルヴェントの方に顔を向けた。
馬の嗅覚は人間のおよそ千倍。
察知されることを察知していたのか、一角獣が振り向くと同時、その鼻に炸裂弾のようなものが命中した。
モルヴェントが腰のポーチから取り出したそれは、炸裂と同時に、鼻を捻じ曲げるような激臭をまき散らし、吐くような悪臭に怯んだ一角獣が、角から雷をばらまいた。
モルヴェントを狙って、ではなく、目で追えなくなった敵へバリアを張るように、四方へでたらめに降り注ぐ雷。
地面を抉り、草木を焼く雷の猛襲で、辺りは土埃や黒煙に包まれた。
更に塞がれる視界。
土埃と黒煙の先へ一角獣が警戒をとばすも、鉄仮面の暗殺者は、既にその足元へもぐりこんでいる。
狙うは心臓。鉱石化していない部分の皮膚と、骨の隙間を針のように通す。
『看破』の力によって、正確にとらえた敵の急所に、寸分の狂いもなく、両手剣の一撃が突き刺さる。
「――ブオオオオオオオっ⁈」
最後のあがきとばかりに、蹄で周辺の地面を抉りながら暴れようとするも、モルヴェントが前足の関節を切断し、一角獣を前にこかした。
倒れて地に伏した一角獣の頭に迫り、鉱石化していない目から脳をめがけて、再び針を刺すような一撃が叩き込まれた。
急所を貫かれた一角獣は、体を大きく数回痙攣させ、そのまま動かない肉塊となる。
「……す、凄い」
はたして、一角獣がモルヴェントの姿を捉えていた時間は1秒もあっただろうか。
護衛隊長が思わず目を剥いて立ち尽くしていると、手信号でモルヴェントが完了の合図を送ってきた。
剣にこびりついた血を払いながら、モルヴェントが戻ってきて、護衛隊に尋ねた。
「魔物の解体はできるか? 手伝ってくれ」
♢ ♢ ♢
護衛隊と共に魔物の解体をしながら、モルヴェントは解体して分かった情報を、口に出して伝えていく。
「皮膚や角膜は非電動性。頭蓋骨の表面に『発雷』の紋あり。鉱石化した角はアダマンタイト性」
護衛隊の一人が一つ一つメモを取っていく。魔物が発生した場合、その情報を纏めて各地へ共有することも、ハンター業務の一つだ。
「骨格から周辺地域に住む馬が魔物化したものとみて間違いはないだろう。浄化後に生息地を調べたほうが良い。生殖機能が生きているから、他に個体がいれば繁殖する可能性がある」
「わかりました。本国へ伝えます」
解体を終え、ばらされた素材が並べられた。
鉱石の中でも屈指の硬度を誇るアダマンタイト性の角。非電動性で、雷耐性を持つ防具に活用できる皮膚や角膜。『発雷』の紋を持ち、発電装置に加工できる頭蓋骨。
そのほかの骨や肉も品質が良く、骨は武具や魔道具の素材に、肉は純粋な食料品として高値が付きそうだった。
綺麗に仕留めたのもあって、下手に売っても5000万は下らないだろう。
「とりあえずは土地を浄化すべきだな。リチア、頼めるか」
「……はい」
リチアが村人たちの方を見やったが、彼らは気まずそうに目をそらした。
思うところはあるようだが、止めたりすることはなさそうだ。
リチアが少しだけ目を細めた後、大地に手を当て、魔素を巡らせていく。
すると、リチアの服の内側から優しい光が漏れ始め、大地に血脈が走るように、神々しい光が地盤を流れていき、周辺一帯が輝き始めた。
眩しいはずなのに、目を刺すことのない柔らかな輝き。
内から温かくなるような、不思議な高揚感を覚えながら、村人たちが辺りを見渡した。
「――『浄化』‼」
光が最大限に輝きを増した後、晴れた世界に現れた景色は、穏やかな世界に戻っていた。
枯れたものや、異常発達した木々や植物は相変わらず残っている。だが、あれ程土地を汚染していた活性魔素は微塵もなく消え失せていた。
村どころか、周辺の土地一帯ごと、一度に浄化できるのは、世界広しと言えども、リチアだけだった。
「……後は、お願いしますね」
少し肩で息をしながら、リチアは馬車の中へ戻っていった。相当な力を使ったのだろう。
リチアは馬車で休みながら、聖女としてこの土地で何ができたのか、ぼんやりと思考を巡らすのだった。




