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最強のBランク暗殺者 ~腐敗した王宮を自主退職したら、面接で不採用にした才能の原石たちからの、逆スカウトがとまらない~  作者: 糸音
第1章 ハンターギルドの剣聖

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暗殺者、王宮を辞める

 

「モルーーーーーー‼ 王宮辞めるってのはどういうことだーーーーーー?!」


 雲一つない快晴の空の下。

 真昼の太陽を隠すほどの、大きく高い王宮の城門前に、世界を震わすほどの怒鳴り声が響いた。門を警備していた衛兵たちは反射で飛び上がり、遠くで作業をしていた衛兵たちも、驚いた様子で声の方に振り返る。


 声の主はヴィヴィアナ・トール。王宮の第一衛兵隊隊長を務める、王宮最強の女戦士。

 後ろで一つに纏めた緋色の髪を揺らし、怒りを露わにしながら、王宮を離れていくモルヴェントに迫ってくる。


 ずかずかと大股で向かってくるヴィヴィアナに、荷車を引いていたモルヴェントが立ち止まり、やれやれと息を吐いた。


「聞いての通りだ。先ほど辞表を提出し、それが正式に受理された。そういうわけだ」

「そういうわけだ。じゃない‼ 何であたしの断りも入れず、そんな真似をしたんだって話だろうが⁉ お前を王宮に誘ったのあたしだぞ?!」

「人事としての能力を疑われた。知っているだろう。俺が不採用にした者たちが、その後どうなったのかを」


 思い当たる節があるのか、ヴィヴィアナが苦い表情になる。


「ルーネス領の『剣聖』に、西国の『聖女』。それに魔道都市の『秀才』か」

「全員俺が落とした者たちだ。余罪も多数ある。指摘されては王宮にはいられまい」

「そうさせた原因は王宮の腐敗あってのことだろう。お前が来る前、どれだけの人材が、お偉い共の政治に利用されて、その才能を潰されてきたことだか」

「それを連中に指摘したところで、知らぬ存ぜぬで終わりだ。後の王宮のことは、お前が見てやればいいだろう」


 引き留めるつもりだったのだが、モルヴェントの意思は固いらしい。

 正論の言い合いで負かせる相手じゃないと知っているヴィヴィアナは、少し寂しそうな様子で、零すように告げた。


「……あたしが一人になるだろーが」

「……お前なら、大丈夫だろう」

「大丈夫だけどさあ」


 頑なに譲らなかったモルヴェントの声色が、少しだけ揺らいだのを見て、ヴィヴィアナは反省したように頭を掻いた。


 これ以上はあたしの我儘か。


 そう思ったヴィヴィアナが、ポケットから輝く琥珀色の鉱石を取り出してモルヴェントに放った。


「伝達石か。外部の人間に渡して大丈夫か?」

「バーカ、長年の友人に渡すぐらいで文句言わすかよ。つか言わせねえ。で、王宮やめてどうすんだ。勤め先の当てはあるか?」

「ない。が、今まで溜めた稼ぎがある。暫く働かなくても支障はない。いざとなればフリーのクエストを受けるつもりだ」


 受け取った伝達石を鞄に仕舞い込んで、モルヴェントが「では」と荷車を引き出した。


「モル。心配はしてないが、達者でな」

「長年世話になった。何か依頼があれば呼んでくれ。話は聞いてやる」


 半分振り返る形で、手で挨拶をすると、ヴィヴィアナも呆れたように笑いながら、最後は穏やかに見送ってくれた。

 王宮の中へと消えていく背中に、心の中で一礼し、モルヴェントは長旅の支度をしようと、城下町の市場へ向かった。




 ♢ ♢ ♢




 城下町は、溢れんばかりの人で賑わっていた。道幅は広いのに、往来する人が多いせいで、人と人の隙間がほとんどない。道行く人がモルヴェントの荷車を見て、うっとうしそうに道を譲る。


 モルヴェントは行きつけの雑貨屋に立ち寄り、飲み水や保存食、衣類や火種などを大量に買い込んだ。


「今日はえらい買い込むな。遠出の予定でもあるのか?」

「先ほど職場を辞めてきた。暫く王都を離れようと思う」

「ええ?! あんたほどの人がどうして?!」


 店主が食いつくように尋ねたが、鉄仮面の奥から返答は無い。

 元とはいえ、王宮勤めの人間が、内部の事情を軽々と話すわけにはいかない。

 店主もそれを察して、事情を呑み込むように頷く。


「俺が知ったことじゃないか。いずれにせよ、寂しくなるな」

「王都に立ち寄る機会があったら、また贔屓にさせてくれ」

「あたりまえだろ。ほら、サービスだ。こちらこそ世話になったからな」


 店主がモルヴェントが愛飲していた、地元の酒を差し出すと、「ありがとう」とモルヴェントも受け取る。


「荷物が多いだろう、手伝うよ」


 手伝いが必要ないのは店主も理解しているが、見送りたい一心だ。

 それを察してモルヴェントも手伝いを依頼した。


 二人で城下町を回りながら、世話になった人たちや、親しい人たちに挨拶をして回った。


 そして、王都の外へ続く門の付近を歩いていた時だ。




「携帯型魔導コンロが70万G(ゴールド)?! おじさん、ほんとにその値段でいいの?!」

「ああ。ちょいと小ぶりだが、性能は保証するぜ。嬢ちゃん美人だからサービスしとくよ」




 屋根のある店が立ち並ぶ城下町とは異なり、城下町外れでは路上に敷物を広げて、商品を並べているだけの怪しい出店も多い。

 少し閑散とした路地で、黄色い声を上げる女性の様子が目につき、モルヴェントが足を止めた。


「モルヴェントさん。どう、あれは?」

「まがい物だな」


 ふう、と呆れた息が鉄仮面の隙間から漏れ、騒ぎの下へ足を運ぶ。


 束ねた紙幣と、品物を交換しようとしていた二人の間に割って入り、モルヴェントが紙幣を持った女性の腕を、そっと引いた。


「――え?」

「おい。こんな粗悪品を70万で売りつける気か?」

「な、なんだあんた?! 取引の最中に割って入って来るんじゃないよ?!」


 如何にも怪しげな風貌の店主が、驚きながら文句を言うのを、仮面の下からの眼圧だけで黙らせた。

 思わず言葉をひっこめた店主を一瞥した後、モルヴェントが女性に向かい直る。


「お前もお前だ。こんな外れの出店で魔道具の取引があるはずが無いだろう。少しは警戒して――」

「……師、匠?」

「おい、どうしたんだモルヴェント。知り合いか?」

「……モルヴェント? やっぱりあなた、モルヴェント師匠ですよね?!」


 腕を引かれた女性は、鉄仮面を見て、遠くを見るように固まった後、続く呼びかけを聞いて、歓喜に瞳を揺らしながら、モルヴェントの右手を両手で包み込むように掴んできた。




「覚えていますか? 私、15年前あなたが不採用にした『剣聖』です‼」


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