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最強のBランク暗殺者 ~腐敗した王宮を自主退職したら、面接で不採用にした才能の原石たちからの、逆スカウトがとまらない~  作者: 糸音
第2章 歴代最高の聖女

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森羅活性教


「……捉えた賊たちのことですよね。モルヴェントさん、知っているのですか? その『森羅活性教』について」


 エルナが尋ねると、「ああ」と短い返事が返ってきた。

 張り詰めた空気に、暴走気味だったフィリスも、真剣な表情になる。


「そもそも俺たちが生命活動や、紋の力を発現する際に使用する、『魔素』とは何か分かっているな?」


 モルヴェントの問いに、フィリスが「はい」と頷いた。


「あらゆる物質やエネルギーの根源となる、万能元素――『始原元素』とも呼ばれる存在です」

「その通り。大地も水も、熱や光さえも、元をたどれば魔素が変化したものだ。だが魔素の変換は基本的には不可逆で、魔素から生まれた資源を別なものに加工することはできても、その物質を魔素に戻したり、他の物質に完全に変質させるdことはできない。基本的に、だ」

「はい。その例外が『活性魔素』という話でしたよね」

「ああ」


 過去にモルヴェントから習った話を、フィリスが復習するように続ける。


「魔素が何らかの要因で、異常に活性化することがある。それが『活性魔素』だ。活性魔素は生物でも水でも鉱物でも、何にでも取りつき、取りついた物質に『強制的な変化を起こさせる』。水や鉱物が毒に、小動物が強大な生命体に変化することもあれば、その逆もあり得る」

「ええ。その活性魔素を鎮静化し、汚染された土地の浄化をするのが『聖女』の務めです」


 モルヴェントの説明に、リチアが補足をした。


「その聖女の行いを良く思わない連中が徒党を組み、暴徒化したのが『森羅活性教』だ」

「どういうことです? どんな危険な変化が起こるか分からない以上、活性魔素は鎮めるのが当然では?」

「見方を変えれば、枯れた土地が金が採れる鉱脈になることもある。やつらは活性魔素による変化を好意的に受け止め、聖女の浄化を悪とする組織だ」

「……そんな奴らがいたのですね」

「勢力を増したのは最近のことだもの。知らないのは無理もないわ」


 モルヴェントに説明され、知らなかったことを恥じるフィリスに、リチアがフォローをする。


「ドラゴンも、オオトカゲなどの爬虫類が、活性魔素で変化したことで生まれた存在。貧しい暮らしをしている者からは、活性魔素による汚染は、好機に見えるのかもしれないわね」

「リチアは、そんな奴らに命を狙われているのか?」

「ええ。こればかりはしょうがないわ。殺されないように上手く立ち回るしかない」

「しょうがないって、リチア、お前……」


 どこか諦めた様子のリチアに、フィリスが悲し気に眉をしかめた。


「森羅活性教に属する人たちは、貧しい生まれの者たちがほとんどなの。向こうからすれば、危険を放置するよりも、自分たちの暮らしが良くなる可能性を潰される方が辛いのよ。それを潰すのが、良い暮らしをしている『聖女』なら尚更」

「リチアは目立った贅沢もしてなければ、貧しい者たちにも、無償で治癒をしたり、稼ぎを寄付へ回したり、皆のことを考えて行動しているではないか」

「その行いも皆に行き届くことはまだない。不満を持つ人もいるのは自然なの。それに、私は食べるものにも寝る場所にも困っていない。向こうからすれば、十分贅沢よ」

「そう、なのかも……しれんが……」


 リチアの理屈も一理あれば、森羅活性教の行動理由にも一応の理屈はある。

 それでも納得できないフィリスが言葉を探すも、うまく言葉が出てこない。リチアの覚悟と諦めが混ざったような笑みに、喉で言葉がつっかえてしまう。


 心臓が重くなるような静寂に包まれる応接室。


 そんな重い空気の中、モルヴェントが鉄仮面の上から顎をさすりながら尋ねた。


「不満を暴力で訴える暴徒を放置するのは、正しい行いか?」

「……え?」

「お前は、お前がそれでいいからと考えているのだろうが、他の者が同じ立場になったときに、向こうの理屈が分かるから、互いに理解できるまで耐えろと言えるのか?」

「それは……」

「暴力を、ましてや殺人を肯定するのは慈悲ではないだろう」

 

 問いに答えることができなかったリチアの頬に、モルヴェントが優しく手を重ねた。


「少しクマがあるな。満足に寝れているのか」

「……最近は、あまり」

「襲撃は四六時中、いつでもあり得るのか」

「……はい」

「おい、お前」

「な、なんでしょう」


 少しだけ怒気が籠った声に、護衛隊長が少しだけ怯んだ。


「敵の正体も分かっていながら、なぜ襲撃を許している。大本は潰せないのか」

「……過去に何度か拠点を突き止め、組織を討伐しようと試みたのですが、その度に襲撃を察知され、上手く躱させるばかりで」

「情報が洩れているのか」

「……おそらくは。今回の来訪も秘密裏に進めたものなのですが、国境沿い付近で待ち伏せをされていたので」


 話を聞いたモルヴェントが、小さく息を吐いてからリチアに向かい直った。


「暗躍に長けた者がいるみたいだな」

「……そのようですね」

「普通の護衛を増やしてもキリがあるまい。蛇の道は蛇。毒はより強い毒で制すべきだとは思わんか」

「先生……」


 モルヴェントの意図を察したリチアが、感慨深そうに目を細める。




「お前の護衛と『森羅活性教』の排除――覚悟があるなら俺に依頼しろ。一番上手くこなせるのは俺だろう。相応の報酬は頂くがな」




 その言葉に、リチアは少し考えた後、嬉しそうに微笑した。

 背後に控える護衛隊長に、何かを尋ねるように顔を向ける。


「……私は反対ですよ。いくらあなたの恩師とはいえ、素性のしれない存在を雇うのは」

「では、あなたたちだけで私の護衛を行いながら、内通者の捜索、森羅活性教の討伐の任務まで遂行することはできますか?」

「それは……」

「先生ならできるのです。そうですよね? 先生」

「ああ」


 


 短く頷くモルヴェントに、リチアが改まった顔になってから頭を下げた。




「この度の護衛、先生に依頼をさせて頂きます」

「了解した。全身全霊を持って依頼を遂行しよう」


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