不採用にした聖女との再会
「助けるのは当然のこと。それが聖女様とお連れの方々ともなればなおのことです。到着が遅れていることは心配でしたが、結果、無事に再会できて何よりです」
「お顔を上げてください。私は友人ではありませんか。皆も私を守ってくれてありがとう」
聖女が柔らかな声で微笑むと、皆が小さく礼をしてから、その場で立ち上がった。
立ち上がったフィリスの前に、差し出された手を握り返し、二人は和やかに微笑みあう。
「ここには、私とお付きの者しかいませんし、畏まった振る舞いは無しにしませんか?」
「……それでは、お言葉に甘えさせていただきます。――リチア、賊に襲われるとは災難だったな」
「ええ。でもあなたが来てくれて助かった」
リチアの提案で、フィリスが砕けた口調に戻っても、周囲の者からのお咎めはなかった。一方のリチアも、肩の荷が下りたかのように、安堵した様子で仲睦まし気にフィリスと笑いあう。
8年経ったリチアは、目にも麗しき美女へと成長を遂げていた。
少しヴェーブがかかった、腰まで伸びた煌びやかな銀髪に、黄昏を受けて輝く湖畔を彷彿とさせる、深い黄金色の瞳。
やや痩せ型だった体つきは、メリハリの大きい輪郭に成長を遂げていて、修道服のようなドレスがなぞる、柔らかな輪郭が、見る者を蠱惑的に引き付ける。胸元辺りは収まり切れないのか、控えめに空けた胸元から、少し弾んで溢れる素肌が、否応にも女性の魅力を見せつけてくる。
フィリスがひきしまったスレンダーな体型をしていることもあり、対照的なリチアの見た目は良く映える。
タイプの異なる美女二人が仲良く並んでいる様は、長旅で疲れた兵士たちの目の保養にもなった。
「それにしても、救援に駆け付けるのが随分と早かったわね。近くにいたの?」
「いや、ギルドからここに直接だ。転移の転写紋で、上空に転移したんだ」
フィリスの言葉に、リチアや周囲の者たちから動揺が走る。
「座標をその場で刻み込んだってこと? そんなことすぐにできるわけ――」
「それができる方が、偶々この度来られていてだな。リチアにも紹介しよう。私のお師匠様を」
「フィリスの、師匠?」
「ああ。……あれ? 師匠はどこへ?」
辺りを見渡して、いつの間にやら距離を置いて、二人の様子を見ていたモルヴェントに気が付いた。
「油断するとすぐ見失っちゃうなあ。リチア、あの方が私の師匠である、モルヴェント師匠だ」
「……?!」
「いつかはリチアに紹介したいと思っていたのだ! 師匠はな! 私が10歳の頃から、剣や紋の使い方を指南してくれた戦闘の達人で! それでいて、魔道具や人工紋の知識にも造詣がある上、強くて優しい素敵な方でな! それから――」
「先、生……?」
「……リチア?」
なんか思ってた反応と違う。
一しきり自分の恩人を自慢したかったのだが、モルヴェントの顔を見るや、ひとりの世界に入ったように、モルヴェントを見つめるリチア。
そんな様子に困惑するフィリスを置いて、リチアがモルヴェントの方に駆け寄った。
「モルヴェント先生‼ モルヴェント先生ですよね?!」
「ああ」
「ああ! やっぱり! 私のこと、覚えていますか?!」
「ああ。リチアだろう」
「はい!」
駆け寄った勢いのまま、モルヴェントに抱きついた。
その姿に「――っ?!」と絶句するフィリスに目もくれず、リチアは目に歓喜の涙を浮かべながら、その鉄仮面を見上げながら、少女に戻ったように、嬉しそうに語り掛けた。
「リチアです! 8年前、あなたが不採用にした『聖女』ですよ! 先生‼」
そのまま熱を離さないように、抱擁を続けるリチアに、困ったような息を吐いてから、優しく両肩に手を置いたモルヴェント。
そのやり取りを見て、遠くから二人の様子を呆気に取られながら眺めていた、護衛の兵たちと、その隊長。
そんな隊長の肩に、冷たい手がポンと置かれた。
「どういうことか説明してもらおうか……‼」
「私が説明して頂きたい?!」
肩を握る手に力を籠め、わなわなと目に血管を浮かび上がらせるフィリスに、隊長が突っ込んだ。
フィリスからの理不尽な問い詰めに対応する横で、リチアは暫くの間、声を楽しそうに上ずらせながら、モルヴェントに体の調子や、これまでのことなどを質問攻めにするのだった。




