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最強のBランク暗殺者 ~腐敗した王宮を自主退職したら、面接で不採用にした才能の原石たちからの、逆スカウトがとまらない~  作者: 糸音
第2章 歴代最高の聖女

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聖女の危機

 ドスッ、と響く重低音。

 ギルドの受付(カウンター)から響いたその音に、ハンターたちが振り返り、目を剥いたまま固まった。


「とりあえず、こちらが討伐報酬の25億Gの内、1億5000万Gです。残りの報酬は資金が用意でき次第お支払いしますね」


 ここにいる全員、そのような金額を目にしたのも耳にしたのも初めてだ。

 ケースに入った札束を見て、「確認した」と頷いたモルヴェントに、若いハンターの男が問い詰めた。


「いやいやいや?! いくらドラゴン討伐したからって多すぎない?! 俺もドラゴン討伐に参加したことはあるけど、取り分1000万Gぐらいだったぞ?!」

「金額に間違いなどございませんよ、ギグさん。今回はソロでの討伐ですからね」


 モルヴェントの暗殺する様をフィリスの隣で見ていた若いハンター、ギグは、あれ以降モルヴェントに事あるごとに、舎弟のように絡んでおり、距離を強引に詰めている。

 

 驚きながらも、僻んでいる感じはしない。子どもの如く不思議を発散するように尋ねるギグに、エルナが小さく咳払いをしてから説明した。


「うちのギルドでモンスターの素材を買い取った場合の取り分は、ハンターとギルドで4:6。モルヴェントさんはハンターギルドに所属していないので、外部委託量10%が加算されて、5:5。パーティーで取り分の山分けも発生しないので、金額の50%を一人で受け取る形となります」

「それでも俺たちの時は、ドラゴン1体で15億とかだったろ? モルヴェントさんのドラゴンは50億で売れたってことじゃん。この差は何?」

「今回は素材のほとんどが傷つかずに、高品質な状態で残っていますからね。皮や鱗のみならず、血や内臓、火炎袋の中の発火粘液や翼膜、骨や肉など、あらゆる部位が。高値がついて当然。売り方によっては50億以上の利益が出ますからね」


 ギグや、周囲で説明を聞いていたハンターたちが息をのんだ。強靭かつ、タフネスの高いドラゴン相手だ。そもそもちゃんと殺せるだけで御の字なのだ。素材の状態に気を遣う余裕がない。


 その説明に、受付の奥から現れたフィリスが補足する。


「特に今回、翼膜が無傷で取れたのがでかい。普通翼竜型のドラゴンは、逃げられないように翼から潰すのがセオリーだからな。翼膜だけで10億は下らないぞ」

「すっげえ……。なあモルヴェントさん。今度俺にも暗殺の仕方教えてよ。俺もがっぽがっぽ稼ぎてえ」

「そのやかましい気配を消せるようになったら考えてやる」


 ギグをあしらいながら、モルヴェントが金を受け取った。

「そりゃないよお」と人懐っこく寄って来るギグを手で払うと、改まったようにモルヴェントが尋ねる。


「西国の『聖女』はまだ来ないのか?」

「ええ。多少遅れるかもしれないと、文で頂いてはいるのですが」


 フィリスが少し心配そうな様子で答える。

 本来は王宮の使者が到着する前に、西国との取引を終える手はずだった。


 だが、向かうと返事をいただいてから、既に半月が経過している。


 西国の国境付近に位置しているルーネス領は、通常であれば馬車で5日ほどあれば着く距離なので、既に10日近く遅れている。

 その為、やむを得なく王宮との取引を優先した形だった。


 フィリスがエルナと難しい顔をしながら見つめ合っていると、ふと受付の棚に掛けられている。伝達石の一つが光輝いた。




『伝令! 西国の紋章を付けた馬車隊が、何者かの襲撃を受けている模様! 西区の国境沿い付近! 至急応援求む!』




「何だと?」


 伝達石から響いた報告に、ギルド中がざわついた。


「落ち着け」とフィリスが皆を静めながら、エルナが差し出した剣を受け取る。


「私が先に向かい、対処する。他の者も準備ができ次第、西区の方へ合流してくれ」

「「「「は!」」」」


 フィリスの号令で、皆が返事をした後、戦闘準備に取り掛かった。

 慌ただしく動く人の中、フィリスが「行ってまいります」とモルヴェントに声をかけて、現場に向かおうとするが、


「待て」

「師匠?」

「お前の能力をフルに使って、到着まで10分かかるだろう。少し待て。2分で送り届ける」


 そう言い残して、モルヴェントがギルドの自室に駆け出し、すぐさまフィリスたちの下に戻ってくる。


 モルヴェントが持ってきたのは、不思議な紋様が描かれた弓と、羅針盤のような紋様が描かれた、ドラゴンの皮を使って作られた皮紙だ。




「……?! もしかして、『転移』の転写紋(スクロール)ですか?!」

「そうだ」




 エルナの言葉に、辺りで準備を進めていたハンターたちが、不意に足を止めた。


 そして、皆の視線を一身に受けながら、モルヴェントは皮紙に挟んでいた彫刻刀のような器具を使って、羅針盤の模様の中に、文字のようなものを刻み始めるのだった。



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