面接②ー① ~後に最高の聖女となる少女~
第2章スタート。
よろしくお願いいたしますm(__)m
「次の者。入れ」
白い漆喰で塗装された廊下。とある部屋の前で待機していた少女が、深く息を吸ってから立ち上がった。
「失礼いたします」
緊張はしているが、動揺はしていない。
まだ12歳になったばかりの少女は、気品に溢れる動作でノックをしてから、部屋の中に入り、背筋を正して、ゆっくりと礼をする。
「名と年齢、それと出身地を」
「リチアと申します。家名はありません。先日12になりました。出身は西国国境沿いにある、都市ボルダの孤児院の出となります。本日はよろしくお願いいたします」
孤児院の出、家名無しとなれば、良いとこの出ではないはずなのだが、どこかの令嬢と見間違うほどに品がある。
「面接を担当する、モルヴェント・リヴフリードだ。本日はよろしく頼む」
モルヴェントが礼を返し、リチアと名乗る少女に向き直った。
鉄仮面姿のモルヴェントを見ると、大抵の者は萎縮したり、怪訝な反応を示すものだが、目の前の少女は、よくも悪くも反応が無い。
モルヴェントがどんな人物か興味が無いのか、それとも別な何かか。
しっかりと表情を正し、まっすぐ鉄仮面の奥を見つめてくる瞳が、意志の固さと同時に、どこか危うさを感じさせる。
「そこの椅子に掛けてくれ。今からいくつかの質疑応答を行う。返答には嘘偽りなく答えるように」
「はい」
モルヴェントが示した椅子に、一礼してから腰を下ろす。
こうして、リチアの『聖女』としての資質を確かめる面接が始まった。
♢ ♢ ♢
「『紋』を4つ持っているそうだが、どのような紋か説明できるか?」
「はい。右の手の甲に『治癒』、掌に『活性』。後は左手から肘辺りにかけて『鎮静』の紋。あとは、胸からお腹の下あたりにかけて、『浄化』の紋が」
モルヴェントのように、淡々と説明しながら、リチアは紋を見せようと、服に手をかけた。
そのまま服を脱ごうとするリチアを、モルヴェントが手で制す。
「脱がなくてもいい。大きさからするに、『浄化』の発現は3か月ほど前か。他の紋は1年ほど先んじて発現したのだろう。発現時期に対して、紋の成長が著しい。かれこれ300人は治療したか?」
「……! 人数まで、分かるのですか?」
「俺のはそういう固有紋だ」
無表情に近かったリチアの表情が初めて揺らいだ。
相も変わらず感情の起伏が見えないモルヴェントに、この時初めて怪訝な表情を向ける。
「『浄化』の紋も少し成長しているな。試したのか」
「院長様の指示で、国境付近の汚染された土地を一度。……私の気力が持たず、完全な浄化はできませんでしたが」
「初めは、汚染された鉱石などを練習台にして、徐々に力を慣らすものだ。体が出来上がってないのだ。持たなくて当然だ」
「私は、『聖女』になるには力不足でしょうか」
「今はな。だが、才があるのは俺が保証する」
そう言いながら、メモに何かを書き始めたモルヴェントに、リチアが安堵と不安が混ざった気持ちになる。
評価されたか、否か。流れとしては前者だとは思うが、いかんせん顔からも声からも感情が読めない。
「お前の潜在能力は分かった。後は、『聖女』として王宮勤めに志願する動機を聞かせてくれ」
モルヴェントが質問を変えると、リチアは気持ちを切り替えるように、小さく深呼吸をして、落ち着いた声で答える。
「力を持つ者としての務めを果たしに来ました。土地を浄化し、この世に生を受けたすべての者が、より良い人生を全うできるよう、『聖女』として世界に貢献するためです」
リチアの言葉に、モルヴェントの鉄仮面から、難しそうに唸る声が漏れた。
鉄仮面が初めて見せた怪訝な感情に、リチアは少し目を丸めた後、眉をしかめた。
変なことは言っていない。正しいことしか言っていないはずだ。
なのに、目の前の男の反応は、なぜだか暗い。
「動機について、詳しく話を聞いてもいいか」
「……はい」
孤児院の色んな人に練習相手をしてもらったが、動機で詰まるのは初めての経験だった。
想定外の質問に、胸の鼓動が少しだけ早くなる。それでも、リチアは表情を崩すことなく、モルヴェントの質問に答え続けた。
そして、モルヴェントが満足いくまで話を聞き終えた後、リチアに改まった様子で告げる。
「――そういうわけで、俺はお前のことを不採用にしようと思う」
この日から8年の月日が経ち、このとき不採用にされたリチアという少女は、国境を越えた西国の地で、歴代最高の『聖女』として、世界に名を馳せる存在となっていた。
清らかな心を持って、身分分け隔てなく民と触れ合い、土地や命の穢れを浄化する『聖女』。
そんな聖女の下に、ルーネス領から文が届いた。内容は、状態の良いドラゴンの素材が手に入ったことを知らせるものだ。
それを確認した聖女が、ドラゴンの素材を買い取るために、ルーネス領へ向かう旨を記した手紙を送ったことから、8年前に生まれた縁が、再び繋がろうとしていたのだった。




