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「いらっしゃいませ〜♪」

 

 CLOWDで一番の味と評判の中華料理店『熊猫飯店(くまねこはんてん)』の扉を開けるなり賑やかな鈴の音のような声が響いた。

 店の奥から小走りで現れたのは、ミニ丈のチャイナドレスの上に白いエプロンを纏った猫耳少女、マオだ。例によって彼女もマキナでありながら、この店に欠かせない個性的な看板娘店員を務めている。

 

「やっほーマオ。一仕事終えてごはん食べに来たよ〜」

 

 手を振って挨拶するニコは疲れを隠さない伸びを一つすると、店の中を見渡し、カウンター席にいる人物を見つけた。

 

「あ、みなさん! ご無事で何よりです!」

 

 カウンターの席から、ユニが天使のような笑顔で手を振った。彼女の顔には、安堵と喜びが滲んでいる。

 

「ユニ〜寂しくさせてごめんね〜!」

 

 ニコは駆け寄り、ユニの華奢な体をぎゅっと抱きしめ、再会の喜びを全身で表現する。

 

「いえいえ。マオさんやワンさんに良くしてもらったので大丈夫です」

 

 ユニは抱擁を受け止めながら、ニコの背中を優しく叩いた。

 

「ユニちゃんもマキナってことでレトリーちゃんとコットンちゃんとフローネちゃん以外のマキナ友達が増えて嬉しいよ〜!」

 

 マオは尻尾をぴんと立て、ユニの頬に自分の頬をスリスリする。

 

「くすぐったいですよマオさん〜」

 

「ぐへへ百合だ〜」

 

 目の前で繰り広げられる光景にニコはヘヴン状態をキメる。

 

 セレンは担いでいたボストンバッグを下ろし、ユニの隣の空いた席に腰掛ける。

 

「もう何か食べたのかい?」

 

「いいえお水だけです」

 

 ユニは首を横に振った。

 

「……待っててくれたの?」

 

 きょとんとした表情を浮かべるルナにユニは頬を染めてはにかんだ。

 

「折角なら皆さんとごはんを食べたかったので」

 

 その言葉に、一瞬場の空気が和む。

 

「とても良い子だわ。うちの男どもとは大違いね」

 

 シオンの視線は既に席に着き、メニュー表を凝視しているヴァンとリクに向けられている。

 

 ペット同伴可ということで連れてきたハチにおやつをあげるフローネは苦笑いしながら頷いた。

 

「お店に集合しようって話になると先にみんな食べ始めてますよね」

 

「な、なんだよその目……?」

 

 ヴァンがギクリとしたように顔を上げる。

 

「出来たてが上手いからな」

 

 リクは顔色一つ変えずに答えた。

 

 一方ファルコは気にせず、ホログラムウィンドウでメニューをざっとスクロールし、次々に酒を注文する。

 

「今日はかなり仕事したし明日は休みだし呑むぞ〜」

 

 店の主人であるワンが、カウンターの奥から顔を出す。年配のクマ系オルトの男性であり、数少ない見た目が動物に近いオルトである。彼は客の顔を一瞥し、これ見よがしに肩をすくめた。しかし口端はにやりと上がっており、ツンデレなのが伺える。

 

「お騒がせパンクロウラーズと10課の連中が飲みに来やがったか。おいマオ」

 

「ハイハーイ! お冷どうぞ~」

 

 マオは手際よく人数分のお冷やをテーブルに並べていく。

 

「ちなみにホークアイの福利厚生の飲み会手当付くから奢るわよ。そろそろ消化期限だしいい機会だわ」

 

 シオンが珍しく上機嫌に告げた言葉に場の雰囲気が一気に明るくなる。

 

「そりゃ最高じゃねぇか。前はファルコが黙ってて飲み会できなかったからな」

 

 ヴァンがファルコをジト目で見る。

 

「わ、忘れてたんだよ」

 

 ファルコが慌てたように弁解するが、フローネはにこやかな笑顔でさらなる追い打ちをかけた。

 

「予算オーバーしたらうちの二等官(セカンド)の自腹になるので安心してくださいね」

 

「――っておい!」

 

 ファルコは目を見開いて叫んだ。

 

「上のものとして寛容なところを見せたらどうだ?」

 

 リクが口の端を上げて煽る。

 

「マジで!? サンキューおっちゃん!」

 

 ニコは歓喜の声を上げた。

 

「……タダより上手いメシは無い」

 

 ルナが目を細め、セレンもその好意に甘えることにしたようだ。

 

「じゃあお言葉に甘えようかな」

 

 ユニは恐縮したように尋ねる。

 

「わ、私も良いんですか?」

 

 マオはエプロンのポケットに手を当てて、屈託のない笑顔で答えた。

 

「じゃんじゃん頼むといいよ~ホークアイの給料を庶民に還元させちゃえ!」

  

 ワンはため息をつきつつも、いつもの調子でフォローを入れる。

 

「予算オーバーしたらいつも通りツケにしといてやるよ」

 

「ったく……仕方ねぇな」

 

 ファルコは頭を掻き、タバコを咥えてライターで火をつける。

 

「それにしても疲れたわ……結局総務2課に確認したらこの馬鹿(リク)が起こした被害については保険適用外ってことで業者にオンライン見積出したら足元見られるしで総出でNEØN使ってDIYする羽目になるって……」

 

 シオンは、疲労を隠せない様子で愚痴をこぼすが、リクは当事者でありながらも微動だにしない。

 

「まぁ『パンクロウラーズ』の皆さんにも協力してもらいましたしリク君が居なければもっと被害は大きくなっていたということで多目に見てあげましょう」

 

「フローネは優しいなぁ。そうやって甘やかすから調子に乗るんだぞコイツ」

 

 ヴァンがリクを指さし、指摘するが、リクは腕を組みながら淡々と言った。

 

「まぁ反省はしている」

 

「それならもっと申し訳なさそうな顔しなさいよ何ふんぞり返ってるのよ」

 

 シオンが苛立ちを隠せない様子で詰め寄る。

 

 セレンが、ふと周囲を見回し、笑みをこぼした。

 

「それにしても特に予定したわけじゃないけど賑やかでなんかパーティーみたいになったね」

 

「……こういうのもたまには悪くないかも」

 

 ルナも、滅多に見せない穏やかな表情で頷いた。

 

 ニコはユニの肩を抱き、提案する。

 

「ユニの歓迎会ってことでいいんじゃない? あのホークアイの偉い人にも好きにしろって言われたし、依頼者からも特に連絡は無いし」

 

 ユニは感動に目を潤ませる。

 

「あ、ありがとうございます……! こんな私ひとりのために……!」

 

 その時、店の隅に設置された今となっては珍しい物理テレビから、けたたましいニュース速報が流れた。

 

『――またしても『ホークアイ』で不祥事!? あの嫌われ者・ゴードン氏がホテルに若い女性と入る場面が匿名者によってリーク!』

 

 画面には、先ほどの女性とは別の若い女性を連れたゴードンが怒鳴る映像が映し出されている。

 

『おい何を撮影している! これはただの休憩であって決していかがわしいことではない! というかこっちは愛車がぶっ壊されたんだぞいいだろストレス発散に若いオンナとイイことするくらい! 逮捕するぞ! ってジェシカ! 愛しのマイワイフ! 何故こんなところに!? ……いやこれは違うんだ! ただの勘違いで――ああっやめて! 金的マジ蹴りはやめて! 女の子になっちゃう!!』

 

 店内に、一瞬の沈黙が訪れた。

 画面が切り替わり、インタビューになる。しかしそれに応じていたのは顔にモザイクが掛かっているが、体格、気だるげな立ち振る舞いなどから今この場に居るファルコなのは明らかだった。

    

『全く呆れてものもいえないね~俺たち市民の信頼を踏みにじる最低な行為だよ。ホークアイはクソ! 税金泥棒! 給料上げろ!』

 

『ん? 今給料上げろと聞こえたような……?』

 

『あっ今のナシ!』

 

 誰もが言葉を失う中、ニコとルナは顔を見合わせ、まるで息を合わせたかのように言う。

 

「……うわー。これはすごい偶然だねー。若いオンナと浮気なんてサイテーだなぁ」

 

「……ほんとほんとー。わたしたちは何も知らないけどー」

 

 セレンは額に手を当て、ため息をついた。

 

「おいおい」

 

「アンタたちねぇ……まぁ追及はしないでおくわ」

 

 シオンは呆れ半分、諦め半分といった表情で、それ以上は追求しなかった。

 

「っていうかアンタなんで一般人装ってコメントしてんだよオイ」

 

「はぁ? 無関係だ。俺は知らん」

 

 ヴァンの指摘にファルコはそっぽを向き、完全にシラを切る。

 

「すごく目が泳いでますね」

 

 フローネの冷静な指摘にファルコの頬に冷や汗が伝う。

 

 そんな騒ぎをよそに、マオが注文の品をテーブルに並べた。湯気を立てる皿、鮮やかな色合いの料理の数々が、食欲を刺激する。

 

「お待たせしました~! どうぞ召し上がれ♪」

 

 ユニは目を輝かせる。

 

「わぁ……とても美味しそうです!」

 

 ニコはグラスを手に取り、高らかに宣言した。

 

「じゃあ楽しもう! カンパーイ!」

 

 グラスがカチンと鳴り響き、店内の喧騒は、つかの間の平和と団欒の喜びに包まれた。

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