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3-6

 ニコたちがハザマ川に到着した時、そこはすでに地獄絵図と化していた。無数のNO-IDが街路を埋め尽くし、建物を破壊し、人々を恐怖に陥れていた。

 

 何名かNEXASと思しきオルトや、いかにもロボットのような無骨な見た目の武装したドールがNO-IDの相手をしているが、見るからに劣勢でオルトたちはNO-IDの放つNEΦN砲を防ぐのに精一杯で、ドールたちはあっさりと頭部を鉤爪で吹き飛ばされ、次々に膝を付く。

 

「おらー! 私たち『パンクロウラーズ』が相手だよ!」

 

 ニコは名乗りを上げながら走り、ルナ、セレンもそれに続き、NO-IDたちの注意を自分たちに向ける。

 

「なぜオルトでもないアンタたちが俺たちに力を貸してくれるんだ……?」

 

「人助けに理由なんて要らないでしょ!」

 

 サブマシンガンを片手に応戦するクマ型のオルトの青年の問いにニコは当然のように答えた。

 

「そもそもオルトとかコモンとかマキナとかモッドとかそういうので区別するの下らないじゃん。みんな心を持つ"人"でしょ?」

 

「それは……」

 

 オルトの青年は押し黙る。

 

「遅れて申し訳ないでござる」

 

「私たちも協力します」

 

『小夜啼組』も現場に到着する。

 

「クオン! ホオズキ! リュウエン!」

 

「それにアイツらも居るぜ」

 

「コルニスさんにライカさん、ミエルさんも……!」

 

 リュウエンが顎で示す方を見るとそちらには『ストークファミリー』が居た。

 

「龍とユニコーン、どちらが勝つか勝負と行こうか」

 

「ハッ! 龍が勝つに決まってんだろキザ野郎!」

 

 言い争いながらNO-IDを駆り始めるリュウエンとコルニスの姿にライカが肩を竦める。

 

「男連中は喧嘩っ早くて困りますわね」

 

「同感でござる。まぁ拙者らもそなたらに負けるつもりは無いでござるが」

 

「あら……?」

 

 ホオズキの言葉にライカが目を鋭くする。

 

「ホオズキ? 今はちゃんと協力しましょう?」

 

「そうですよライカ。今はプライドなんてくだらないものは捨てましょう」

 

 聖職者2名の言葉にふたりは一旦冷静になる。

 一方で男ふたりは睨み合いを続けていた。

 

「ほらそっちに行ったよ!」

 

 ニコが叫ぶ。しかしリュウエンは偃月刀でNO-IDの両腕を斬り落とし、コルニスがランスでNO-IDの胸部を貫き、コアを粉々に砕いた。犬猿の仲なのに息の合ったコンビネーションだ。

 

「俺が両腕落としたおかげで命拾いしたな? 感謝しろよ」

 

「ふっ、愚かな。私のランスのリーチなら奴の攻撃が届く前に仕留められたに決まっているだろう」

 

「あ???」

 

「やるか???」

 

「あの真面目にやってくださいますか?」

 

「神の裁きが下りますよ?」

 

 低い声を出したクオンが男衆を黙らせながら弓で次々とNO-IDの動きを止め、その隙にミエルが十字架型の槍で仕留める。

 

「ふぅ……無事にNO-IDを祓えたのは八百万の神々のご利益ですね」

 

「いえいえ。我らが主の恩寵です」

 

 聖職者ふたりも思想の違いで火花を迸らせる。

 

「――人のこと言えないじゃないですの全く!」

 

「待つでござる! 抜け駆けはナシでござるよ!」

 

 するとライカが唸りながら飛び出し、ハルバードで一気に2体のNO-IDの胴体を切断し、それに続いてホオズキも手にしたクナイの投擲で1体の演算コアと動力コアを破壊し、短刀でもう1体の首を刎ね飛ばした。

 

「なんかあのチーム仲悪いのにコンビネーションが完璧じゃない?」

 

 ニコもNO-IDをミニガンでハチの巣にすながら感心する。

 

「……オルトということでNEΦNを通じた非言語コミュニケーションが得意なのかも。私も何となくできるし」

 

 ルナも両腕の『ファミリア』でNO-IDの頭部を砕きながら念じる。

 

(……もしもし? 聞こえる!)

 

「お! 聞こえる! なにこれテレパシー?」

 

「確かに聞こえるよ。これAURANET使った脳内通話とは違う感じ?」

 

 セレンは仲間にこんな特技があったことを知り、感心しながら貫通弾で2体のNO-IDを同時に撃破。

 

(……簡単に説明するとNEΦNの微細な振動を利用した糸電話みたいなもの。記録されず逆探知されないのが利点。でもデメリットは相手が同じ能力を持ってないと一方的にメッセージを送るしかできないこと)

 

「オルトすごいじゃん! かわいいしカッコいいし!」

 

 ニコの言葉はある意味かなりセンシティブな内容でもあるが、純粋な気持ちに基づく賞賛でもあり、一同はあんまり悪い気はしなかった。

 

「……とにかくこっちも頑張ろう」

 

 気を取り直したルナは両腕に装備した『ファミリア』で『NO-ID』の一体を殴打し、頭部の演算コアを破壊して続けて力を失った『NO-ID』のボディを『ファミリア』の牙のように並んで閉じられたマニピュレーター部を展開して掴み上げ、迫りくるもう一体のNO-IDに投げつけて2体纏めて粉砕した。

 

「ああ、援護する!」

 

 セレンは懐に迫るNO-IDを『メテオストリーム』で殴打し、バレル部を胸部に叩きつけ、コアを破壊。続けて遠距離からチャージしたNEΦN砲を今まさに放とうとしていたNO-IDを即座に捕捉して発砲。弾丸が頭部を貫通し、チャージされていたNEΦN砲が発射前に臨界点に達して爆発し、周辺に居たもう一体のNO-IDも巻き込んで消滅する。

 

「私も……!」

 

 ニコも負けじと応戦する。まず襲いかかってきたNO-IDの鉤爪をひょいと躱し、『ネコマタ』のチェーンソーで首を刎ね、続けて背後からNO-IDが投擲した瓦礫の塊をNフィールドを展開して受け止め、そのままサイコキネシスのように手で触れずに瓦礫の塊を時速300キロで発射し、NO-IDを粉々に粉砕した。

 

「おいおいお嬢、張り切るのはいいがやり過ぎないでくれよ」

 

「ごめんごめん! 気をつける!」

 

 建物に被害を出さないか気が気でないリュウエンにニコは苦笑いしながら謝る。

  

「しかし『パンクロウラーズ』の方々かなり腕が立ちますわね」

 

「同感でござる。心強い味方でござるな」

 

 ホオズキもクオンと同じ感想を抱いていた。

 

「我々も彼女たちに負けないように働きを見せなければ」

 

「主よ。どうか我らに力を……!」

 

「――行くぞっ!」

 

 コルニスがランスで2体のNO-IDを串刺しにし、ミエルが鮮やかな槍の連撃でNO-IDを穿ち、咆哮するライカがハルバードで一気にNO-IDを薙ぎ払う。

  

 一方で物陰から彼らの戦いを見守るユニは歯痒さを感じていた。

 

「私は……」

 

 なんて無力なんだろうと思う。

 

「危ないでござる!」

 

 すると目の前にNO-IDの一体がおり、今まさにユニを襲おうとしていたが、ギリギリのところでホオズキが刀で攻撃を受け止め、ライカがハルバードで首を落とした。

 

「なぜ無防備にぼーっとしているのですか! 安全なところへ行きなさい!」

 

「ご、ごめんなさ……」

 

「ええっ!? どうして泣くんですの!? ちょっと大声出し過ぎただけで別に怒ったわけじゃ……」

 

「ライカ……! ユニ殿を泣かしたでござるか!?」

 

「だから誤解ですわよ! そんなつもりじゃ……」

 

「申し訳ないでござる、彼女"ワーウルフ"で気が昂ると怖い顔になるので勘違いされやすいだけで結構かわいいところもあるのでござるよ? 例えばぬいぐるみを抱いてないと眠れないとか――」

 

「ちょっとホオズキ!!」

 

 ライカは顔を真っ赤にして抗議しつつ、気まずそうに咳払いする。

 

「ユニさん? そのありがとうございます。縁もないこの街にわざわざ来ていただいて」

 

「いえ……その、私なんか本当に何の力もなくて……誰の役にも立てなくて……ごめんなさい」

 

「別に謝る必要なんてありませんわ。ホオズキ様やリリア様の言う通り、あなたがAIZのコアかは私には知りえませんが、あなたは私たちのために何とかしたいって思っていただいたのでしょう? その気持ちだけで十分ですわ」

 

「そうでござる。だから拙者らはその恩に報いる義理があるのでござる。あなた様は必ず守るでござる。忍として」

 

 しかし、突如として咆哮に空気が引き裂かれた。

 

「あれは……!」

 

 ブロックノイズを伴う黒い亀裂が空間に走る。その内側から現れたのは全長20メートルに達するワームだ。顔面は存在せず、ただ丸い口が空いて鋭利な牙がズラリと並ぶ。滅多に現れない異形型だ。ワームは口から破壊的なNEΦNのブレスを吐き出し、再びブロックノイズを伴うワームホールに消える。

 

「実体化とデジタル化を瞬時に切り替えられるのでござるか」

 

「厄介なのが出てきましたわね」

 

 虚空から出現したワームがユニを狙って襲いかかり、地盤を大きく抉りながら迫る。ホオズキは咄嗟に前に出てNEΦNで形成した手裏剣をワームの顔面目掛けて投擲する。しかしそれはワームの表面を浅く切り裂くだけに留まる。

 

「パワーが足りてないですわよ!」

 

 今度はライカが前に出て一気に飛び上がり、空中で身を捻って手にしたハルバードをワームの首元目掛けて振り下ろす。しかしワームは咄嗟に身体を捻り、ハルバードを回避すると再びワームホールを展開してそこに隠れる。

 

「ドンマイって言っておくでござる」 

 

「かなり腹立たしいですわ……!」

 

 ライカは美しい顔立ちに似合わず鋭い牙を剥く。

  

「ニューラル症患者たちのNEΦNを取り込んで強化されているようですね」

 

「手強い相手です。あれだけ動き回られてしまったら周辺の被害も甚大になります」

 

 クオンが弓、ミエルが槍で応戦するが、ワームのNEØNシールドによる防御は硬く、中々ダメージは与えられない。

 

「認めたくありませんが我々の戦力だけでは厳しいですね」

 

 コルニスも素早い動きでワームの懐に入り、ランスを刺突するが弾かれる。

 

「情けねぇな! 怖気づいたか?」

 

 コルニスと入れ替わりでリュウエンが偃月刀をワームの腹に叩き込むが、硬い外殻で弾かれてしまう。

 

「そういう貴様も足が震えているぞ?」

 

「ばっ、馬鹿オメェこれは武者震いだよ」

 

「なんだい情けないね。小夜啼組(サヨナキグミ)の用心棒の名が泣くよ」

 

 すると頭上から凛とした声があった。

 

「――お頭!」

 

 全員が顔を上げるとそこにはNEØNで形成した足場で空中に留まるオウカの姿があった。

 

「アタシたちオルトはNEΦNの感知能力が高いだろ。なら頭を使うんだ」

 

 オウカはトントンと人差し指でこめかみを叩く。

 

「アタシが上からあの芋虫モドキが出現する予兆――あのブロックノイズが発生したのを察知して念話で指示を出す。アンタたちはそれに従って攻撃すりゃいい。ガキの使いよりも簡単さね」

 

「承知したぜ!」

 

「なるほど。共通の敵を倒すためこちらも協力しましょう」

 

 リュウエンとコルニスが最初に動き出す。

 

「まずは広く展開しましょう」

 

「ええ。あの魔物を確実に包囲します」

 

 クオン、ミエルも味方とある程度距離を保って分散。他のNEXASたちも同様だが、比較的単体の戦力が弱いため彼らは二人一組で固まることを選択。  

 

「しかし確実に一人一人が的確に攻撃しないと駄目というわけでござるな」

 

「忍者のあなただと決定力に欠けるんじゃないですの?」

 

「心配御無用、忍の武器には爆弾もあるでござる」

 

「なんでそんな物騒なもの持ち歩いてるんですの??? 『ホークアイ』とかでしか使われないような軍用ですわよねそれ」

 

 おもむろにホオズキが取り出したNEØNグレネードを見てライカが少し引く。

 

「なんかドキドキするねぇ!」

 

「……しくじらないでよニコ」

 

「まぁニコがやらかしたらフォローするから」

 

 そわそわしているニコにルナとビルの屋上にポジショニングしたセレンが目配せする。

 

「ちょっとふたりともー! アタシに対する信頼低すぎない!?」

 

(ニコ! 3時の方向!)

 

 上空のオウカから念話で指示があった。念話は彼女の五感の情報も伴っており、ニコは直感的にワームが何処に居るのか直接目で見なくても理解した。

 

「そこっ!」

 

 ニコは身を捻り、『ネコマタ』のガトリング砲をワームの横腹に浴びせる。しかしワームの肉体は柔らかそうな見た目に反して硬い黒結晶状の装甲に覆われており、更に全身から発せられるNEΦNシールドで大幅にダメージを軽減させられて決定打にはならない。

 

「ニコ! 深追いはするなよ!」

 

 セレンがニコのカバーのために狙いを定めて『メテオストリーム』の引き金を引く。NEΦNシールドに対する貫通力を重視してNEΦNコーティングしたライフル弾だ。直撃すればダメージは期待できる。しかしワームは身を捩ってギリギリのところで直撃を免れ、セレンは舌打ちする。

 

「……動きを止めてみる!」

 

 ルナが両腕に装備した『ファミリア』を射出し、2機の『ファミリア』は4本のマニピュレーターを展開してワームに取り付く。

 

「重すぎる……!」

 

 ルナは踏ん張り、『ファミリア』も唸りを上げてマニピュレーターの馬力を強めるがワームの圧倒的な力の前には及ばず『ファミリア』はふっ飛ばされてしまう。

 

「焦らないで! 確実にダメージを稼いでいきましょう」

 

(クオン! 来るよ!)

 

「早速来ましたね!」

 

 クオンは正確な射撃で弓を発射するとワームの背中に矢が刺さり、直後に爆発。

 しかし決定打には至らない。

 

「ミエル!」

 

「わかっていますクオン!」

 

 ミエルはすれ違いざまに槍の連撃を繰り出す。しかし奥深くまでは刺さらず、ワームの速度は落ちない。

 

「これでも決定打にはなりませんか……コルニス様! リュウエン様!」

 

「ここで確実に叩く!」

 

「オラァ! くたばりやがれ!」

 

 続けて直上からリュウエンがワーム目掛けて偃月刀を叩きつけ、コルニスもランスを一気に突き入れる。

 しかしふたりの強力な一撃もワームは耐えきる。

 

「仕留めきれませんでしたか……!」

 

「悪い頭! しくじっちまった!」

 

「いや、上出来だよ」

 

 オウカが対の扇を大きく扇ぐ。すると扇の内部から膨大なNEΦNが吐き出され、それらが燃え盛る紅蓮の鳳凰を形作る。鳳凰は大きく嘴を開き、一直線にワームに突っ込み、全身を焼き尽くす。

 

「やった!?」

 

「それはフラグだよ」

 

 ニコに対してオウカの顔は渋い。

 

「あの蟲、どうやら隠し玉を持ってたようだね。第二形態ってやつだよ」

 

 一面に広がる煙の内側から突如として全方位にNEΦN砲が放たれた。

 

「ひぃいいいい!?」

 

 ニコは身を捻りビームの1本を回避し、更にチェーンソーのブレードで2本目も躱す。ルナも同様に『ファミリア』のナックルガードでビームを防ぎ、セレンは励起したNEΦNを詰め込んだ拡散弾を発射して周辺に高エネルギーのNEΦNを減衰するフィールドを展開して凌ぐ。『小夜啼組』、『ストークファミリー』も同様に的確に防御や回避を選択。しかし他のNEXASたちの中には回避も防御も追いつかないものがちらほら見受けられたが、彼らはオウカが扇から生み出す炎の風で守られる。

 

「取り敢えず全員無事みたいで何よりだね」

 

 オウカが目を細めて煙の向こうで蠢くシルエットを注視する。煙が晴れ、姿を現したのは大量の脚を持つ刺々しいシルエットのムカデのようなNO-IDだった。

 

 オウカは扇から全長20メートルに達する巨大な炎の翼を展開し、一気に扇ぐ。翼から炎の羽毛が放たれ、それらは高速でムカデに突っ込み、その全身を炎で包む。

 

 しかしムカデはNEΦNのシールドで即座に炎を消し払い、口から高出力ビームを放ち、オウカを撃ち落とさんとする。オウカはその攻撃を空中で身を捻って難なく躱し、一気にムカデに距離を詰めると扇でムカデの横腹を切り裂く。

 

「再生が早いね!」

 

 オウカが舌打ちする。

 彼女が刻んだ傷をムカデは即座に修復し、無数の足による斬撃を次々に繰り出し、オウカはそれらを全て回避や扇によるガードで凌ぎ切る。

 

「拮抗してるか!?」

 

「いや、かなり有利だ。オウカさん側の攻撃をムカデ野郎も防御や再生で凌ぐのに精一杯であの厄介なデジタル化による離脱と出現の戦法が使えなくなっている」

 

「ユニコーンの坊やはうちのリュウエンより頭が切れるじゃないか」

 

「恐縮です」

 

 コルニスがランスでのたうち回るムカデを縫い留め、リュウエンが偃月刀でムカデの腹を大きく抉る。ムカデは尚も抵抗し、足をばたつかせてコルニスとリュウエンを切り刻もうとするが、咄嗟にクオンが放った矢が複数の足を千切り飛ばし、ミエルの十字架型の槍がリュウエンの刻んだ甲殻の亀裂に突き刺さり、傷を広げる。遂に煌々と青く輝くコアが露出した。

 

「パンクロウラーズの皆様お願いします!」

 

「セレン! ルナ! 援護お願い!」

 

 ニコはふたりの返事を待たず、猫のような俊敏さでムカデの懐に一気に入る。ムカデの足が四方から襲い掛かって来るが、ルナの『ファミリア』が突っ込んでそれらを粉砕し、露出したコアを守ろうと複数のNEØNシールドをムカデは展開するが、セレンの放った弾丸がそれらを一気に砕く。

 

「おりゃあああああああああっ!!」

 

 ニコは一気に『ネコマタ』を振り下ろす。エンジンが咆哮し、一気にコアを噛み砕かんと刃が回転する。

 しかしムカデの反応は予想だにしないものだった。

 

 ニコのチェーンソーがコアに触れる寸前、一気に外殻がずるりと崩壊し、中から複数の羽根を持つ細身の本体が飛び出した。全長3メートルほどのそれはスカイフィッシュのような見た目で、非常に機敏でニコの攻撃を紙一重で躱した上、オウカの炎の嵐の包囲網も離脱する。

 

「まだ隠し玉を持ってたのかい!」

 

 オウカも驚愕を禁じ得ず、己の判断の甘さを痛感する。

 

「まずい! 街に向かってる!」

 

 スコープを覗くセレンが忌々しげに報告する。スカイフィッシュは不利と判断したのか、一目散に市街地へと向かい、逃げまどう市民に襲い掛からんとする。

 

「速過ぎる! 追いつけねぇ!」

 

「このままでは……!」

 

 リュウエンとコルニスが疾走するが、スカイフィッシュとの距離は遠ざかる一方だ。

 もはや状況は絶望的かとその場に居た全員が最悪の未来を予感する。

 しかし、

 

「――やめて!!」

 

 ユニが突然走り出した。

 あまりにも唐突な行動に傍らに居たホオズキとライカは反応が遅れてしまう。

 

「おやめなさいユニさん! なんの力も持たない貴女では!」

 

 血相を変えて引き戻そうとするライカだが、彼女は動きを止めてしまった。

 何故ならば市街地を目指していた筈のスカイフィッシュが反転して今度はユニの元に迫ってきたからだ。

 

「何故標的を変えたでござる!? まさかヤツは……」

 

 ホオズキはようやくひとつの可能性に行き着く。

 

「何故私たちの前に強力なNO-IDが現れるのか疑問に思っていましたが、彼らも私を追い求めていたんですね」

 

 ユニは確信して告げる。

 しかしそれは、

 

「――自殺行為だよ!!」

 

 オウカが炎の壁でスカイフィッシュの行く手を阻む。

 しかしスカイフィッシュは全身を焼き尽くされることも意に介さず、丸焦げになりながらユニの目前まで迫る。

 

「ユニ!!」

 

 ニコが悲痛な声を上げ、ルナは茫然と立ち尽くし、セレンは思わず顔を背けてしまう。

 しかし、

 

「……私の命に代えても貴女を犠牲にしない」

 

 消え入りそうでいて、芯のある声があった。

 ユニはぎゅっと閉じた目を開ける。

 そこに居たのは、

 

「リリアさん……!」

 

 名前を呼ばれたリリアは振り返り、力なく笑みを浮かべる。

 彼女は小さな身体で漆黒の棺桶を盾としてスカイフィッシュの突進を防いでいた。

 

 スカイフィッシュが怒り狂ったように金切り声を上げ、羽根を振動させてNEØNの光弾をいくつもチャージするが、棺桶がスライド展開し、内部から高純度のNEØNを大量に含んだ赤黒い液体金属が溢れ出る。粘り気のあるそれは主人であるリリアの意思で完全に制御され、不定形から2メートル近く達する一本の槍に変形すると、リリアはそれを一気にスカイフィッシュの開いた口に突っ込ませた。

 しかしスカイフィッシュは喉の中でNEØNシールドを多重展開し、リリアの槍をガードすると、続けざまに全身に走る青く光る回路状の線から無数のビームを照射した。

 

「貴女は私たちの希望よ……」

 

「リリアさんっ!」

 

 するとリリアはユニを突き飛ばし、ビームを一身に受けると彼女の小さな身体は吹き飛ばされ、数メートルほど地面を転がる。

 

「リリア!」

 

「リリアさん!」

 

 オウカとニコがリリアの元に駆け寄る。オウカがリリアを抱き上げると液体金属で何とか直撃を免れたようだったが、彼女は息が絶え絶えで、体温は冷たく、全身に走る青い回路状のNEØNの輝きはおぞましく強い。

 オウカの背筋に冷たいものが走る。

 しかし無慈悲にもスカイフィッシュは茫然と座り込むユニに迫る。

 

「うわぁぁぁああああああ!!」

 

 ニコは『ネコマタ』でスカイフィッシュの噛みつきを防ぎ、その場で持ち堪える。

 

「ニコ! 耐えてくれ!」

 

「……このチャンスは無駄にしない」

 

 セレンがライフル弾をフルオートで連射し、スカイフィッシュのシールドを消耗させ、ルナがビットモードの『ファミリア』でスカイフィッシュを左右から挟み込み、ニコから引きはがそうとする。

 それでも尚スカイフィッシュは激しく抵抗し、全身から再び光弾をチャージする。

 

「させません!」

 

 クオンが即座に複数の矢を一斉に射出し、光弾を掻き消す。しかし半分は残るが、

 

「主よどうか……!」

 

「いい加減に止まるでござる……!」

 

 ミエルとホオズキが投擲した槍とクナイが残りの光弾を落とす。

 

「合わせろキザ野郎!」

 

「貴様こそ遅れるなよ!」

 

 リュウエンが偃月刀でスカイフィッシュの胸部の外殻を大きく抉り、コルニスが露出したコア目掛けてランスを突き出す。

 しかし再びスカイフィッシュは多重シールドを展開してランスを弾き、新たに生み出した光弾でコルニスとリュウエンを吹き飛ばした。

 

「畜生が……ッ!」

 

「あと一歩のところで……!」

 

 悔しそうに吐き捨てるリュウエンとコルニスだが、

 

「野郎ども『小夜啼組』の意地を見せろ!」

 

「俺たち『ストークファミリー』も続け!」

 

 遠距離からサポートしていた両クランの一般NEXASたちが我先にと殺到し、各々の手にした武器でスカイフィッシュを袋叩きにする。あれだけ硬かったNEØNシールドも徐々に減衰し、じわじわとコアにダメージが蓄積されていく。

 

「――まずい! みんな逃げて!」

 

 突然スカイフィッシュを抑えていたニコが慌てて叫ぶ。

 直後、スカイフィッシュの全身が青白い光を放った。

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