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3-3

「それじゃそろそろ帰ろうか。これから道も混むし」

 

 ニコがそう言い、バイクとワゴン車を停めてある場所へと向かう。

 

「パンクロウラーズの方々ですね?」

 

「話があるでござる」

 

 その時彼女らの背後から静かな声がかけられ、4人は足を止めて振り返るとフードを深く被った巫女装束の女性と、同じくフードを被ったござる口調の和風の黒い装束の女性が立っていた。

 ニコはいつものように得意満面な表情になった。

 

「そうだけど……あ、もしかしてアタシたちのファン!? サイン欲しい!? いいよあげるあげる!」

 

 どこからかサイン色紙とマーカーを取り出すニコに巫女装束の女性は、静かに首を振った。

 

「あ、いえそうではなく……」

 

「あなた方に依頼をしに参ったのでござる」

 

 その横から忍者のような印象を与える全身黒尽くめの尼僧が一歩前に出る。

 

「依頼? それは一体どんな内容だい?」 

 

 怪訝そうに尋ねるセレンに巫女は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「申し訳ありませんがかなり複雑な事情ゆえに今この場では詳しい内容についてはお話できません」

 

 ニコは腕を組み、プロとしての姿勢を見せる。

 

「うーむ。アタシたちの立場としては、依頼の内容を精査してからじゃないと受注できないというか――」

 

 ニコが言葉を言い終わる前に、尼僧が突然地面に両手をつき、深々と頭を下げた。

 

「そこを何とか! この通り!」

 

 ニコは慌てて手を振った。

 

「土下座!? ちょっと頭上げてよ! これじゃあアタシたちが悪者みたいじゃん〜! こうなったらこっちも土下座しちゃうもんね! DOGEZAバトルだよっ!」

 

 ニコは黒装束と同様にアスファルトの地面に膝をついて額を擦り付けた。

 

「これは……美しい姿勢ですね。弛まぬ鍛錬が見てとれます」

 

 スカーレットらに対する借金の返済期限の延長を頼むので培った美しい土下座にクオンたちも思わず感嘆する。

 

「でも、困っているようですし、協力してあげたいですね……」

 

 ニコの奇行に早くも慣れてきたユニは"DOGEZAバトル"をスルーしつつ、協力したいという気持ちが募った。

 一方でセレンはユニの優しさを理解しつつも冷静だった。

 

「その気持ちは分かるけど犯罪の片棒を担がされるリスクもあるわけで……って、ルナ?」

 

 セレンが顔を向けた先には、気配を消していつの間にか一人遠くへ移動していたルナの姿があった。声を掛けられ、びくっと肩を震わせた彼女は、

 

「……わ、私は降りる」

 

「えー? まだ詳しい内容は聞いてないし、そんなつれないこと言わないでさぁ……って逃げ足はやっ!?」

 

 立ち上がったニコは不満そうに抗議するが、ルナは既に踵を返し、人混みの中へと走り出していた。

 

「お、追いかけましょう!」

 

「おい、ルナ待てよー!」

 

 ユニが慌てて追いかけ、セレンも叫んだ。

 

「ちょっ……私のことは放っておいて……!」

 

 ルナは振り返りもせず、悲鳴のように叫び、巫女と尼僧は顔を見合わせた。

 

「全く困りましたね。私たちの正体に勘付かれてしまったようです」

 

「なるべく穏便に済ませたかったでござるが」

 

 ふたりは一気に動き出した。

 追手が近づいていることを察知したルナは、路地の角を曲がりながら、低い声で叫んだ。

 

「くっ……『ファミリア』!」

 

 ワゴン車の荷台が自動で開き、そこから二機のビットが射出された。

 ルナは狭く複雑に入り組んだ路地裏に逃げ込みつつ、追手二人に対してビット『ファミリア』を展開し、オールレンジ攻撃を仕掛ける。

 

「昔より腕が立つようになったようですね」

 

「しかし動揺で操作が甘いでござるな」 

 

 巫女はルナの進化に驚きを覚えた。しかし尼僧は冷静にルナの弱点を見抜いていた。

 

 追手二人は、ルナの操る『ファミリア』のNEØN砲による攻撃を次々と回避し、徐々にルナとの距離を詰めていく。

 

 ニコは、戦いに発展したことに困惑し、大声を張り上げた。

 

「ちょっとちょっとー! バトルはやめなさーい! 刀中毒のリクを呼ぶよ! あいつホークアイのくせに刀好きすぎて、斬るものを常に探してる不審者だから!」

 

 ニコは10課の最終兵器の名前を出して威嚇する。

 

「ニコも落ち着いて――話せばきっとわかってもらえるはずです」

 

 ユニは、何とか事態を収拾しようと、ニコを落ち着かせようとした。一方でセレンは元ホークアイということで冷静に戦闘を見極めようとしていた。

 

「私たちの立場としてはルナを援護するべきなんだろうけど、彼女たちにも何か深い事情があるっぽいし、どうするべきか……」

 

 その間に尼僧がルナを追い詰めた。

 

「そこは行き止まりでござるよ! 観念するでござる!」

 

 ルナは薄く笑みを浮かべた。

 

「……甘い」

 

 尼僧はルナの表情の変化に気づき、ハッとした。

 

「むっ! これは罠!?」

 

 飛び出した尼僧の真横には、路地の角に設置されていた『ファミリア』が一機、ちょうどNEØN砲を発射しようとしていたところだった。直後、強烈な閃光が薄暗い路地裏を満たし、粉塵が舞い上がる。

 見た目こそ派手だが威力は非殺傷レベルに抑えられている。しかし強い衝撃と閃光によって直撃を食らえばしばらく動けないのは確かだ。

 

「……まずはひとり」

 

 ルナは、冷たい声で呟いた。

 

「ホオズキ!」

 

 巫女は動揺し、仲間の名前を叫ぶ。

 

「……よそ見をしている場合じゃないよ」

 

 ルナはその一瞬の隙を見逃さず、逃走から一転して一気に距離を詰める。

 

「くっ――」

 

 巫女は咄嗟に背中にマウントしていた折り畳み式の弓を手にするが、迎撃は間に合わなかった。

 一気に懐に入り込んだルナの右腕に装備された『ファミリア』のパンチをまともに食らい、巫女の身体は一気に吹き飛ばされてしまった。

 

「……ふふふ。油断したね。私の武装が近接用にもチューンされていることに気付かないなんて」

 

 勝利を確信したルナはドヤ顔を浮かべる。

 

「そこまでだぜ、お嬢」

 

 直後、ルナの背後に何者かが現れた。

 

「っ!?」

 

 咄嗟にルナは『ファミリア』を振り上げつつ振り返るが、その人物はルナの迎撃を華麗に受け流すと裏拳で『ファミリア』をはたき落とし、足で2機纏めて踏みつけ、動きを止めるとそのまま小さな体を抱きかかえた。

 

 龍の刺繍が入った中華風のジャケットを羽織り、サングラスをかけた青年だ。その額からは、二本の龍の角が生えている。

 

「……は、離せ〜!」

 

 ルナはジタバタと青年の腕の中で抵抗するが、その拘束はびくともしない。

 

「よくやりましたね、リュウエン」

 

 青年をリュウエンと呼ぶ巫女はフードを下げ、安堵の表情を見せる。明るめの長い茶髪に、狐の耳が現れた。

 

「できればもう少し早く来てくれれば助かったでござるがな」

 

 粉塵の中から出てきた無傷の尼僧が不満そうに言う。

 彼女もフードを下げ、短めのポニーテールにした黒髪の前髪から鬼の角が生えていた。

 

 リュウエンは、ルナを抱きかかえたまま、軽く笑った。

 

「下手に動けば勘付かれるだろ、クオン、ホオズキ。とにかくこれで頼まれた仕事は半分完了だな」

 

 ルナは驚きと屈辱に声を荒げる。

 

「ふたりとも無傷……!?」

 

「NEØNを操作してホログラムによるデコイを投写していたんです。まさかこんな見え透いた罠に引っかかるとは思いませんでした」

 

 クオンは種明かしをする。

 

「流石だな。私も一瞬騙されそうになったよ」

 

 セレンも彼女の技術に素直に感心した。

 

「そっちのくノ一のお姉さんは?  NEXAS使った感じ?」

 

「いや、拙者の場合は普通に修行で身に着けた変わり身の術でござる。他にもこんな風に――」

 

 ホオズキが突然白い煙に包まれたかと思うと、彼女はニコのすぐ後ろにいつの間にか瞬間移動していた。

 

「すごっ!? マジでニンジャじゃん! ニンニン!」

 

 フィクションのニンジャのような芸当を見せるホオズキにニコは興奮を隠せない。

 

「あ、あの……まずはルナが捕まっているので助けないと……」

 

 ユニは控えめに今の状況をニコに思い出させた。

 

「そうだった! ルナー! 大丈夫〜? ヘイ、そこのお兄さん! うちのルナをさっさと解放しないと許さないぞ〜?」

 

 ニコが指をパチンと鳴らすと、遠くで「にゃーん!」という鳴き声と共に駐車しているソニックのパニアケースが展開され、その中に収納されていたマゼンタカラーの複合兵装――ガトリング砲とチェーンソーが合体した『ネコマタ』が、NEØNフィールドの力場でひとりでに浮かび上がり、そのまま念動力のごとくニコの手に届く。

 ニコはキャッチした兵装をリュウエンに突き付けた。

 

「おいおい待ってくれ。俺たちはそんなつもりじゃない。さっきこいつらが話した通り、アンタたちに頼みたい依頼があるのさ。それにはお嬢も不可欠だ」

 

 彼は敵意がないことをアピールするように、片手を上げた。

 

「お嬢って……ルナ、この人たち知り合い?」

 

 リュウエンに片腕で抱えられているルナはぷいと横を向く。

 

「……知らない」

 

「やれやれ。相変わらず強情でござるな」

 

「ルナ――彼女は私たちオルトたちが集まるコロニーの出身なのです」

 

 クオンはルナの素性を明かした。

 

「車を停めてある。詳しい話はそこで話そう」

 

「……離せ〜!」

 

 ルナは抵抗を続けたがニコ、セレン、ユニは顔を見合わせる。

 ひとまずルナが確保されているということもあって彼らに従い、詳しい話を聞いてみることにした。

 

 Ø

 

 リュウエンが運転する車両は、いかにもセレブが乗りそうな特注のリムジンだった。

 黒い艶のあるボディには、金色で羽を舞い散らせる鳳凰が豪奢に描かれており、陽光を反射してきらびやかに輝いていた。

 

 車内は驚くほど広く、後部側のL字型のソファにパンクロウラーズの四人が並んで座った。向かい側には、左右にそれぞれクオンとホオズキが座っている。

 長いテーブルには人数分のグラスとジュースやお茶のボトル、そして様々なお菓子が所狭しと並べられていた。煎餅や饅頭といった和風のものだけでなく、クッキーやひとくちサイズのケーキ、チョコパイなどもカバーされており、客の好みを細やかに考慮した心遣いが感じられる。

 

「ほらルナ、機嫌直しなよー? サンダーボルトチョコあげるから」

 

 豆煎餅をバリバリと齧るニコはココア風味のクランチをチョコレートで固めた人気のお菓子を未だにそっぽを向いているルナの口に突っ込む。

 

「……はむはむ」

 

 ルナは抵抗せず、そのまま咀嚼した。

 

「ほらエナドリもあげよう」

 

 セレンも備え付けの小型冷蔵庫から出してもらったエナジードリンクの缶のプルタブを開け、ストローを突っ込んでルナの口に近づける。

 

「……ごくごく」

 

「クッキー食べます……?」

 

 ユニも恐る恐る、クッキーをルナの口元に差し出した。

 

「……さくさく」

 

「わぁ〜かわいいです〜」

 

 不貞腐れた様子でありながら素直に食べ物を受け取るルナを見て、ユニは安堵したように微笑んだ。

 

「仲睦まじいようで何よりだ、お嬢」

 

 運転席からその様子を見ていたリュウエンが、バックミラー越しに声をかける。

 

「……ふん」

 

 ルナは口の周りについた食べかすをウェットティッシュで拭うだけで、まともに返事をしない。

 

 ユニは、この三人の出現によって露呈したルナの過去に興味を持った。

 

「ところで気になっていたんですが、ルナとみなさんはお知り合い……なんですよね?」

 

「ええ。妹のような存在です。しかし4年前に何も言わず出ていってしまい……よよよ……」

 

 クオンは、巫女装束の袖を口元にやり、時代劇のような大袈裟な仕草で嘘泣きを始めた。

 

「全く、我らが主君がどれだけ心配していたか理解してほしいところでござるな。『不安で夜しか眠れない』と常々話していたでござる」

 

 ホオズキも腕を組んでややご立腹の様子だ。

 

「夜に快眠できてるのならいいのでは……?」

 

「ふふふ、ツッコミ感謝でござるユニ殿。主君は愉快な方であるゆえ」

 

 ユニの素朴で的確なツッコミに、ホオズキは親指を立てて見せた。

 ホオズキのござる口調からも、彼女自身もまた、主君と同じく愉快な性格であることが窺える。

 

 リュウエンは、冗談めいた二人に代わり、真面目な話に軌道修正した。

 

「まぁ、家出みたいなもんさ。うちの"カシラ"の指示で無理に連れ戻す真似はしなかったが、なんせ事情が事情なもんでな――」

 

「……事情ってもしかして……」

 

 "事情"という言葉を聞いた途端、ルナの顔色が一瞬にして変わる。

 

 クオンは茶番を止め、真剣な眼差しでルナとパンクロウラーズの面々を見据えた。

 

「はい。我々『小夜啼組(サヨナキグミ)』と、ライバルにして同盟関係を持つ『ストークファミリー』の危機です」

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