二週間
——放課後
三人が集まり勉強会が始まる。
教室は丁度一時間後に閉まり部活動以外は下校になる。
タイマーとしては十分だ。
講師は鹿島さん、生徒は自分と福羽。
二学期中間の学年五十位を目指して、二〜三十位を取りに行ける勉強が叩き込まれる。
「なあ柊、目標って一番上だよな?」
「1番上かは……でも上の方に設定するな」
「でも詩華ちゃん、1番下に持ってきたな……」
「うん……最低ラインってはっきり言われたな」
「ハイハイ、時間ないからサクサク進めよう〜」
元気な鹿島さんと対照に自分と福羽は、もうげっそりしている。
「二人共大丈夫よ、目標以上をやれば目標を下回る事は無いよ」
励ましが眩しい、だが言う通りではある。
福羽と目を合わせノートを開いた。
始めはカウンセリングからだった、夏休みの三人でやった課題会以来だ。
「福羽君は変わらず数学に苦手意識があるみたいだから、使う数式を中心に覚えないとね」
「はい!」
「でも、ちゃんと勉強続けてるようで良かった」
「せっかく教わったし、少しずつね!」
どうやら福羽なりにスケジュールの合間で勉強はしていたようだ。
「柊君は……あれから勉強続けてた?」
「う、うん」
「ふふ、底上げされてるよ。今は歴史が苦手みたいだけど……いっそ得意に振り切っても良いんじゃないかな?」
「得意に……?」
「そう、英語や化学は得意みたいだし質を高めて高得点を狙いながら苦手科目は量でカバーするの」
「なるほど……」
夏休みの時もだが、的確に道標を作るのが上手い。
鹿島さんのホワホワしたオーラから一転ピシッと決める姿のギャップが凄い、バンドの時もそんな感じだが、人格が複数宿っているのだろうか。
「鹿島さんはどんな勉強をするの?」
自分達ばかり教えて貰い申し訳ない気がする。
「私は一点二点のミスが勝負だから、ひたすら復習練習かな」
さすが学年三位、勝負してるステージが違いすぎる。
一点勝負なんて自分達では誤差だ。
その僅かな一点の為に全教科総浚いするのだろう、その時間を奪ってしまう事は、やはり申し訳ない。
(何かお礼を考えないとな……)
「柊君?ダメだよ〜集中しないと、一時間しかないからね」
怒られてしまった。
一時間の放課後、案外この長さが丁度良いのかもしれない。
キーンコーン
教室の閉める時間を知らせるベルだ。
「一時間ってすぐだな〜授業と違うなんでだろ」
福羽は伸びをして荷物を纏めている。
「お疲れ様、また明日もだね」
「ありがとう鹿島さん、よろしくお願いします」
残り二週間毎日積めば学内五十位は見えるかもしれない。
そう思いながら二人と別れた。
——つむぎ亭
「ええ〜青春してんじゃーん」
ニヤニヤと笑いながら蓮さんは茶化してくる。
「勉強してるだけです」
自分がキッチンに入るようになって作業を教えて貰いながら、調理を見る。
そんな体制になっているから、キッチンの蓮とよくやり取りをする。
そして……
「優斗、それでテストの点は期待して良いのか?」
父も混じる。
十年間外からしか見えなかったキッチンが、更に色付いて見えるようになっていた。
父の意向で、いつも父と蓮が居る日にしかバイトは無い。他のスタッフも居るが、一番濃く学べるようにとの事らしい。
こうやって自分に対して勉強や仕事を学ばせてくれる友達や家族に感謝だ。
「ところで優斗は今週一杯でテスト休みだろ?」
「うん、母さんがそう言ってたよ」
「ふむ、せっかく名付けて貰ったスパイスボックスの反応見れないのは残念だな」
テスト一週間前に勉強の為、バイトは休みにさせられている。
そして、新作ドリアのスパイスボックスと名付けたメニューはその日から始まる。
確かに残念ではあるが、こればかりは仕方ない。
「まあ俺が優斗君の分もしっかり作るから、良い結果を持っておいで」
蓮さんは背を叩き笑う、蓮さんなりの気遣いだろう。
「まあ、今更だが優斗をキッチンに入れるの早かったな」
父が突然そんな事を言い出した。
「へ?」
「ああ、変な意味じゃ無い、テスト終わってから心機一転スタートでも良かったなと言う意味だよ」
「ああ、そういう事」
一瞬キッチン入りが失敗と言われたかと焦ってしまう。
(今失敗扱いされたら……悔しいだろうな)
悔しい、その感情は自分にとってこの場所が大事な場所になっている。
(そうか、やっとつむぎ亭のキッチンに立ったのか……)
幼い頃から見ていたキッチン、危ないからと遠ざけられていたが、ようやく自覚をした瞬間だった。
「目標は最低ライン、最低ラインを越える力を付けろか」
「ん?優斗どうした?」
「なんでもない」
ずっと見ていた父の背を間近に、少し近づいたのかなと思った。




