最低ライン
——昼休み
鹿島さん、福羽が集まり一緒にお昼を学食で食べる事になった。
何気に三人で学食は初めてだ。
それぞれが注文した物を取り席に着く。
「まずは、鹿島さんライブお疲れ様でした」
「お疲れ様でした!詩華ちゃんも皆も凄かったよ」
福羽と二人で褒め称える、流石に照れ模様だ。
「とりあえず成功で良かった〜何度か出させて貰ってるけど毎回新鮮だね〜」
「何度かって……いつからやってるの?」
「ライブは中学からだよ〜トオルさんはお父さんの後輩だったからそのツテでね」
中学生からあのステージに立っているとは、遠い存在に思える。
「詩華ちゃんライブ以外にもピアノコンクール出たりもするんでしょ?忙しすぎじゃないか……?」
「え?まじで?」
「うん、トオルさんから聞いた」
「もう〜トオルさんったら私の居ないとこで〜そんな凄いものじゃないよ、やりたかった事を詰め込んだらそういうスケジュールになっていくだけよ」
へらっと笑って言うが、それがどれほど凄い事か……
「そんな私の事なんかより二週間後のテストだよ」
「うっ」
「……はい」
まだ一週間前じゃないからとは言わせないオーラに押されて、福羽と共に諦める。
「本当は毎日ガッツリとやって容量を膨らましていくのが良いけど、現実的じゃないからね。今日から毎日一時間放課後一緒にやろっか」
「それは構わないけど鹿島さんは大丈夫なの?」
「今回は一つ上学年二位を狙って一位並の勉強するよ」
「何を言ってるのかわからない……」
「流石にトップ層は二つ三つ先の事やらないと抜かさせてくれないからね〜」
プロスポーツ選手みたいな事を言い出す鹿島さんに福羽も引いている。
だがそれだけ目標が固く決まっているとブレないのだろう。
それが鹿島さんの強味であるのもよくわかる。
「目標かぁ」
「柊は何位とか目標決めるのか?」
「うーんざっくりとしか無かったなぁ、前より上にぐらい」
「まあ俺達はそんなレベルだわな……」
「じゃあまずは設定からだね、お昼食べたら決めちゃお」
お昼を済ませて教室に戻り、前回一学期終えた順位を思い出していた。
「確か……学年七〜八十位くらい?」
「え?柊もか?俺もそれぐらいだったはず」
「一年全体で百六十人くらいだから、二人共丁度真ん中辺りだね」
おそらく平均ラインくらいで良くも悪くない、至って普通だと思っていた。
だが鹿島さんはそうではないらしい。
「ちょっと……マズイかもね」
「え?」
「マズイ?」
「うん、周りがちょっと頑張ればごそっと変動しちゃう位置だよね」
福羽と二人で黙り込む、仰る通りだ。
「逆に言えば一度抜け出せば評価されやすいポジションだし、今回狙っちゃおう」
「でもどこに設定するか目安がなぁ」
福羽が天を仰ぐ、確かにど真ん中平均の自分達にどのラインが狙えるのか見えてこない。
一位を目指す!と言うのは現実離れし過ぎてる、かと言って平均より上と言うのは変動が有り目標が定まらない。
「悩むならキリ番を目指してみようか?」
「キリ番?」
「二人は今八十位として、キリの良い番号を目指すの」
「なるほど……なら五十位か」
「うん、これならイメージが湧いてくるかも」
少し見えた光にワイワイ福羽と妄想を膨らましている。
だが鹿島さんの笑顔が妙に怖い。
「……鹿島さん?」
「詩華ちゃん、なんか怖くないですか……?」
「うふふ、目標五十位って事で二〜三十位を取りに行ける勉強をしましょ」
「ええ!?」
「えっ!?」
笑顔のままでとんでもない事を言い出した。
今五十位と決めたその上を提示してくる。
「詩華ちゃん、それはちょっと」
「福羽君、今決めたのは目標、つまり最低ラインなの。一番上じゃないのよ」
見えた光が一瞬で曇る、だが鹿島さんの言う事に納得する力はあった。
「最低ライン取るなら最低ライン以上の力を大幅に越えておかなきゃ、最低ラインに届かず飲み込まれるのよ。さあ今日から頑張りましょう〜」
昼休みの終わりを告げるベルが鳴り、そこで話は終わってしまった。
ホワホワしているように見えてビシビシいくのが鹿島さんだと、改めて身に沁みる。
(自分……大丈夫かなぁ)
大きな不安を抱えながらテストの日まで二週間だった。




