福羽のバイト願望
どうしても眠くなる夏休み明けの授業も、金曜日まで進んだ。
人間の身体は意外に耐えるものだ。
変な満足感があるものの、それが普通の流れである。
家族経営下の店でバイトしてるだけの自分は、まだまだゆるゆるな暮らしをしている部類だろう。
なんだかんだ部活や習い事、塾に通うクラスメイトが多い。
「柊〜」
情けない声で福羽が来る。
「なんだ?どうした?」
周りをキョロキョロ見渡し誰も聞いていないのを確認した福羽は、コソコソ話出す。
「ライブは明後日、更にその後また詩華ちゃんの家で勉強会……お礼が要るだろう?」
「まあ、そうだけでコソコソしなくても……」
「馬鹿言うな、詩華ちゃん特にライブの事は隠してる……ような気がするから念の為」
確かにライブのと言うよりはバンド活動をしている事、公の場ではここを隠すようなトーンになる。
福羽も気付いている、人のそういった感じに機敏な福羽だ当然かと思える。
「何でかはわからんが、まあそれは良いとして差し入れはあって良くないか?」
「そうだなぁ……じゃあ二人で分けるか?」
「お、話が早いな。じゃあ俺明後日のライブ差し入れ用意するよ」
「それじゃあ自分は勉強会だな、まだ日は決まってないけど」
直近に迫る方を福羽が取ってくれるのはありがたい、バイトもあって動く時間が少ない。
それも見越して福羽から言ってきたのかも知れない、そう言う奴だと分かってきた。
「でも柊は良いよな、バイトすぐに見つかって」
福羽は思わぬ事を言う。
思えば福羽はクラスの中心に位置して、よく見える割に謎が多い。
部活動も入っていないがスポーツ万能、勉強面では自分より少し下だが、あくまで学力の数字上で場の空気を読める回転力は圧倒的に高くコミュニケーションの取り方、人への入り方が上手い。
そんないわば陽キャと呼ばれる側の福羽が、自分のような静かに目立たない者に構うのかわからない。
悪意等は感じないが心の奥底は明かしてない気がする。
ともあれ、今は発言された「バイトすぐに見つかって」と言った事が意外だった。
「……バイト探してたのか?」
「おう、でも近場に条件合うのが無くてな」
「条件?」
「そう、出来るだけ楽しいのが条件」
「なんだそれ……楽しいだけじゃやってけないだろ」
「わかってるって、まああくまで条件と言うか願望だけどな、つむぎ亭は楽しかったぞ?イベント効果もあるが。」
「なんだ?ウチに来たいのか?」
「いやいや、それは人手不足とかなら考えるけど違うだろ?」
やはり福羽は空気を読みながら動いている、一見考え無しに明るいようで凄く頭を使っているのかも知れない。
なんだか少し窮屈さを感じてしまう、本人がもうそれで良いのなら問題はないが……
「親から小遣いは貰ってるけど、バイトしたいのはバイトしたいなぁ〜」
「何でそんなにしたいんだよ」
自分は思った事を聞いてみる。
自分が正式にバイト契約として父の店に入った動機は「お金」だった。
福羽と鹿島さんとのプールに行く為の軍資金。
当初の目的は果たしたので、辞めても良いのだが最近は面白さに目覚めてきている。なので当面は働くが……
「俺がバイトしたいのは、いろんな人と触れ合いたいんだよな」
「触れ合い?」
「そう、ずっと同じサイクルが飽きちゃうからさ。でも働くって関わる事じゃん?やろうとしなきゃ出来ないからよ〜何か良いとこ無いかな〜」
福羽は刺激が欲しいのか?自分とは逆のタイプではあるが、言ってる事はわかる。同じサイクルで機械的に生きるのは面白味が無いと言う事だろう。
「ま、とりあえず明後日のライブ楽しみにしておこうぜ。柊はアントガールズ観たらすぐ出なきゃだったよな?」
「ああ、バイト日だからな……バイト入るとこう言う事も起きるぞ?」
「それはそれ、これはこれ俺は分別が出来るタイプなんだよ〜おっと席帰らなきゃ、じゃあな柊」
なんかかっこいい事を言った風な感じだが、本当に分かっているんだろうか?
チャイムが鳴り響き次の授業に思考が取られ、一旦福羽バイト願望は頭から追い出した。




