イメージに絡め取られて
「優斗もついにキッチンデビューね」
店からの帰り道姉が言い出す。
入りも出も一緒なのは初めての事だ、姉とは四歳差。
これが小学生とかならまだわかる、だが二十歳と十六歳。少し恥ずかしい。
そんな事は気にもしてない姉は語り出した。
「アンタみたいに私も十六でキッチンやったなー、私は天才肌だからすぐ覚えたけど、アンタ少し考えすぎて不器用だから怪我に気を付けなさいよ」
サラッと自分を上げてるのが姉の自信家なところだが、実際やる事はしっかりやるし吸収率が高いので何も言えない、言ったら酷い目に遭う。
「……ああ、気をつけるよ」
「優斗がキッチン入って父さんが喜んでるわ」
「え?なんで?」
「嬉しいものなのよ、蓮さんとスープ仕込みをしてるのをチラチラ見てたもの」
チラチラ見てた父をチラチラ見てた姉、どんな状況だ。
若干呆れはあるが営業中仕込みとは言え、キッチン内に入れて作業に携わるのは初めてだったし、これまでは遠ざけられていた。そう考えると父も大きな決断だったのかもしれない。
「ウチは人手不足って訳じゃないけどスタッフベテラン構成だからね、若手が入るって色々教えたくなるけど我慢もしなきゃならないの、アンタはアンタで吸収するのに精一杯だろうけど皆見てるから安心しなさい」
「いや、別に不安があるわけじゃ……」
「今はね?これから先キッチンやりだすと色々起こるわよ、クオリティとスピードの両立に人との連携が絡むと世界が変わるのよ」
姉が言うのはなんとなくだがわかる気がする。
近くで見ていても最低限の言葉とアイコンタクトで、店全体の連携が取られている。だからこそ安定して料理を出し続けれている。
「なんでもそうだけど一人の力なんて知れてるものよ、頑張っても二倍にはならない、だけど二人三人と連携出来れば三倍にも四倍にも効率が上がるわ」
「姉ちゃんは店をどうしたいの?」
「そりゃ前も言ったけど二店舗三店舗と展開したいわ、まあ父さん母さんを説得しなきゃだけど」
姉の野望は一貫してつむぎ亭を広げる、その根底は店が好きだから。
そこまで想い、実現する為に大学も経営学を学んでいる。
自分がそこまで出来るイメージが湧かない、店は好きだが経営するイメージまで届かない。
そもそも何をしたいのか、何が好みなのか、どんな適正があるのかが見えない。
「姉ちゃんは……いつぐらいから進路と言うか進む道を考えたの?」
「ん?そうねぇ……ずっとよ」
「ずっと?」
「つむぎ亭が生まれた時からずっとね、だって父さんと母さんの店だもん、中学高校から勉強してきてるから当たり前になってるわ」
姉は夜空を見ながら言った。
本当に進む道を決めてやってきたと思える、実際学年トップクラスの成績層に居た、頭は良いのだ。
店が絡むと暴走する癖も好きだからこそだろう。
「……難しいなぁ」
思わず心の声が漏れる。
聞き逃さなかった姉は諭すように言った。
「アンタはアンタなんだから見つけたら良いのよ」
後を追う必要は無い、そう言われた気がした。
この数日で姉の見据えて動く姿、鹿島さんのバンドをしている姿を見て置いて行かれている気になっている。
何故そんなにも真剣になれているのか?
見つけているからだろう。
好きな事、ハマる事。それが原動力に見える。
しかし、見つけるとはなんだろうか?
どうやって見つけたんだろうか?
どうやって好きだと気付けたのか?
疑問ばかり浮かびだす。
まだ出ない答えが浮かんでいないか、夜空の星を見つめてみた。
翌日、昨晩の疑問を隠すようにみっちり暑い中通常授業中の眠気と戦う。
(結構良い事考えてたはずの夜だったんだがなぁ)
高校生の現実は一コマの授業を乗り切れるかだ。
ただ、乗り切ると吸収はまた違う。
テストの点数に直結してくる、結果は数字で曖昧にはならない。
百点なら百点、五十点なら五十点とずらしようの無い評価だからだ。そんなテストの案内が知らされ出して更に気が重くなる。
(頭が良かったら……違うな、要領が良かったらなぁ)
姉が言った考える癖に引っ張られているのかと思える。この考える時間を勉強に当てれば変わるだろう。
と、頭ではわかっちゃいるが……
ぐるぐると結局考える。
「おい、柊、おい!」
福羽が呼んでいた事に気付く。
「なんだ上の空でよ?」
「ん、ああテストとか色々考えててな……」
「……テストなぁ、俺はどうなるんだろう」
福羽も頭を抱え出した、申し訳ない気持ちもあるが個人の受け取り次第なので黙っておく。
「二人共、テスト不安なの?」
頭を抱え出した二人に、鹿島さんが不思議そうに声を掛けて来た。
鹿島さんは学年トップクラス層、バンドでキーボード担当のライブを控えてて、別で習い事のピアノを嗜み……
よくよく考える程に超人かと思えてしまう。
「詩華ちゃん……君は本当に凄い」
福羽が称賛しだす、気持ちは同じようだ。
「福羽君、目が遠いよ……まあ良いとして二人共不安なんだね?」
「まあ……そうだね、鹿島さんは余裕?」
「余裕なんて無いよ〜バンド練習も習い事もあるし必死だよ〜」
ほわほわと言うもので必死さは伝わらないが、個人差か。
「よかったら二人またウチで勉強する?」
「え?」
夏休みの課題会に続いて勉強会……魅力的だが、鹿島さんの時間を奪わないだろうか?
「よろしくお願いします!」
福羽は即返答……コイツは……
「鹿島さんの勉強時間邪魔しちゃわない?福羽と自分二人で足引っ張るよ?」
「良いよ良いよ〜教える事で復習にもなるし、正直一人で勉強ってつまらないでしょ?」
確かにそうである、一人で勉強するに至るまでが重いのだ。
「……よろしくお願いします」
学年トップクラスの秀才に教わる勉強の魅力に負けた。
何かお礼を考えないとな。そんな事を思いながら頭を下げていた。




