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紡ぎ紡がれこの店で  作者: かずや


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温泉旅館と職業病?

 皆が起きしばらくすれば高速出口に差し掛かる。

「高速降りたら別世界よね」

 姉が外を眺めて言う。確かに信号で止まるのを繰り返すし周りの車も流れ方が変わる。

 何より知らない街並みなのだ。

「少し渋滞あったが無事着いたな」

 父は前に見えた旅館を指して「あそこだよ」と示す。

 駐車場に車を停めて荷物を持つ、座りっぱなしで身体が硬いが仕方ない。

 旅館の受付に行き玄関をくぐる、小さめながら結構しっかりした造りの和の旅館って感じだ。

 深い赤の絨毯に、この辺りのお土産品が並ぶコーナーや大きな狸の信楽焼なんか置いている。

 色んな物に目を奪われていると、受付を済ませた父が「優斗こっちだぞ」と呼ぶ。

 中居さんに案内されながら旅館内をキョロキョロしてしまう、思えば和風旅館なんて初めてかもしれない。

 小さな頃の旅行はホテルだった気がするし、修学旅行もそうだ。

「父さん、なんでここにしたの?」

「うん?優斗達大きくなったし大丈夫かなって」

「大きくなったから?」

「ああ、こう言う所はどうしても静かな空間になるからね。動き回る小さな子を抱えては難易度が高いんだよ、優斗は大人しかったけど茜が大変だったからね」

 前を歩く母と姉が話しながら旅館を褒めている、姉は小さな頃からまあまあやんちゃなのは身を以って知っている。父の言った事に納得できる、障子破られでもしたら大変だ。

 中居さんがピタと止まり客室を開け中へと促してくる、入ると見事なまでの和を感じられる部屋が広がる。

「柊様遠い所よりお越し頂きありがとうございます、お疲れ様でした。当館温泉は二十二時までお入り頂けます、柊様お食事はご用意させて頂いても宜しいでしょうか?」

「はい、お願い致します。それとこちらを」

 母は食事用意を受け入れ、流れるまま立派な封筒みたいな物を手渡した。

「姉ちゃん、あれは何?」

「アレは何だったかな……お父さん」

「あれは心付けだよ、要は中居さんへの案内と歓迎ありがとうを込めたチップだな」

「へー」

「へー」

 こういった所ではこんな作法?があるのかと感心する。姉も知らなかったらしいが……

「おや、外見てごらん」

 父が外側の障子を開けると、そこは細長い板間の空間に椅子と小さな机が置いている。更にガラス窓となり外は整備された見事な日本庭園が広がる。

「おぉ、凄いね」

「結構評判良い旅館だから予約取れるか心配だったんだよ、早めに入れて良かったな。」

「ねーお父さん、優斗こっちも部屋あるよ〜」

 姉が襖を全開にしてウロウロしている、畳の部屋だが寝室になるのか?

「茜、探索終わったら荷物入れちゃってよね」

 皆の荷物はその辺りに置いたままだった、とりあえず部屋奥へと集める。

 そうこうして母がお茶を淹れて、皆でまったりした休憩をしていると入り口襖を綺麗な動作で開けた中居さんが来る。

「お食事お運び致します」

 ゆるりと、でもだらしなく感じない所作で丁寧に料理が配膳されていく。

 メニューの説明を添えながら四人分の料理が並べられ「それではごゆっくりと」の綺麗な一声を残して中居さんは戻っていった。

 昼利用したフードコートとは対照的な接客に比率を置き、見事だと思わせる空気作りをされている。

「凄いね〜あの接客姿勢を各部屋時間掛けてやってるんだよね?」

「そうだね、姉ちゃんには難しいよね」

「どう言う意味よ」

「ほら喧嘩してないで食べましょう〜この産地の牛肉ですって」

「ふむ、見事な赤みだ。この牛は育ちが良いし脂も程よい、期待してしまうな」

 各自の目の前にある小さな網で焼いていくスタイルだ、父を参考にすれば間違いないだろう。

「……そんな皆で見ないでくれないかい?」

 母も姉も同じ事を考えてるようだ。

 お肉が焼けるまで小鉢を堪能する、筍の木の芽ソースが美味い。筍ってこんなに味が濃かったか?

「やだ、優斗胡麻豆腐食べてみなさいよ」

「……おぉ、何だこれ豆腐?」

「ほら二人共ステーキひっくり返すぞ」

「良い色してるわね、レアでいくの?」

「この鮮度なら少しずつ変えても良いが始めはレアが良いだろう」

 父は一度ひっくり返したお肉を見て数秒で側面を焼き出した。早すぎないだろうかと思うぐらいだが……

「最初の一切れはこのぐらいの炙るくらいで食べてみると良い、焼き増しは出来るが焼き戻しは出来ないからね」

 皆父に倣い全体を炙った牛肉を作り、添え付けのわさび醤油で一口。

「うまっ」

「さすがお父さん完璧ね〜」

「だってお父さんプロだもの」

 若干照れ臭くなってるような父は「物が良いからだよ」と静かに食べ進めていく。

 用意された物が全て美味い、ホテルバイキングとはまた違う料理の種類で落ち着けるのが良い。

 家族であれはこれはと話しながら、あっという間に食べ終えてしまった。

 見た目以上に量があったのか品目数なのか、お腹が一杯でダラダラしてしまう。

 そうしてると中居さんがまた来て「お済みのお皿お下げ致しますね」と片していく。

 テキパキと、でもやはり丁寧に作業するのが伺える。

「お布団ご用意致しますね」

「はい、お願いします。優斗温泉行こうか」

「お母さん、私達も行こうよ」

「そうね、温泉はロビー挟んだとこでしたかしら?」

「はい、今の時間は男湯が手前に女湯は奥側となります」

 入浴に必要な物を持ち温泉へと向かう用意が始まる、その間で手際良く四人分の寝床をセットして中居さんは速やかに退出していった。

「姉ちゃん、なんかウチと似てると思わない?」

「中居さんの動き?無理無駄が無いわよね、そこに所作が綺麗だから質が高く見えるのよ」

「二人共行くわよ〜」


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