父と車中にて
程なく全員が揃って遅めの昼食が始まる、しっかりラーメンは姉に少し盗られた。
「味噌が被ったわ」
自分で選んだのに今更……
ともあれご当地限定味噌ラーメンを頂く、均一化された味噌ラーメンだ。正直言って不味くは無く突き抜けて美味いわけでも無い、しかしこのサービスエリアで食べるシチュエーションが良い。
(食べる場所って重要だ)
一人静かに納得してラーメンを啜る。
こういった外で家族皆と食事は、市場に海鮮丼を食べに行った以来だ。あそこの味のインパクトを経験しているから、今冷静なのかもしれない。
「お父さんが連れてってくれた海鮮丼また行きたいな〜」
どうやら姉も思いだしていたようだ。
「まあまた皆で行こうか、季節によってネタも変わるし楽しめるよ」
「そうね、優斗今度は福羽君と鹿島さんも連れてらっしゃいな」
「……まあ機会があれば」
二人を呼んで家族の場に混ざったらイジられるのが目に見える。連れて行ってあげたいけど連れて行きたくない想いに挟まる微妙な心。
昼食を終え出発しようかとなる。
運転席に座ったのは父だ、姉はここで交代だ。
「このままホテルまでノンストップで行って十八時には着くかな、お盆だし渋滞次第だが」
「じゃあ私は資料まとめようかな」
「資料?」
「うん、大学のレポートに使うのよ。サービスエリアで見る企業戦略と提供価格、従来のサービスエリア内顧客満足度に繋げる一手とそのリスクとリターンね」
「姉ちゃんちゃんと勉強してるんだな、何言ってんのかわかんない」
「あんた私を何だと思ってるのよ!」
ぷりぷり怒りながらノートパソコンを起動する。
「茜、あなた大丈夫?それ酔うんじゃない?」
「大丈夫よ、新鮮な記憶のままキーワードを少し記録するだけだから」
そこからはパチパチとキーボードを叩き集中する姉になった、間近でこんな姿を見るのは初めてだが頭が良さそうに見える不思議。
「あ、優斗は酔い止め要るかしら?あなたあんまり車乗らないけど」
「あー一応貰っとくよ、ありがとう。……母さん何食べてんの?」
「あら、見つかっちゃった!五平餅があったからついね。何本かあるから欲しかったら言いなさい」
(ゴヘイモチ……?なんだそれ)
バックミラー越しに父が笑ってる。
「母さん、多分優斗は五平餅を知らない」
「え!?嘘でしょ!」
「餅だろうなってのはわかるよ!」
「ほら、これよ」
容器に重なったいくつかの割り箸が刺さった平たいお餅がある、てっきり大福や饅頭のような餡が入ってそうなやつかと思いきや、妙に茶色い。
「良い機会だから食べてごらんなさいよ、落とさないでよ」
母から一本頂く、割と大きな楕円をしていて香ばしい醤油と海苔がひっついてるではないか。
中に餡子とか入ってるのか?
一口齧ってみる、餅の伸びを警戒したがパクッと噛みきれた。弾力のある甘しょっぱい醤油の味と海苔の風味が合うし、しっかり口に残る餅で美味い。
「おぉ、これイケるね」
「でしょ?サービスエリアじゃ結構置いてるのよね、スーパーのやつはミニサイズの玉が並ぶんだけど走りに来たら定番だったのよ」
「お母さんはこれの為に高速乗るくらい好きだからなぁ」
父は懐かしむように言う。
「だってもうルーティンだったんだもの〜この割り箸掴んで齧り付くのが良いのよね」
「母さんの思い出の味って事?」
「思い出……まあそうなるわね〜お父さんがよく買ってくれたのよ」
父と母の思い出の品なのか……しかし、美味いなこれ。
「あ、まず一本にしときなさいよ。大きなお餅だから後から来るわよ」
「うん、わかった」
チビチビモチモチっと食べ進め、昼のラーメンも相まってお腹いっぱいだ。眠気が襲う。
「優斗寝ててもいいぞ、着いたら起こすしな」
「うん、ありがとう。少し寝ようかな……」
意識が落ちていく感覚に包まれ途切れていく……
ハッと覚醒し見渡すと夕日が眩しい、結構寝てしまったか?
運転中の父は変わらず車を操っている、母も姉もぐっすりだ。父だけが静かに運転していたのか、何だか申し訳なくなる。
「……ん?優斗起きたのかい」
「うん、だいぶ寝ちゃったごめん」
「ははは、謝らなくても」
今どの辺りだろうか、見える景色は変わらず高速のトンネルに入ったか。
オレンジの灯りが等間隔で流れてる。
「なあ優斗、少しお願いを聞いてくれるかい?」
父から改まってお願いだなんて珍しい。
「何?なんか要るの?」
「いや、ちょっと確認したい事があってな」
「確認?課題とかは終わらせたけど……」
「うん、優秀優秀!そうじゃないんだ、少し鹿島さんに聞いて欲しい事があるんだよ」
「鹿島さんに……?父さんが?」
「そうだ、連絡先はあるんだろう?鹿島さんのお父さんの真希さんに柊周助を知っているか聞いて欲しい」
どう言うことだ?父が鹿島さんの知り合いかもって事か?
「うん、わかった聞いておくけど何で?」
「名刺を頂いたとは言え、突然電話も失礼だからね」
父はそれ以上は言わなかった、何か繋がりがある……にしたら凄い偶然なんだが。
とりあえず鹿島さんに父からの旨をメッセージしておく、鹿島さんもお盆だし旅行中かもしれない。
メッセージが返ってくるのを待とう。
話し声で母と姉も起きだした。
「ううーん、座りっぱなしは身体が固まるわね〜あらアンタ起きてたの?」
「自分も今起きたばかりだよ」
「お母さんあとどのぐらい?」
「はいはい、えっと……あらもう一時間無いぐらいで着くわ。お父さんありがとうね」
「順調だったよ、ホテルは旅館だから着いたら温泉だな」
「やったー!」
「楽しみねぇ」
「さあラストスパート行くぞー」
車内がまた活気付く、しかし父は何故あんなお願いを?
少し気になりつつ、トンネルを抜けてまた夕日に目を細める。




