ルーツを辿って
駅前を抜け、住宅街に戻ってくる。
途中見つけた自販機で水を買い、近くの公園のベンチに座る。
よく歩いた、そして自分のルーツを辿る散歩になった。
だが、ルーツの始まりは知らない。
これが現実ではある、本当の産みの親を知らずに過ごした事が不幸かと言えばノー。
始めから違った道を歩んで違う人格が形成された自分が居た可能性、これは拭いきれなかった。
環境が違えば人も変わる、今関わっているすべての人々との関係も違うし出会わなかった人もいるだろう。
「……まあ、完全に切り離せないよな」
幸せではあるが無かった事にはならない、本当の両親の死。墓参りで語りかけてくれるのだろうか、無個性な自分を見て落胆しないだろうか。
少しずつ不安は芽吹いていた。
お盆に入りつむぎ亭も長期休みとなった。
「母さんこれで良い?」
荷物を玄関に集め確認を取る。
「ええ良いわ、後はあなた達の一日分の荷物は大丈夫?忘れ物無い?」
「大丈夫……だと思う、最低限服ぐらいでしょ?」
「優斗はまあそうね、問題は茜だけど……」
バタバタと最後に大荷物を抱えて姉はやってきた。
(自分の倍はあるけど何が入ってるんだあれ?)
「茜、最低限にまとめてって言ったのに」
「だって最低限でこれだもん」
悪びれる事無くいっそ清々しい。
母はため息を吐いて諦める。
「もうお父さん車で待ってるし荷物持っていって」
「はーい」
玄関を出ると父は車を開け待機している。
「うわ!茜なんだその荷物!」
「私の最低限だもん」
父も母と同じくため息を吐く。
なんとか荷物を載せきって車に乗り込む、後部荷物席はパンパンだ。
「じゃあ出るぞ」
父の声で出発する、始めの目的地は母方のお墓参りだ。
「お墓参りをしたら次はお父さんの方に向かう予定ね」
「父さんの……自分の父さんと母さんのお墓は遠いの?」
「そうね、一旦今日のお墓参りの後に逆方向行かなきゃだから長旅にはなるわね」
「母さん方の墓は二時間くらいかかるが、そこから八時間は見なきゃな」
なかなかの長旅になりそうだ。だから一泊入れて明日墓参りになると。
「お父さん途中で変わってあげるからね」
「茜……まだ免許取り立てじゃないか」
「だからこそ経験積まなきゃ!ほら初心者マークもあるし!」
姉が少しウキウキしているのは運転が出来るからだったのか、非常に不安がある。
「何よ優斗!不満なの?」
「え、いや、安全運転でお願い……」
母も車は運転出来るのでドライバー問題はなんとかなるが……やっぱり不安要素があるのだ。
しばらくは父の運転で進み母と姉が手持ち無沙汰になる、そうなると厄介な事が起こるものだ。
「ところで優斗、詩華ちゃんとプール楽しかった?水着は褒めた?」
この手の話題に結びつかないよう刺激しないよう沈黙を貫いてきたのだが、車内の逃げ場ない空間ではどうしようもなく詰んでいる。
いつの間にか姉は「詩華ちゃん」呼びだし、母もしっかり乗ってくる。
「あなたが女の子とプールなんてお母さんびっくりだったわ〜」
これまでに家で聞く機会などいくらでもあったはずだが、敢えて今日の車内を待ったのだろう。
「いやいや、二人じゃなくて福羽も居たからね?」
サラッと福羽の事が無かったような事になっているが、誰がどう見ても福羽が鹿島さんに惚れているようにしか見えないのだ。
「福羽が鹿島さんに惚れてそうだよ、そんな気がする」
「え〜光司君は惚れるより惚れさせるタイプよね?お母さん」
「そうよねぇ、天性のコミュニケーション能力だわ〜福羽君人気はスタッフ内でも凄かったしね」
「そうそう、お客さんからも人気出てたしね」
スタッフは仲良くなっていたのはわかる、しかしお客さんにも人気があったのか。
「光司君は純粋さがオーラに出てるから、お客さんも感じるのよね。あんたよりも接客向きだわ」
「いや比べられてもなぁ……」
店のフロアのやり方は経験があったから、教える事が出来る優位性はあった。しかし全くフラットなら確かに福羽のコミュ力は武器だろう。
ちょっと悔しいがそこは認めざるを得ない。
「ふふ、まあ人一人ずつ適正があるんだよ」
父は運転しながら言う。
「違ったタイプが集まるから店が強くなるものさ、もちろん礼儀がある上でだけど」
「ふーん、で詩華ちゃんはどんなタイプなのよ」
しっかり戻してきた姉が面倒すぎる……
行きの車中は根掘り葉掘りと聞かれまくった。
「あら、じゃああんた達二人と詩華ちゃんの三人で選んだ写真立てだったのね」
「あら〜お礼言いそびれたじゃない、優斗今度はちゃんと言いなさいよ」
話は十周年イベントの後にプレゼントしたフォトフレームの経緯についてだった。
「明らかにあんた達男子からは遠いセンスだったもんね、ちょっと不思議だったのよ。」
「確かに中々あんなフレームを扱うお店よく知っていたとは思ったわね〜」
母姉共に納得したようだ、そんなセンスが無いと思われていたのか。
「あれは駅前の欧風雑貨扱うとこを知ってたのが鹿島さんだったんだよ」
「詩華ちゃんと仲良く出来て良かったわね〜」
「姉ちゃん……いいだろもう」
事あるごとにイジってくる姉はもうスルーしてやる、そんな風に決めて窓から外を眺めていると父が口を開いた。
「三人共鹿島さんのご両親に挨拶したんだろう?お父さんはどんな人だった?」
父はキッチンから離れられず挨拶出来なかったなと、あの日漏らしていた。やはり気にしているんだろうか?
「どんな人……うーん上品そうなでも気さくな人かな?」
鹿島さんに似たほんわか雰囲気はあったが、素直に育ちが良さそうなイメージがある。
「確かオーケストラのピアノをやってらっしゃるのよね?」
「あ、お母さんも聞いた?凄いよね〜来年の春から全国周るんだって、プロだわ〜」
姉の中のプロの基準は全国周る事なんだろうか、よくわからないがでも凄いのは間違いない。
そんなお父さんの影響もあるから、鹿島さんはピアノを習っていたのかと納得する。
「……そうか、ピアノか」
父は呟き何かを考えている。
「お父さんどうしたの?何かあったの?」
「ん?いや……ピアニストで全国周るなんて夢だよな」
「お父さん楽器に興味あったっけ?」
「無いよ、聴くのは好きだが演奏なんか考えた事ないね」
「なによそれー」
意味有り気に含みを持したと思えば、父らしからぬ返答の仕方に皆笑ってしまう。
ただ、名刺を渡した時から今までの様子が何かおかしい気がするのは気のせいだろうか?
「ふー少し疲れたな、茜変わるか?」
「良いの!?」
「ああ、後は高速真っ直ぐだし少し慣らしておこう」
「やったー!」
姉が運転するとなり身体が強張る、大丈夫なんだろうか……心配を他所に交代と休憩を兼ねて次のサービスエリアに入る事となった。




